020
「まず、ハンスさんにお聞きしたいのだけれど、私の知り合いに魔法の才能を持つ子がいるの。でもなかなか魔法を見る機会がなくて、まだその子は魔法を使えなかったりするの。例えばの話なのだけれど、やっぱり魔法をつかうためには、誰かが同じ魔法を使うところを見なければならないのかしら」
悩んだ末の質問は、少しだけ本題から逸れたものになった。
「……使えますよ。そもそも初めに魔法の才能を得た人はどうやって魔法を使えるようになったのだという話になりますからね。それにしても驚きました。その子は魔法を使えないのに、才能があると分かっているのですね」
「……ええ。たまたま才能を見抜く人に出会えたのよ」
すっかり失念していたけれど、普通の人は自分の才能なんて分からない。
悩んだ末になんて間抜けな質問をしてしまったのかと自分の頭を叩きたいぐらいだ。
「──魔女、か」
「魔女だね。このあたりで才能を見抜ける人は一人しかいなかった」
「その人とは森の中で出会ったのではないか」
「え……ええ。実はつい先日森で迷ってしまって、さまよった末に民家にたどり着いた時には驚いたわ」
ここで門番への言い訳が活きてくる。
森で一泊していることになっているから、彼らがもしも疑問を持ったとしても私の嘘は見抜かれないはず。
そもそも疑問にも思っていないようだけれど。
「魔女は森の中で暮らしているからな。そうか、才能を見てもらえたのか。それでは魔法を使いたくなるのも当然だろう」
「それって何の魔法なんだい? 私は水の魔法を使えるから、機会があれば見せてあげることもできるよ」
「残念ながら、その子は地の魔法なの」
「だったら見せても意味はないね。でも幸運だよ。地の魔法は魔法の中でも独力で発露しやすい魔法だからね」
エミリアは魔女と呼ばれていたみたいだ。
森の中に一人で暮らしているのだから、当然といえば当然なのかも。
周囲は結界で覆われているし、見た限りではどんな人が暮らしているのかも分からないのだし。
「地の魔法だったら、土に触れながら魔法を使おうと思えばすぐに覚えられるんじゃないかな。これが火の魔法だったりすると大変なんだけどね」
「そんなのでいいの?」
「魔法は魔力の変換だから。変化した先の物への理解を深めるだけでいいんだよ」
思っていたよりも簡単らしい。
土か。
土なんてそこら中にあるものだから用意するのも容易いし、触れたところで手が汚れる程度だろう。
さっそく今夜から試してみようと思う。
他人の魔法を見るとすぐに魔法が使えるようになるのは、その変化の過程を直感で理解できるからなのだとか。
いまいち納得できないのだけれど、魔法自体が不思議な現象だから否定することもできなかった。
なによりも私自身が体験していることだったから。
ハンスも子供の頃に皿洗いをしていて水の魔法に気づいたのだそうだ。
皿洗いに比べると討伐者のほうがまだ儲かるらしく、それが今では数少ない上位の討伐者。
結構不思議な人生なのかも。
ある程度お互いの話も知れたところで、やっと本題に入る。
なんだかんだで彼らは気さくだったし、何よりも上位の討伐者だから色んな経験も積んでいるはず。
現時点では彼ら以上に最適な人はいないのだった。
「最後に、皆さんにお聞きしたいことがあるの」
──その答えは、私の望むものではなかった。
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イルザが去ってもコンラット達は居酒屋に残っていたままだった。
彼らはもとより酒を飲むつもりであったし、それにこの後の約束もあった。
「それにしても面白い話を聞けましたね」
「そうだな。あれで新人だというのだから信じられん」
彼らの話題はイルザが去り際に話した無いようについてだった。
その場では反射的にあり得ないと断定したが、少なくともコンラットとハンスは一考に値するものだと感じていたのだ。
「そうかあ? ただぶっ飛んでるってだけだろ。あーあ、せっかくの美人なのに頭があれじゃあなあ」
