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公国の真紅の瞳  作者: ざっくん
第1章 公国に現れた紅き影
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009

 ハインドヴィシュ公国の首都ヴァルデンデ。

 人口は5万少々と、周辺国に比べると極端に少ない。

 ハインドヴィシュ全体でも10万程度なのだそうだ。

 ただ位置柄か、国民ではないものも多く暮らしている。

 森があるからだ。

 様々な魔物が現れる森から目と鼻の先に位置するこの場所は、討伐者にとっては便利なことこの上ない。

 さらに、街の作りも討伐者が暮らしやすいように作られているのだとか。


「大変お待たせしました。何やら鑑定してほしいそうですが」


 若い門番はすぐに戻ってきた。

 討伐者ギルドとやらは近くにあるみたい。

 討伐者は森で仕事をすることがほとんどのようだし、便利なように北門近くに構えているのだった。


「入門税の確認です。ここにある核から銀貨2枚分と貴女の手数料分だけ取り分けてほしい」


「ああ、入門税ですか。北門からとは珍しいですね」


 連れられてきた討伐者ギルドの職員は、驚いたことに女性だった。

 いや、職員が魔物と戦うわけでもないのだし、女性であっても不思議はないのかも。


「……こちらの核がちょうど銀貨1枚分ですので、これを2つでよろしいかと思います。手数料については結構ですよ。この程度でいただくわけにもいきません」


「そうですか。ありがとうございました。それではお二人も中へどうぞ。過ごしやすい街ですが、揉め事は起こさないでくださいよ」


「ありがとう。明日には出て行くから心配しなくても大丈夫よ」


 思ったよりもスムーズに事は進んだ。

 当初の目的通りに街の中へと入ることができたのだ。

 ただ、入門税は実は結構な痛手だった。

 私が持っていた中で一番大きな、巨首馬(ディフヘスト)の核が2つ持っていかれてしまったのだ。

 巨首馬(ディフヘスト)の核1つで銀貨1枚。

 その価値が高いのか低いのか、今の私には分からない。


「とりあえず……まずは核をお金に変えなきゃいけないわね」


「核は討伐者ギルドが買い取ってくれるはずです」


「それじゃあ討伐者ギルドへ行きましょうか」


 門ではなんとかなったけれど、さすがに街中でも物々交換ができるとは思えない。

 多少は手間だけれども、まずは現金を手にする必要があったのだ。

 でも、当たり前のように初めての街にきたばかりの私たち。

 門から一歩街中に入ったところで、その歩みは止まってしまったのだった。


 門から見る街の光景は、まあ普通だったと思う。

 15人ぐらいが並んで歩けるような大通りがまっすぐ伸びていて、両側にはいろんなお店が連なっている。

 建物はせいぜい二階建て程度。

 ちょっと遠くに見える大きな建物にはお金持ちが住んでいるのだろう。


 討伐者ギルドへと向かった門番はすぐに戻ってきた。

 ならば、きっと討伐者ギルドはこの通りにあるはずだ。

 適当に歩けば見つかるだろうと思い、歩き出そうとしたその時のこと。


「……討伐者ギルドなら、案内いたしますけれど」


 さっき核の鑑定をしてくれた職員の女性が話しかけてきたのだった。


「……分かるの?」


「ええと、すみません。お話を聞いてしまいました」


「いえ、それは構わないけれど……。それよりも、お仕事があるんじゃないの?」


「討伐者ギルドに用事があるんですよね? だったら案内することも私の仕事ですよ。それに、今は暇な時間帯ですから。初めて街にこられたそうですし、よければ道中のお店の案内もいたしますよ」


