表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。

どうして、こうなった?

作者: 雅樹

書きたくなったから書きました。後悔はしてません!←


5/29

陛下の台詞を指摘により変更しました。


6/2、兄の台詞を指摘により変更しました。


2020/09/02

訂正変更致しました。


 ファムナプラ皇国の皇都の北に位置し、広大な土地を利用した皇立ファムナ学園は貴族の令嬢子息や有能な平民が通うことが許される特殊な学舎である。入学基準は皇王によって定められており、毎年皇王の名と王印が入った入学招待状を送った者が入学できるため、学園の入学招待状が届くのは皇国の人間にとってとても名誉なことであり、自慢できることであった。

 

 ファムナ学園は全寮制のため、入学すれば長期休暇以外は生活に困らぬものが揃った学園内で皆過ごし、お互いに切磋琢磨しながら己の能力を磨き続けている。そんな学園で身分を笠に着ることを行うものは恥とされるも毎年その事が分からない貴族の令嬢子息が理事長でもある皇王の権限で払い落とされ、実家へと帰されるのはある意味学園の名物となっていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「…エリオット様、お話とはなんでしょうか。いい加減お話をお聞きしたいのですが?」

 

 

 この国の第一皇子で皇太子であるエリオットから呼び出しがあり、指定されたテラスで彼と向き合うように座りながら飲んでいた紅茶を置きつつそう尋ねたのは彼の婚約者、クレセア・トゥイードル。侯爵家の令嬢として生まれ、両親から受け継いだ明るい茶色の癖のある長い髪をひとつにまとめ、新緑のような色の瞳は目の前の婚約者に非難の視線を向けていた。

  彼女は大事な用をある方にお任せし、婚約者の呼び出しにやって来たために早く戻りたいのだが、エリオット様は先程から目線を外し、口を開いては閉じての繰り返しで何かを話そうとはしない。故にはしたないが、こちらから聞く羽目になったのだ。

 

 

「その、だな…。クレセア、すまないのだが、その…今この日をもってお前と婚約破棄をしたい。…私には心から愛するものが出来てしまった」

 

「愛する者ですか?」

 

「あぁ、君もよく知っているだろうが…私達と同じクラスのアリスなのだが…」

 

「申し訳ありませんが、アリスという方を私は存じ上げませんが」

 

「は?」

 

 

 今まで目線をそらしていたが驚いてやっとこちらに視線を寄越す。金の美しい髪を揺らし、群青色のその瞳は君は何を言っているんだと、口よりも雄弁に語っていた。

 

 

「アリスだぞ!?平民ながら皇王(ちちうえ)にその才を認められ、我々と同じように入学してきたただ一人の平民の可憐な少女だ!」

 


 椅子から立ち上がり、息を少し荒くしながら語る婚約者の姿に内心では呆れながらも顔には出さず、何も感情を宿さない瞳で相手を見上げつつ、記憶のなかを探る。そして、アリスという少女に関する情報を思い出せばひとつ小さく嘆息してから口を開いた。

 

 

「エリオット様の仰るアリスという方は平民でありながらその生まれもった複数の魔力への適正の高さとその中でも治癒魔法が群を抜いており、その力を向上と安定、人々のためにその稀有な力を使うことができるようになってほしいという陛下の願いによって招待状を送られた今年の新入生の方でしょうか?」

 

「そうだ!なんだ知っているんじゃ…」

 

「はい、この学園の誰もが知っている情報ですから。しかし、それ以外のことは何も。私は去年入学してからすぐにある方にお誘いいただき、温室に出席の必要な行事や授業以外はずっと籠って研究を続けていましたので、お話は伺っておりましたが…お姿も数度しか授業中に見たのみで喋ったことすらないのですが?」


「な、に…」

 