「そうですか? 私はそれなりに筋の通っている話だと思いましたよ。ねえコンラット」
「……そうだな。魔物も才能を持っていて、才能を持つ魔物を倒すとその才能を得られる──か」
イルザは魔力と才能について考えていた。
なぜ討伐者は才能を芽生えやすいのか。
倒した魔物の魔力を吸収するということは、その才能を吸い取ることに等しいのではないのか。
それがイルザの推論だった。
「低ランクでは、才能を持つ魔物とはまず出会いませんからね」
イルザの推論の半分は正解していた。
緑醜鬼や白腕猿などの魔物はまず才能を持っていないが、コンラットもハンスも上位の討伐者である。
つまりは強い魔物とも何度も戦っており、その魔物が間違いなく才能を得ていることも知っていた。
「ただ、才能を写し取るのはあり得ないな」
「そうですね。でしたら今頃私たちは全ての魔法を使えているはずですからね」
一目で分かる才能といえば魔法になるだろう。
剣の扱いや槍の扱いは実際に戦ったところで、あくまでも剣ややりに才能を持っているのではという推論までで止まってしまう。
しかし魔法は一目瞭然だ。
風を操る魔物は間違いなく風の魔法の才能を持っているし、炎を操れば火の魔法の才能を持っていることは明らかだ。
そうした魔物をコンラット達はもう何度も倒していた。
しかし彼らの中に新たな魔法を発露した仲間はいなかった。
つまりは、才能の吸収はあり得ないということとなる。
「……子供」
「……ギードよう。やっと喋ったと思ったらわけ分かんないこと言いやがって。イルザも不審がってたじゃねえか」
四人の中で一番の巨体のギードは滅多に喋らない。
それは恥ずかしいからではなく、考えたうえで必要最低限しか発しないからだ。
「子供の討伐者でも、目覚める才能の早さが違う」
「……なるほどな。子供のパーティーといえば一匹を複数で狩るのが当たり前だ。それなのに才能の発露するタイミングが違うのはおかしいということか」
「……才能を持つ魔物を狩ると、その才能を覚えやすくなるというのはあり得るかもしれませんね。もしかしたらトドメを刺した場合だけということも考えられますね」
「おいおい、まさかギードもその話を信じたのか? ありえねえだろ。俺たちが一体何匹の魔物を狩っていると思ってんだ」
頭ごなしに否定するのはベンヤだけだ。
コンラット、ハンス、それにギードはイルザの言う可能性を捨てきれずにいた。
「どうだ、ギード。どうせなら試してみるか。一つの才能を持つ魔物のトドメは全てギードに任せよう。残りの魔物は俺たちがトドメを刺す」
「おい! まさか信じるのか!? つーか儲けが減るなんて俺は嫌だぜ」
「落ち着け。別に弱い魔物を狩ろうってわけじゃない。深域に出てくる魔物の一部をギードに任せるというだけだ」
「幸いなことに深域には魔法を扱う魔物も多いですからね。効率は今までとそれほど変わらないでしょう」
「だったらいいけどよ……」
だが彼らは一つだけ忘れていることがあった。
深域に近づけば近づくほどに、魔物は強く丈夫になっていくのだ。
つまりランクが上がれば上がるほどに、一日の討伐数は減っていくことになる。
彼らがこの件についての結論を出すときは、まだ大分未来のことだった。
「コンラットさん、お待たせしました」
イルザの話題も一息ついて、思い思いに好きな酒を味わっていた時のことである。
不意に彼らに話しかける者が現れた。
コンラット達は数少ないA1ランクの討伐者である。
それなりに顔も知れ渡っていることから、こうして話しかけてくる者は滅多にいない。
いるとすれば顔見知りか、もしくはあらかじめ約束をしていた相手だけである。
「遅えぞ! どんだけ待たせるんだ!」
「……どうやらベンヤは既にできあがっているようですね。約束の時間からは遅れていないはずですが」
「ああ、ベンヤのことは気にしなくていいよ。賭けに負けたのと女の人にあしらわれたことでやけ酒してるだけだから」
