ステータスと強制転移
「よく来てくださいました。勇者様方」
光が止み、声がした方を見ると金髪碧眼の美女が立っていた。すぐそばには玉座らしき場所にふんぞり返り、頬杖をついて一人一人品定めしているかのような視線を向けていた。
「あなたは誰ですか?ここはどこなんですか?」
クラス委員長の宮村啓汰が手を挙げて尋ねた。やはり混乱しているのか矢継ぎ早に質問をした。
「私はこの国の王女、ルミネ・イル・カルドロスです。あちらはこの国の王、ダッグ・イル・カルドロスです。そしつ、ここは勇者様方の住んでいた星とは別の星で、今居るのはカルドロス城です。お願いします。どうか私達を苦しめる魔王を討伐していただきたいのです」
完璧で的確に質問に答えたルミネ。
カイトはなんとなく予想してたのか「あ~やっぱりか」と呟いただけで特に何も思わなかったが周りはそうもいかないようだ。
「ここ地球じゃねーのかよ!」
「ふざけんなよ!」
「地球にかえしてよ!」
「すまない」
玉座から渋い声が響いた。みんながルミネから目を離し、玉座の方を向けばダッグが頭を下げていた。
「其方達を元の星に帰すことができないのじゃ。本当にすまない」
みんなはただ呆然と立ち尽くしている。生気が抜けたように。
「ただ一つだけ帰れる手段があるやもしれん」
この一言に皆の目に光が映った。
「それはなんですか?」
「魔王が持っている魔石と魔方陣を使えば帰れるといわれている」
「みんな、俺はやろうと思う。地球に帰るために。協力してくれないか」
今の言葉に全員が「俺もやってやる!」「私もやるわ!」と口々に言い出した。
「ありがとうございます。それでは私についてきてもらえますか?」
連れてこられたのは、訓練場だった。
「俺は騎士団長のフィルド・ロイターだ。これから渡すボードに血を垂らし、額にかざしてくれ。ステータスを見れるようになる」
騎士甲冑を着ている人達が針と透明な板を渡してきた。躊躇っているのかなかなか皆が針を刺さない。しかし、カイトは何のためらいもなく針を刺して、血を垂らした。
すると、透明な板に血が吸収されたようで色も薄紅色に変わった。それを額にかざすと光の粒子となって消えると同時に頭にフィルドがステータスと言うものが浮かんだ。
カイト シノハラ 17歳 男
Lv1
HP 20/20
MP 20/20
攻撃力 30
防御力 30
敏捷力 30
スキル
固定Lv0 移動Lv0 言語理解
「ステータスは平均で20程度だ。人類最強のステータスで1000ぐらいだ。スキルレベルは0~5だ。上げるためには壁を越えると言われている。確認し終えたら俺に見せてくれ」
どうやらカイトは平均よりかは上ぐらいだ。
クラスメートがどんどんステータスを見せにいっている。見せ終わった後、自信がついたのか互いにステータスを見せ合っている。
固定Lv0
基本効果……触ったものをその場に固定する。
移動Lv0
基本効果……移動が速くなる。
言語理解
どんな言葉も理解できる。読み書きも可能。
自分のステータスを眺めていると一際大きな感嘆の声が響いた。カイトが目を向けるとフィルドに肩を叩かれている宮村が見えた。
ケイタ ミヤムラ 17歳 男
Lv1
HP 100/100
MP 100/100
攻撃力 100
防御力 100
敏捷力 100
スキル
全属性魔法Lv0 剣術Lv0 言語理解
「Lv1でこれは凄いな。期待してるぞ、宮村。」
宮村は少々照れながら「がんばります」と言っていた。それから数人を見た
「お前で最後だな。見せてくれ。」
言われた通り、目の前にステータスを出した。
「これは……」
フィルドが気まずそうに言い淀んでいる。二人の間になんとも言えない空気が流れた。
「おいおい、お前のこのステータスはやばいだろ。すぐ死ぬんじゃねぇか?アハハハハ」