「それに、この婚約が決まったあの日、私は言ったはずですが?この婚約は皇太子である貴方がもし、この学園を卒業するまでに后に相応しいと、心から一緒に支え合って生きていける方を見つけられなかった場合の政略結婚の布石。もし、見つかった場合は私に構わず、陛下に婚約破棄の書状を勝手にお出しになって構わないと、そう申しました」

 

 

 そう、この婚約が決まった時、クレセアはそう言ってエリオットも了承した。婚約が決まった6歳の頃の話である。だから、何故婚約破棄のことを自分に告げるのか分からず、この時間の無駄をする会話にイラついていた。

 

 

「君は…私を愛していたから…だから、アリスに嫌がらせをしたのではないのか…?」

 

「嫌がらせとはなんでしょう?先程も言った通り、私は温室から必要なこと以外では出ていませんよ?それに幼馴染としての友愛はございますが、恋愛感情としての感情は申し訳ありませんが、持ち合わせておりません」

 

「では、アリスの言っていたことは…」

 

「あの!」

 

 

 突如二人の会話に混ざってきた鈴を転がしたような少女の声。クレセアがそちらに視線を向けると茶色の混じった金の長い髪と涙をためた赤みがかった瞳をクレセアに向けていながら微かに震える少女の姿があった。

 

 

「…貴方がアリスさん?」

 

  なんとなくそう思い、声をなければ少女はビクッと体を震わせながらも肯定するように頷く。そんな彼女にクレセア体ごとそちらを向け、アリスの全身を観察するように見た。

 

 

「そう、ならば皇太子殿下との婚約おめでとうございます。私との婚約破棄は契約上すぐに切れて貴女が正式な婚約者になれますよ。」

 

「え…?」

 

 

 状況が読めずに首を傾げているアリスにクレセアはいつもの作った笑みではなく、本当に嬉しそうな笑みを向けた。

 

 

「私、皇太子妃なんて立場、さしも興味がなかったから貴女のような殿下が心から愛する方が出来て嬉しいわ。是非殿下と幸せにね。それでは、殿下、婚約破棄については私から陛下に報告しますのでどうぞ逢瀬をお楽しみくださいな。」

 

「まっ、クレセア!?」

 

 

 状況がよく飲み込めないながらもエリオットはクレセアを止めようとするが、彼女は止まることなくその場から去り、エリオットとアリスは顔を見合わせることしかできなかった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「お帰り、クレセア。息子(エリオット)との逢瀬は楽しかったかい?」

 

 

 温室に戻り、自分の研究区域に来れば、魔力のこもった水を植物にかけているこの国の皇王、クロード陛下がにこやかな笑みをこちらに向けながら尋ねてきた。 

 長子であるエリオットと違い陛下は銀の艶やかな髪と黒色の瞳の中性的な容貌の持ち主の穏やかな人ではあるのだが、戦に関しては苛烈な面があり、周辺国に怖がられている、らしい。

 三十後半の年齢ながらその見た目はまだ若々しく、同い年である現トゥイードル侯爵家当主であり陛下の側近である年の離れた兄はあいつの見た目はおかしいと良く言っている。

 現在は二人の皇子と一人の皇女がおるが、皇后は病気で亡くなっており、側室は元よりいない。

 兄曰く、現在皇后にしたい方はいるらしいが、行動に起こさないから周りがやきもきしているとか。

 そんな陛下が何故ここにいるか。それは、ファムナプラ皇国の王城は学園と隣接―互いに土地が広いため離れてはいるが―しており、理事長としてや王としてこのように陛下が学園に出没するのは少なくないのだ。

  エリオットに呼ばれていた時もちょうど陛下が研究に関する見学に来ていた。どうしようかと悩んでいれば陛下が代わりにやっておくと言い、何度も断ったが最終的には王命を出されてしまい、水やりをお願いして慌ててエリオットのところに行ったのだ。

 

 

「あの、エリオット殿下のことで陛下にご報告があるのですが…」

 

「…聞こうか」

 

 