「おいおいおい、俺がいつ振られたっていうんだよ」
「振られたなんて一言も言っていませんよ。それとも誰かに振られたのですか?」
「てめえ……」
普段ならばいつものじゃれ合いということで諌めることもないのだが、さすがに相手が相手だった。
コンラットが大きな咳払いを一つすると、さすがのベンヤも少しだけ落ち着きを取り戻す。
「まったく……。久しぶりだな、マイカ」
「皆さんは相変わらずのようですね。賭けというのはいつものあれですか」
「そうそう。私達の報告を待っていた討伐者が何人いるかってやつ。ハンスも学ばないよね。子供とはいえバカじゃないんだから、そう森に入る人ばかりじゃないのにね」
「……」
そのハンスからの返事はない。
つい先ほどまで騒いでいたというのに今はテーブルに突っ伏して眠っていたのだ。
酔ってもそこまで絡まないからこそ、コンラットも酒を止める事はなかったのだった。
話しかけてきた男はリタ姫の現側近であり、Bランクまでパーティーを組んでいた相手であり、そして今回の依頼主でもある。
「ギルドからある程度の報告は受けています。それ以外を手早くお願いします」
「随分と忙しいようだな。……いや、依頼についてだったな。ギルドにも報告しなかった、魔女の行方についてだったか」
それはイルザにも伝えなかった、マイカから直接依頼された内容についてだった。
彼らの真の目的は森の安全を調べるためではなく、燃え朽ちた魔女の住処について調べること。
行方不明になった魔女の行方を探り、可能ならば保護すること。
それがマイカからの、いやリタ姫からの指名依頼だったのだ。
「俺たちが一日かけて調べた結論だがな……」
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「あれ、また包丁を買いに来たんですか?」
「何言ってるんだい。あんたが店員を雇ったっていうから見に来たんじゃないさ。その子が新しい娘だね。へえ、なかなか可愛い娘じゃないさ」
クラーラの店は武器屋である。
であればこそ、昼過ぎというこの時間は客足も少なく、ヘルダとしても退屈だが気疲れのしない時間ではあった。
「でも店先に立つにしては随分と汚れているねえ」
「その子は討伐者でもあるんですよ。今朝も魔物と戦ってきたから汚れてるのかな」
昨日も店に立ったが、客はほとんど訪れなかった。
夕方に武器を求める客が数人いただけで、その時ヘルダは見ているだけでよかった。
しかし今日は違う。
「討伐者ねえ……。あたしの子供も討伐者だけど、昼に帰ってくることはほとんどないよ」
「この子の保護者も一緒ですからね。ほら、この前の……」
「ああ、受付でぼーっとしてた娘だね」
イルザのことだとヘルダは思った。
その日はヘルダは眠っていたから、ヘルダの代わりにイルザが店先に立ったはずだ。
「あの娘も無愛想だったけど、この娘もおんなじだねえ。やっぱり親に似るのかねえ。それにしてはあたしの子供はいっつもうるさいんだけどねえ」
「あはは……」
用もないのにクラーラの店に来て雑談しているあたり、やはり似ているのではないのか。
クラーラも愛想笑いが固くなったところをみると同じことを考えているのだろう。
それにイルザはヘルダの母親ではない。
イルザと出会ってからの時間はまだまだ短いのだ。
「……なんだか外が物々しいねえ」
「……そうみたいですね。何かあったのかな」
話好きな主婦は耳もいいのか、わずかに騒ぎ出した屋外の様子にも過敏に反応する。
バタンと扉が開いて現れたのは鎧に身を包んだ男性だった。
その男性の姿を見たあとの主婦の動きは見事なものだ。
「それじゃあたしはそろそろ戻るとするよ。あんたもお仕事頑張るんだよ」
現れた男性に目をつけられることを嫌がった主婦は、今までの雑談がなんだというぐらいに素早く店を出ていく。
男性も主婦には興味を示さず、ただ店の中を見回すだけだ。
「ええと、兵士さんだよね? 武器を買いにきたんなら試し切りもできるけど……」
現れた男性はこの国の兵士だ。