 どうせだからという彼女の提案に私は乗ることにした。

 何よりも、美人だったから。


 彼女の名はピーアというそうだ。

 討伐者ギルドに務めており、受付嬢をやっているのだとか。


「……討伐者に、ですか?」


「ええ。入門税がかからないらしいじゃない?」


「そうですけれど……魔物と戦う仕事ですよ?」


「ええ、分かっているわ。そもそもさっき見せた核も私が倒した魔物から手に入れたの。魔物と戦えるなら問題ないでしょう?」


「子供の討伐者も多くいますから、登録には問題ありませんけれど……」


 ピーアの歯切れが悪いのは、私とヘルダの見た目のせいだろう。

 二人とも武器も持っておらず、これで討伐者になると言われても信じられない。


「実は今日は武器を買いに来たの。今までのは古くなっちゃってね」


「ああ、そうでしたか。それでは登録の後に武器屋を紹介しましょう。女性でも安心して通えるお店があります」


「あら、ありがとう。それは助かるわ」


 もちろん武器の良し悪しなんてわからないから、お店を勧めてくれたことは本当に助かった。


 いくつかのお店を眺めながら、討伐者ギルドへと到着した。

 討伐者ギルドはこの通りの建物では一二を競う大きさだ。


 もちろん内部も広かった。

 ホールがあって中央に掲示板、奥にはカウンターもある。

 受付嬢というのだから、カウンターがピーアの仕事場だろう。


「用意をするので少々お待ちくださいね」


 そのカウンターに案内され、少しの間待たされる。

 核の値段は見ただけで分かるようなので、おそらくは討伐者登録のための用意だろう。


「ヘルダは討伐者ギルドに来たことはあるの?」


「ありません。でも大体は知ってます。あそこの掲示板で依頼を探し、カウンターで受けるんです」


「魔物の討伐者なのに依頼があるの?」


「……そう聞いてます」


 討伐者というぐらいなのだから、ただ魔物と戦えばいいと思っていた。

 けれどそうでもないみたい。


「お待たせしました。先に核を買い取ってしまいましょう」


 それ以上を考える前にピーアが戻ってきてしまう。

 分からないことはピーアが説明してくれることに期待して、まずは手持ちの核全てを差し出した。


 全部で160ユル。

 銀貨1枚と銅板3枚という価格になった。


「……今日は街に泊まっていくつもりなのだけれど、一泊にはいくらぐらいかかるのかしら」


「そうですね。安いところは銅板1枚からありますよ。でも女性が2名ですから、できるなら銀貨1枚の宿に泊まったほうがいいでしょうね」


 安い宿というのは、それこそ雑魚寝するような部屋らしい。

 うん、さすがに個室でないのは困るだろう。

 そうなると、武器に費やせるお金は銅板3枚だけになる。


「まあいいわ。それよりも登録をお願い」


「はい。お二人とも登録ということでよろしかったですね?」


「ええ、もちろん」


 新規ということで、ピーアから討伐者についての説明が始まった。


 討伐者の仕事は、つまり魔物と戦うこと。

 その核を魔物討伐の証とするそうだ。


 討伐者になったからといって、自由に魔物と戦えるわけではない。

 討伐者になりたてでいきなり強い魔物と戦わないように、討伐者にはランク分けがされるそうだ。

 登録したてはD1ランク。

 魔物の倒した数によってD2、D3と上がっていく。

 D3ランクになると、C1ランクになるための試験を受けることができる。

 そうしてランクを上げ、強い魔物と戦えるようになっていくらしい。


「掲示板にはそれぞれのランクに適正な魔物が載っています。基本的に早い者勝ちということはありません。なにせ魔物はいなくなりませんから」


 森がすぐ近くにあるのだから、獲物となる魔物は湯水のように沸いてくる。

 ちなみにDランクの適性は、緑醜鬼(ゴブリン)白腕猿(リラエフィン)だけだった。


「適性以外の核でも買い取ってもらえるのよね?」


「可能です。しかしその場合は、ランクが上がることもありません」


「ランクを上げる意味はあるの? 強い魔物と戦ってもいいのなら、ランクを上げる必要もないように思えるわ」


「ずっと魔物と戦うだけならそうでしょう。しかし、中にはランクを上げないと受けられない依頼もあるんですよ」


 実際に掲示板を見ながらのほうが分かりやすいということで、カウンターから掲示板の前へと移動する。


「例えばこの依頼ですね。この街から違う街への商人の護衛です。最低でもCランクの2クラス以上でなければ受けることはできません」


「クラス?」


「ええ。ランクの後ろにつく数字は、そのランクでどれだけ依頼を達成したかを示します。依頼者からすると、そのクラスが信頼性に繋がるのです」


 CランクになりたてのC1ランクでは、今までDランクだったということで本当にDランク相応の強さを持っているかは分からないということか。

 単純だからこそわかりやすかった。


 それと、依頼を眺めるとランクを上げる理由にもすぐに気づいた。

 ただ魔物を倒し核を売るよりも、張り出されている依頼をこなしたほうが儲けが大きいのだ。

 もっとも、Dランクではそんな依頼もないので、今は魔物を倒すだけでよさそうだった。


「クラスを上げるためには適性ランクで10回連続で依頼を成功させる必要があります。この時、一日に達成できる依頼は一つだけとなることに注意してください」


「……さっき売った核も討伐達成ということになるのかしら」


緑醜鬼(ゴブリン)の核もありましたからね。あと9回同じことをしていただけたら、イルザさんとヘルダさんのランクはD2ランクに上がります」


 ちなみに、緑醜鬼(ゴブリン)の核の価値は銅貨たったの2枚だけ。

 白腕猿(リラエフィン)でも銅貨5枚。

 銅貨1枚が最小貨幣らしいので、緑醜鬼(ゴブリン)の価値がどれほど低いのだということになる。


「以上で説明は終わりとなりますが、分からないことはありましたか?」


「私は特に。ヘルダは?」


「……大丈夫」


「そうですか。それではこれが討伐者の証となります。依頼の報告と一緒に提出してください。また、なくした際にはD1ランクからやり直しとなるので紛失には注意してくださいね」


