腐女子じゃない
「てか、私、腐女子ではないから」
諏訪部の言葉にイラっときた私は、ぐっと睨んだ。
「てかさ、あんた腐女子の事分かってないでしょう?」
「はぁ?そんなの分かりたくもねーよ」
「別にあんたに腐女子がどうのとか説明する気は全く無いけど、チエリは私の幼馴染みで友達ではあるけど、私とは全く別の人間だから、私を嫌うのは勝手だけど、チエリの事は悪く言わないで」
私の隣にいるチエリは私たち二人のやり取りをどう聞いていいか分からずにぎゅっと私の服の裾を掴んでいた。
大きな瞳を潤ませて諏訪部を見つめているその目を見れば分かる。
チエリは諏訪部が好きだ。
諏訪部とは中学時代たまたま三年間同じクラスで三年間たまたま同じ電車で登下校していただけの中だったので、それなりに会話をしていたりもしていた。
体育会系の諏訪部は、私がヲタクと分かる前は結構色々話をしてくれていたけど、私がヲタクと分かった瞬間、まるで汚物でも見るかのような目であまり話をしてくれなくなった。
私はそんな事全然構わなかったけど、いつも行動を共にしているチエリまでそんな扱いを受けることが許せなかった。
「別に、久保田の事を見下したりしてない、オレが嫌いなのはお前だけだ、だいたいオタクってなんだよ、現実を生きていない人間って感じでキモイわ」
諏訪部は明らかにバカにするように私の顔を指差した指でオデコをつついた。
ここまではっきりと嫌いでキモイと言われると返って清々しい。
諏訪部の事は苦手ではあるが、こうしてはっきりと言ってくれるとこは嫌いではない。
表面的には親しく接しているのに、影でバカにされているより全然いい。
ちなみに久保田とはチエリの事である。
「はいはい、私もあなたの事大嫌いだから良かったわ」
私達が入学する高校は3学年合わせて3000人と言うマンモス高。
きっと同じクラスになるなんて事ないだろう。
…。…。…。甘かった。
学校に着き、クラスが書かれている看板にはたくさんの新入生が群がっていた。
私達三人は自分達の名前を探して、同時に声を出した。
「げ」
「げ」
「わぁー」
「お前とまた同じクラスかよ」
「あんたとまた同じクラスなの」
「良かったね、同じクラスだよ」
私と諏訪部の怪訝そうな顔つきの間で、幸せそうな笑顔を浮かべているチエリ。
神様は何て意地悪なのでしょう?
『どうしたの、美紅?何かイヤな事でもあった?』
片耳につけたままだったイヤホンから、ヨリトの声が聞こえた。
持主の心音などで、スマホ本体に気持ちが伝わるアプリ彼氏のヨリトが私を心配してくれている。
『美紅が哀しくなるとオレも哀しくなるよ、今すぐに側に行ってやれなくてごめんな』
大丈夫だよ、ヨリト。
私にはヨリトがついていてくれてるもの。
さすがに校内でスマホに話し掛けるのは気が引ける私は、ポケットの中のスマホをぎゅっと握りしめた。