それは統一された鎧を見たら一目瞭然のこと。
一介の兵士が武器を買いに訪れることはまずありえない。
武器も鎧も国から支給されるし、そもそも集団行動を是としているから自由に買い換えることもできない。
その兵士がわざわざ武器屋を訪れる理由。
その理由をクラーラは分からなかった。
「そこの娘は以前からこの店で働いているのか」
兵士の目当てはヘルダだった。
クラーラにヘルダのことを尋ねてきたのだ。
「……最近雇った子だけど」
「具体的にはいつからか」
「……二日前から。知り合ったのは三日前かな」
「そうか。邪魔したな」
それだけ確認すると、兵士は何も買わずに店を出ていった。
何事も起こらなかったことに安堵しながらも、クラーラの中には疑問が生まれる。
通常兵士がやってくるという事は、税をごまかしていたり納品した物に不備があったりと、つまりはあらためるためだ。
そもそもクラーラは国に武器を納めていないし、税もしっかりと払っている
それに兵士はヘルダのことを聞いただけ。
それも、名前すら確認せずに。
「……ヘルダは最近街に来たんだよね?」
「はい……。クラーラさんと初めてあった日です……」
「その時にさ、何か悪いことでもしちゃった? 道端で人を殴ったりとか」
「いえ、何も……。あの日はギルドに登録して、このお店に来ただけです」
そもそも会話した人も極端に少ない。
門番が二人にピーアとクラーラの四人だけ。
クラーラとしてもヘルダを疑ったわけではないのだ。
イルザはともかくとして、この人見知りの少女が兵士に目をつけられることをするとは思えない。
しかしイルザは関係ないだろう。
なにせ兵士はヘルダのことだけを確認し、イルザのことはまったく聞かなかったのだから。
「んー……多分人違いだろうし、そんなに気にしなくてもいいのかな」
結論としてはヘルダに似た少女を探しているということになる。
それでも少女を探すこと自体よく分からないが、少なくとも関係はないだろうと。
だが、兵士の目当てはヘルダに間違いなかったのだ。
表が再びざわざわと騒がしくなっていく。
しかし先程とは違い、物々しさは感じない。
「このお店で間違いありませんか」
「はっ! お聞きした特徴と一致する少女はこの店だけでした!」
「そうですか。ご苦労さまです。あなた達はこのまま待機を。中には私とカルディアだけで向かいます」
クラーラの店の前に止まった馬車から現れたのはこの国の姫、リタだ。
リタは森の被害を見てすぐに兵士を動かしていた。
彼女たちが無事である場合、一番近いこの国に身を寄せている可能性が高かったからだ。
また、兵士も優秀だった。
探している老婆は見動きが取れず、少女はまだまだ幼い年齢。
ならばどこかで働いていると考えた。
そうして見つけたのがヘルダなのだ。
果たして少女は本当にヘルダなのか。
そう思いながら武器屋の扉を開くと、そこには確かに記憶通りのヘルダの姿があった。
「ヘルダさん! 無事でしたか!」
店長であるクラーラが目に入っていないのか、リタは一目散にヘルダに駆け寄り抱きしめた。
突然のことにヘルダも見動きがにとれないでいる。
「リタさま……どうして……」
「あなたをずっと探していたのです。森があんなことになって……。それと、エミリアさんは二階ですか? お休みになっているのですよね?」
リタとしては当然の質問だった。
そしてヘルダがいきなり泣き出すことも、また当然のことだった。
ヘルダが泣き止むまでそう時間は要しなかった。
突然のことに思い出して泣いてしまったが、いつまでも引きずるヘルダではない。
「そうでしたか、エミリアさんが……」
ヘルダの説明は「お婆ちゃんが亡くなった」という簡素な一言だけ。
それだけでリタにも十分だった。
そうでなければ森の結界が壊れるわけもないとどこかで理解していたからだ。
「あなたがヘルダさんを保護してくださっていたのですね。エミリアさんの代わりにお礼を申し上げます」
「え、あ……うん……」
