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待ち人来たらず  作者: M38
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四話

 その知らせを聞いたとき、お松は卒倒しそうなほどおどろいた。


 お岩がなぜ、佐吉っさと?

 

 くわしい内容はおギンがおしえてくれた。


「お岩は前の店で旦那とできちゃってさ……おかみさんに追い出されて『近江屋』に拾われたんだよ。もともと、男ぐせが悪いのさ!」

「でも……なんで佐吉っさと……」

「その佐吉という婿は女ぐせが悪くてさ! あっ! ごめんよ。でも、ほんとうのことなんだよ。お松もあんなのと一緒にならなくてよかったよ! 佐吉は吉原に多額の借金をこさえててね。店の金にまで手をつけてたんだとさ。おかみさんに集金に行くって言っては、女のところに通いつめてたんだ。それを女郎に肩代わりさせたあげく、一緒に逃げようとしたみたいだよ。いやだ、いやだ」

「それがなじょしてお岩さんど……?」

「それがきゃ……顔見知りのお岩ば通して、あんたから金ば借りようどしていたみていだ。その相談ばしていらうちにデキちまったみてだ。お松は若旦那にかわいがられているだばな? だから、目をつけたんだね。悪い男だねえ。おや、あんたのなまりがうつっちまたよ」

「んだでしたか……」

「まったぐねえ……あんた、カネはちゃんともらったのかい?」


「それは大丈夫だ。親父がひとを使わして確認をとったから。お松が奉公しなくても暮らしていける額だったぜ」

「おや、若さま……もう、帰ってらしたんですか?」

「ああ。こんなときに得意まわりなんぞに行っていられるか! 番頭に任せて戻ってきた。お松……大丈夫か?」

「はい。わたしは、佐吉さんさ未練はありませんかきや」

「そうか……それならいいが……佐吉が一緒に逃げようとした女郎は捕まったそうだな」

「そうらしいですねえ……それでお岩に白羽の矢が立って、駆け落ちしたみたいですよ」

「『大見屋』から大金を持ち逃げしたらしいぞ」

「ほんとですか? うらやま……『大見屋』さんもたいへんですねえ」

「ああ。大騒ぎだ。とんだ婿をもらったもんだ」

「佐吉というのは真面目で働き者で評判の奉公人だったんですよ。人は見かけによらないもんですねえ」

「まったくだ……。お松、ほんとうに大丈夫か?」

「はい。大丈てでじゃ」

「お松が大事ないなら、それでいい。まんじゅうを買ってきた。みなで食おう」

「あら! それはいま評判の『大黒屋』さんのじゃありませんか? お松、茶をいれていただこう。カネばあ! 食べたがってたまんじゅうがとどきましたよ~!」


 おギンは走っていってしまった。

 若旦那とふたりきりで、なんとなくお松は気まずくなった。


「若さま……わたしもこれで……」

「お松、梅と呼んでくれ。佐吉のことがふん切れているなら、おれとのことを考えてみてくれないか?」

「梅さんのごどじゃか……?」

「ああ。お松、おれと所帯を持たないか?」

「ええっ! 梅さんとわたしが所帯を……」


 お松は絶句した――。

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