プロローグ
辺りが暗く、生い茂る木により視界も悪い。辺りからはガサガサッと音がする。篠原カイトは後ろを振り向かずに足音から魔物を判別した。
「ガァァァ」
四足歩行による独特の足音。獰猛な鳴き声。走る速度。
これらから推測したカイトは狼の魔物だと結論づけた。
カイトは荒々しい呼吸をしながらも口角を上げた。その笑みは、狙い通りだ、と語っていた。
カイトが疲れた振りをして速度を落とすと、魔物はチャンスだと地面を強く踏みしめ、飛びかかってきた。
カイトは横に飛んだ。魔物は悔しげに体勢を崩しているカイトに目を向けた。今のカイトなら容易に仕留められると地面に足をつき、方向転換しようと足に力を込めた。その時、魔物が見た。カイトがこちらに親指を下に向けながら、笑っているのを。
「ガァ!?」
魔物が地面に足をつくと、地面が崩れた。カイトの作った落とし穴だ。
魔物が抜け出そうと四苦八苦しているがなかなか抜け出せない。落とし穴の底には深く泥がしかれ、動きを阻害していた。
「俺の糧になってくれよ、固定」
カイトが静かに魔物に歩み寄ると、魔物に手を当てた。絶好のチャンスだと噛み付こうと口を開け、牙をあらわにした。そして、牙を突き立てようとした瞬間、ビキリと音がするように体が固まってしまった。
カイトがソッと目を閉じ、集中した。
「移動」
「ガァァァ!!!」
カイトの一言に体から何かを無理矢理抜かれる感覚に襲われた魔物が吠えた。カイトは目を閉じ、集中している。殺すなら今だと鈍い体を無理矢理動かし、鋭い爪をカイトの喉笛めがけて横凪にふるう。
魔物は異変に気付いた。今まで何体もの魔物を屠ってきた自分の爪。鋭く、速いはずの爪が遅い。遅すぎる。
カイトが目を開け、魔物から距離をとると茂みから何かを取り出した。それは切れ味を全く感じさせない錆び付いた剣だった。
普段なら体毛が弾いてくれるが、今くらえば間違いなく致命傷になると野生の勘が働いた。少しでも抵抗して、グルルと威嚇しながら爪をふるった。
カイトはそんなの関係ないと切っ先を魔物の眉間に正確に打ち込み、魔物は殺した。
「ステータスオープン」
直後、カイトの目の前に半透明のステータスボードが浮かんだ。
「おっ、レベル結構上がったな。」
カイトはスキルの項目にある二つのスキルに触れた。
固定Lv5
基本効果……触ったものをその場に固定する。
Lv1‥‥半径十メートル内にある物質を固定できる。但し、手で触れるより効果が薄い
Lv2‥‥半径二十メートル内にある物質・非物質を固定できる。
Lv3‥‥空中にある物質・非物質を固定できる。
Lv4‥‥固定したものを動かせる。但し、動かしている時は常に魔力を消費
Lv5‥‥半径五十メートル内にあらゆるものを固定できる。生物を固定することもできるが、レベルに差があると固定できる時間が短縮する。
移動Lv5
基本効果……移動が速くなる。
Lv1‥‥地形に関係なくいつも通り移動できる。
Lv2‥‥足に魔力を込めると、込めた魔力量に比例して移動速度があがる。
Lv3‥‥足に魔力を込めると、込めた魔力量に応じて目視した場所に移動できる。
Lv4‥‥一度行った場所に移動できる。遠ければ遠い程魔力を消費する。
Lv5‥‥触れているものを移動できる。
「俺に与えられた二つのスキル……これを使って絶対生き残る」
カイトが天を仰ぎ見ながら、固く誓った。