「分かったわ。色々とありがとう」


「いえ……あの、気をつけてくださいね? 討伐者は新人が一番死亡率が高いですから……」


「大丈夫よ。そのために武器を買うんだから」


 心配は無用なのだ。

 少なくともDランクにとどまる限り、私の相手になる魔物はいないのだから。



 特に依頼を受けるでもなく討伐者ギルドを後にする。

 今日の目的は武器を買うことだ。

 入門税の都合から討伐者になりはしたけれど、すぐにランクを上げるつもりもない。

 ヘルダを鍛えながら、ゆっくりと強くなるつもりだった。


 討伐者ギルドの次は武器屋へと向かう。

 お勧めの店はすでにピーアから聞いているので迷うこともない。

 そもそも、必要な店のほとんどは北側に集中していたのだ。

 森に近い北門には、討伐者にとって必要な店がほとんど揃っている。

 武器屋も、道具屋も、そして宿屋も。

 少なくともこの街の北側は、討伐者の為の街づくりがなされているようだった。


 その中で聞いていた武器屋へと入る。

 ここは店主が女性らしく、女性客もまた多いのだとか。

 その分男性客が少ないのは、信頼性が足りていないのか。

 私もそれほど詳しくはないが、武器を鍛えるためにはそれなりの筋力が必要なはず。

 私自身、その店を勧められはしたがそれほど期待もしていなかった。


「あれ? 初めてのお客さんだよね?」


 聞いていたとおりに、その武器屋の店員は女性だった。

 明るい声で、親しみやすいことは間違いないだろう。


「討伐者ギルドの受付に聞いたらこのお店を紹介されたの。よければ見ていってもいいかしら?」


「へえ、誰だろ。もちろん見ていってよ。気に入ったのがあったら試し切りもできるからね」


 まずはどんな武器があるのか、ヘルダと一緒に店内を見て回る。

 目立つのは長剣だ。

 攻撃に良し守りに良しと、使いやすさを求めるとこの形になるのだろうか。

 次に多かったのは槍だった。

 安全な距離から攻撃できて威力もそれなりというのが人気らしい。


 こうして武器を眺めて思うのだ。

 ヘルダに勧める武器は本当に小剣でいいのだろうかと。


 ヘルダは身体も小さく力もない。

 だからこそ威力よりも切れ味を重視した、細身の剣がいいと思っていた。

 でも安全性を考えるなら、魔物に近づかなくとも戦える槍や、それこそ弓のほうが向いているのではないだろうか。


 もちろん、前提としてヘルダが興味を示すこと。

 興味のない武器を持たせたところで、才能が芽生えることもないだろうから。


「……子供にお勧めの武器はどれになるかしら」


 分からないことは店員に聞けばいい。

 武器を売っている以上、私よりは詳しいはずだ。


「子供ってその子だよね? そうだね、お勧めはこのあたりかな。子供の討伐者がよく買っていくのがこのあたりなの」


「ちょっと大きい気がするんだけど」


「そうだね。でも子供の成長は早いから。将来的に大きな剣に変える場合がほとんどだし、今のうちに慣れておこうって考える子が多いみたい」


 示された武器は長剣だった。

 私が持っている剣より少し小さいが、それでもヘルダにとっては重い武器だ。

 成長か。

 確かにヘルダの身体がこのまま大きくならないとは思えない。

 身体の成長にしたがい武器を買い換えるくらいなら、多少の無理は押し通せということか。


「討伐者になりたてが一番危ないって聞いたんだけど、生き残る子供はどの武器を選んでいるの?」


「面白い質問だね。……そうだね、やっぱり長剣かな。身の丈に合った小さい武器を選んでいるの子供ほど、早くに死んでいる気がするよ」


「……それはどうしてかしら」


「私もそこまで詳しくないんだけど……使いやすい武器だからこそ、自分の実力を勘違いしちゃうんじゃないかな。そういう意味じゃ槍はお勧めできないね」


 なるほどね。

 言われてみたら納得だ。

 そもそもの前提として、森に入る討伐者は一人ではない。

 子供なら子供たち同士で、実力の近い数人で固まって行動することが多いらしい。

 人数が多いとより自分の実力を読み違えてしまうのだろう。


 しかしそうなると、私の考えていた使いやすい武器というのも考え直したほうがいいみたいだった。


「ヘルダ。あなたは自分の気に入った武器を選びなさい。これは私がとやかく言うことでもないみたい」


 ヘルダには好きな武器を選ばせよう。

 どちらにせよ、私が一緒に行動することに変わりはないのだから。

 初めの数年は苦労するかもしれない。

 だけど、そこは時間を掛けるだけ掛けたらいいのだ。

 なにせ私には無限に等しい時間があるのだから。


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