 いつものようにエリオット様ではなく殿下をつけて呼んだことから察したであろう陛下はすぐに王の顔になり、水やりしていた道具を置く。

 

 

「今年入学したアリスという方を婚約者に選ぶそうです。ですので、契約に従い、私との婚約は破棄をしていただきたのですが…。」

 

「アリス…あぁ、あの平民の子か。私の息子も見る目があるんだかないんだか…。まあ、そのお陰で私の過ちからクレセアが自由になったわけだし…」

 

「陛下?」

 

 

 少し離れていたため、途中からの陛下の言葉が聞こえず、聞き返すように声をかけたものの、陛下はなんでもないというように微笑まれたため、聞くことは諦めた。

 

 

「話は分かった。では、二人の婚約破棄については私がやっておこう。それで、破棄によって君に婚約者がいなくなった訳だが…」

 

「侯爵家は兄が当主ですし、その兄も独り身ですが我が侯爵家は婚姻せずとも跡継ぎは養子などを身内から取る家風です。私は学園を卒業しても今の研究を続けたいので侯爵家令嬢としての立場を捨てようかと思っています。なので、婚約者は…」

 

「婚姻しても研究は続けられると思うが?」

 

「陛下、研究に没頭し、最低限のことしかやらない妻を欲しいという者がいらっしゃると思いますか?」

 


 そう、嫁ぐとなればその家のことを妻として切り盛りしていかなければならない。研究との両立は難しいのだ。

 だが、今行っている研究はこの国のためにとっても利益を生み出し、陛下も支援してくれている。

 生まれながらにクレセアは植物に対する魔力適正がおかしいほどに高かった。それは、植物の成長を高めたり、再生不可能な土地を栄養価の高い土の土地に生き返らせたりと自国にも他国にも食料面に対して多大な利益を与える存在だったため、エリオットとの政略的婚約が決まったが、今回のような件になったというわけである。まあ、元より国から出るつもりはないため、エリオットとの婚約があってもなくても良いと考えていたのは彼女だけの秘密である。

 だから、別に嫁ぎたいという結婚願望はクレセアにはないのだ。国のために働くことは苦ではないのだから。

 

 

「…なら、私の妻に……皇后になるつもりはないか?国のために働くクレセアを私は隣で応援し支えていきたい」

 

「は…?」

 

「クレセア・トゥイードル。私、クロード・デュプレは君に婚約を申し込みたい。年はとても離れているが、私は君を愛している」

 

 

 目の前に片膝をつき、熱のこもった瞳で告げられた言葉にクレセアは固まり、突然のことに彼女は逃げた。顔が真っ赤になって恥ずかしさから逃げたのもあるが、陛下の言葉に喜んでしまっている自分の心が知られるのが死にそうになるほど恥ずかしいから。

 そう、彼女にとっての初恋は陛下だから。

 

 兄が連れてはじめて屋敷にやって来た時、一目で幼いながらも恋に落ちた。でも、隣には今は亡き皇后様がいて、とても幸せそうだったから、その気持ちが溢れる前に蓋をした。

 兄には見抜かれていたけれど、黙っていてくれると約束してくれたから、今まで気づかれたことはない。

 陛下の息子であるエリオットとの婚約も陛下の役に立てるならとエリオットと友好な関係を築いてきた。

 研究をしている自分のところに見学にくる陛下とも友好な関係を築けるように。

 

 

「陛下が…クロード様が私を、好き…?」

 

 

 そう呟きながら先程のプロポーズを思い出せばまた真っ赤になり、もう訳がわからなくなった。それからすぐに外出届を取り、実家である屋敷に帰ればちょうど帰って来た兄に泣きついた。陛下に告白されたことを泣きながら報告する。

 

 

「やっと言ったのか、あのヘタレ王は。クレセア、良かったな、両想いだぞ?」

 

「よくありません!私なんかが陛下の妻になん、て!」

 