突然頭を下げられたクラーラが、おそらくこの店にいる中で一番混乱しているだろう。
リタの顔はもちろんクラーラも知っている。
そのリタに頭を下げられたのだから、混乱するしかできない。
「この子は私が連れて帰ります。お礼にはまた後ほど伺いますから」
「え……」
「お嬢様がこう言っているのだ。ここは素直に頷くところだ」
さすがにリタに逆らうつもりはない。
ただ、伝えることがあっただけだ。
「イヤ、です」
「……ヘルダさん?」
口を開けないクラーラの代わりか、ヘルダは引かれる手を振りほどいて明確な拒絶の態度を示す。
それはリタが今までに見たことのないヘルダだった。
「……あのですね、その子には別に保護者がいるんですよ。だからここで連れて行かれるとちょっと面倒だなあ……なんて……」
「あなたが保護をしたのではないのですか?」
「会話の内容もいまいち分からないんだけどね。私はその子を雇っただけ。保護者は別だよ」
にわかには信じられない話だ。
リタの知っているヘルダはエミリアにしか懐いていなかった。
たとえ別の保護者が現れたところで、ヘルダが素直に従うとも思えない。
けれどヘルダはここから離れたくないという。
それはこの店のせいか、それともまだ見ぬ保護者のせいか。
「分かりました。ではその方が戻ってくるまでここで待たせていただきます。……その方は今は外出しているのですよね?」
「イルザさんは、もうすぐ戻ってくると思う」
「そうですか。イルザさんという方なのですね」
その提案に一方的に困ることになったのはクラーラだ。
店の前には仰々しい馬車が止まり、しかも兵士が守っている。
どう考えても今日は客がやってくる事はないだろう。
しかもイルザが戻ってくるまで帰らないというのだから店を閉めるわけにもいかないのだ。
「ええと……リタ様はヘルダとお知り合いなのでしょうか? もしかして貴族だったのでしょうか」
「いえ、ただの知り合いですよ。ヘルダのことは幼い頃から知っているというだけです」
「はあ、なるほど……」
一国の姫とただの子供であるヘルダがどうして知り合うのか。
それもリタの様子からするとただの顔見知りという感じでもない。
その明らかに心配している様子に、クラーラは首をかしげるばかりだ。
──でも、イルザとヘルダも仲良いんだよね。
もしかしてイルザが誘拐したのかもと考えたが、それにしてはヘルダが懐きすぎている。
半分依存していると言ってもいい。
それが誘拐によるものだとはどうしても思えなかった。
ヘルダもまた混乱の中にある。
どうしてリタが自分のことを探していたのかが分からなかったのだ。
リタが森を訪れていたのは間違いなくエミリアに会うためで、ヘルダはただのついでのはず。
エミリアを探すついでにヘルダを見つけたことは分かる。
しかしエミリアはもういないのだ。
それを知ったはずなのに、どうしてまだヘルダに構うのかが理解できなかった。
「イルザ、遅いね」
「遅くならないって言ってました」
「あ、うん。そうだけどね」
リタがいては雑談も満足にできない。
一刻も早くイルザには戻ってきてほしいところだった。
「……そういえば、あなたはこのお店を開いて長いのでしょうか」
「ええと、どうでしょうか。見た目通りの年齢なので、そんなに長くはないですよ」
「そうですか。実は探している人がいるのですけれども、あなたは見たことがあるでしょうか」
「ええと……どんな人でしょうか」
「はい。豊穣のエフィーダという到達者です。この街に来ているという噂を聞いたのですけれど……」
エフィーダの名はクラーラも知っている。
気まぐれに現れては、地の魔法を授けるという到達者。
その名前を聞いた瞬間のことだった。
リタに話しかけられたことで気づくのが遅れたが、視界の端でヘルダが動いた。
販売用の並べられている剣を手にとったかと思うと、それをリタへと突きつけたのだ。
「リタさまが……リタさまがお婆ちゃんを殺したんですか」
誰もが想像できない事態が起きていた。