後ろからカイトの肩に腕を回してステータスを見たのは、杉本隼人だ。カイトのステータスを見ながらゲラゲラ笑っている杉本につられて回りに人が集まってきた。必然的にカイトのステータスが目に付く。
「やっぱりあいつは駄目だな」
「ふふ、そんなこと言ったら可哀想でしょ。ふふふ」
「ククク、ダッセェ」
「何だよ、あのステータス。殴ったら死ぬんじゃね?」
周りから蔑みの視線や嘲笑を向けられたカイトは柳に風で何も言わなかった。
勇者一人一人に与えられた部屋のベッドにカイトが寝転がっていた。眺めているのはステータス。スキルを試してみることにした。起き上がり、ベッドの傍にある小物に手を伸ばし、固定と念じてみた。
検証の結果、空中には止められなかった。止められる時間は大きさと込めた魔力によって変わる。大きいほど固定できる時間は短く、魔力を込めると長くなる。
コンコンコン、扉をノックする音がした。時計がないためわからないが、今はおそらく九時頃。何だろうと思い、扉を開けるとそこにいたのは沈痛そうな表情のルミネがいた。
「ちょっとよろしいでしょうか?」
訝しみながらも了承の意を伝えると窓際に置かれた椅子に腰掛けた。カイトは作り置きしていた紅茶を温め、王女に提供した。
「夜分遅くにすいません。カイト様にお伝えしたいことがありまして」
そこまで言うと、一度深呼吸して決心を決めたような瞳でカイトを見据えた。
「実は、この国の貴族や王族が貴方を殺そうとしています。」
「そうか。早すぎるな」
前もって予想していたかのような台詞に驚きを隠せず目を見開いた。
「城の連中の俺を見る視線でだいたい察していたよ。しかし、本当に早すぎるな。」
「驚かないのですか?」
恐る恐ると言った様子で聞いてきた。その質問にカイトが吐き捨てるように答えた。
「心底驚いたさ。てめぇらの勝手な都合で呼び出しておいて殺そうとするんだからな。」
その答えにルミネは顔を青くしながら謝った。しかし、カイトは気にした様子もなく笑いながら伝えた。
「気にするな。王女様はそういうやつらとは別みたいだしな。」
「そう言ってもらえると助かります。それから私のことはルミネとお呼びください。年もあまり変わらないようですし」
「わかった、ルミネ。ところでいつ頃俺は殺される?」
「そうですね。長くて三日。早くて明日の夜でしょう。安全にいくのなら明日の夜までに出ていった方がいいです。こちらに必要な物は入っています。これを持っていってください。」
渡されたのは小さな宝石があしらわれた指輪だった。
「そちらはアイテムボックスが付与された指輪です。収納と念じると中に入り、取り出したい物を思い浮かべれば取り出せます。ただし生き物は入りません」
「こんな凄い物もらっていいのか?」
「はい。せめてもの罪滅ぼしですので」
「わかった。有難く貰っておこう。ありがとな」
「それでは私は部屋に戻ります。」
「あぁ」
ルミネが出ていったのを確認してからもう一度考える。この世界の知識が圧倒的に足りない。おそらく調べられる時間はあまりない。
カイトはどうしたものかとベッドに寝転んだ。ふと外を見ると月が二つ並んでいた。それを見て再確認した。異世界に来てしまったのだと。
そのままカイトは意識を手放そうとした。が、それは乱暴に開けられた扉の音によって防がれた。ベッドから起きて、扉の方を見るとそこにいたのは魔術師のような恰好をした六人だった。
「王より処分命令が下った。よって貴殿はこれより地獄よりも辛い場所へと送られる。今のうちに神に祈っておけ」
ローブに隠れて顔は分からないが声と体付きから女性と判断できる。その女性が何かを握りしめながら呪文を唱え始めた。それに続いて残りの五人も詠唱を始めた。カイトは止められないことを理解したのか諦めたようにベッドに大の字に寝転んだ。
詠唱が終わると同時に勇者召喚のような光がカイトを包み込んだ。
次にカイトが見たのは青々生い茂る草木だった。