「問題ないだろう?今まで皇太子妃になるための勉強はしてきたんだ、皇后なんて同じようなものだ」

 

「同じではないですわよ、兄様!」

 

「心配するな、皇后としてお前に何かあれば俺も陛下も手助けするつもりだしな、というか、大臣方もお前ならって了承はずっと前から貰っているぞ?」

 

「何故!?」

 

「陛下もあれでお前に結構前から惹かれていたらしくてな、お前を可愛がっていた前皇后様の許可も取ってて皇太子との婚約が破棄されたら側室としてお前を入れるつもりだったんだよ。まあ、その前にご病気で前皇后様が亡くなられて、意気消沈していたところを皇族全員のケアをお前がつきっきりでしたろ?あれで完全に落ちたらしくてなぁ。

 皇女様もお前を気に入ってるし、第二皇子もお前になついてて問題ない。

 で、最近は第一皇子に別な女の影があるし、有能なお前をそのまま破棄して手放すよりは皇后として陛下(じぶん)の側にいればいいっていう提案に大臣方も了承した。…外堀埋められてたの知ってたか?だから、諦めて皇后になるしかないぞ?」

 

「…」

 

「あいつのこと好きなんだろ?違うのか?」

 

「…好きです。好きに決まってます!でも、でもこんなに都合が良いこと…。」

 

「それもひとつの運だ。だから、逃げるな」

 

「…はい、兄様」

 

 

 兄と話したことで涙はもう止まっていた。そのまま兄に連れられるように学園に戻れば陛下はまだ待っていてくれて。どうやら、兄がちょうどよく帰って来たのも陛下が私なら侯爵家へ戻って兄に相談するだろうと見越していたたかららしい。

 

 

 

 それから、陛下のプロポーズを受け、数日後、私は皇太子の婚約解消し、陛下の婚約者となり周囲から祝福された。エリオットは驚いていたものの、すぐに喜んでくれた。どうやらなんとなく父親の気持ちには気づいていたらしい。そんなところは母親にそっくりだなんて陛下はぼやいていたとか。


 後日、アリスをいじめていたのは私の名前を勝手に使い、まるで私の取り巻きのような立場でぬるま湯に使っていた見知らぬ令嬢達で陛下とエリオットが処罰をくだしたらしい。

 何をしたのかは聞けてはいない。

 

 そして、アリスもエリオットの正式な婚約者になった。今まで接点はなかったが、同じ皇族の婚約者という立場と平民ゆえになんの勉強をしていないアリスの先輩として皇太子妃としての必要なことを教えるうちに仲良くなった。いじめの主犯と勘違いしてごめんなさいとある時に謝られたが、もう気にしていなかったため、気にしないでと言って微笑んだ。

 

 それから、一年後、陛下と私とエリオットとアリスの婚姻の儀が同じ日に行われ、私は皇后になった。

 

 

「クロード様」

 

「ん?」

 

「愛しています。これからもずっと」

 

「私もだよ、可愛い私の花嫁」

 

 

 民衆の前での御披露目。

 そう言い合いながら私たちは微笑みあった。

 

 


 


評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
[気になる点] 「心配するな、皇后としてお前に何かあれば俺も陛下も手助けするつもりだしな、というか、大臣方もお前ならって了承はずっと前から貰っているだぞ?」 語尾が、だ、はいらないのでは無いかと思いま…
[一言] 「クレセア・トゥイードル。私、クロード・デュプレは君に結婚を前提に婚約を申し込みたい。」 婚約とは結婚の約束なので、結婚を前提としない婚約は存在しないかと。 ということでこの文章は結婚を申し…
[気になる点] 陛下の説明での、家族説明のところですが 「現在は二人の皇子と一人の皇女がおるが、皇后亡くなっておらず」という文ですが、丁寧な言い方にしようとしているのは分かるのですが、亡くなってはいな…
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