四話
その知らせを聞いたとき、お松は卒倒しそうなほどおどろいた。
お岩がなぜ、佐吉っさと?
くわしい内容はおギンがおしえてくれた。
「お岩は前の店で旦那とできちゃってさ……おかみさんに追い出されて『近江屋』に拾われたんだよ。もともと、男ぐせが悪いのさ!」
「でも……なんで佐吉っさと……」
「その佐吉という婿は女ぐせが悪くてさ! あっ! ごめんよ。でも、ほんとうのことなんだよ。お松もあんなのと一緒にならなくてよかったよ! 佐吉は吉原に多額の借金をこさえててね。店の金にまで手をつけてたんだとさ。おかみさんに集金に行くって言っては、女のところに通いつめてたんだ。それを女郎に肩代わりさせたあげく、一緒に逃げようとしたみたいだよ。いやだ、いやだ」
「それがなじょしてお岩さんど……?」
「それがきゃ……顔見知りのお岩ば通して、あんたから金ば借りようどしていたみていだ。その相談ばしていらうちにデキちまったみてだ。お松は若旦那にかわいがられているだばな? だから、目をつけたんだね。悪い男だねえ。おや、あんたのなまりがうつっちまたよ」
「んだでしたか……」
「まったぐねえ……あんた、カネはちゃんともらったのかい?」
「それは大丈夫だ。親父がひとを使わして確認をとったから。お松が奉公しなくても暮らしていける額だったぜ」
「おや、若さま……もう、帰ってらしたんですか?」
「ああ。こんなときに得意まわりなんぞに行っていられるか! 番頭に任せて戻ってきた。お松……大丈夫か?」
「はい。わたしは、佐吉さんさ未練はありませんかきや」
「そうか……それならいいが……佐吉が一緒に逃げようとした女郎は捕まったそうだな」
「そうらしいですねえ……それでお岩に白羽の矢が立って、駆け落ちしたみたいですよ」
「『大見屋』から大金を持ち逃げしたらしいぞ」
「ほんとですか? うらやま……『大見屋』さんもたいへんですねえ」
「ああ。大騒ぎだ。とんだ婿をもらったもんだ」
「佐吉というのは真面目で働き者で評判の奉公人だったんですよ。人は見かけによらないもんですねえ」
「まったくだ……。お松、ほんとうに大丈夫か?」
「はい。大丈てでじゃ」
「お松が大事ないなら、それでいい。まんじゅうを買ってきた。みなで食おう」
「あら! それはいま評判の『大黒屋』さんのじゃありませんか? お松、茶をいれていただこう。カネばあ! 食べたがってたまんじゅうがとどきましたよ~!」
おギンは走っていってしまった。
若旦那とふたりきりで、なんとなくお松は気まずくなった。
「若さま……わたしもこれで……」
「お松、梅と呼んでくれ。佐吉のことがふん切れているなら、おれとのことを考えてみてくれないか?」
「梅さんのごどじゃか……?」
「ああ。お松、おれと所帯を持たないか?」
「ええっ! 梅さんとわたしが所帯を……」
お松は絶句した――。