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帰還

拙い文章ですが、精一杯頑張りますのでお手柔らかにお願いしますm(_ _)m

 このところ立て続けに舞い込む縁談から逃れ、しばしの休息の途中にその報せはもたらされた。

「ご報告致します!たった今、国王直属騎士団第三部隊隊長ユヴェイン・ローレル、同じく第六部隊隊長アマネル・ファーキンの両名が任務より帰還致しました!」

 お手本通りに報告を済ませた男は頭を垂れ、かけられる言葉を待っている。

「ああ、もう帰ったのか。やはり流石だな、あの二人は」

 豪奢な装飾で飾られた自室にある大きな窓から外を眺め、彼はそう呟いた。どうりで先ほどから城内の様子が忙しなくなっていたはずだ。

「報告ご苦労だった。…さて、此度の危険な任務を難なくこなした奴らを俺も出迎えるとしようか」



 雲一つ無い青空に映える白亜の王城はやはりいつ見ても美しい。城門の前に立つ少女はその双眸を細めてそびえ立つ城を見つめていた。

 はたから見れば、それは王城に憧れる少女の微笑ましい光景であるはずなのだが、彼女───アマネル・ファーキンは誰が見ても普通の少女ではなかった。

 通常の騎士に比べればあまりにも軽装備ではあるが、その身に纏うものは確かに鎧であり、左右の腰に提げた対の長剣は彼女が騎士であることを示している。

「いつまでそうやってる気だよアマネル。さっさと中入って帰還報告して何か喰って休もうぜ」

 呆れた様な声に視線を向けると、そこにはよく知った男が予想通りの呆れた表情で立っていた。彼もまた通常よりも遥かに軽装備だが、纏う鎧と腰の大剣が彼が騎士であることを物語っている。

「一ヶ月ぶりの王城なんだよ。じっくり見てたって構わないでしょ。だいたいユヴェインが任務終わっても女と遊びまくってるから帰還が遅れたんでしょーが。それに比べればあたしが城を眺めてる三十分なんて取るに足らない時間だよ」

と、少しも悪びれずに言い放ったアマネルは、その間も最初の一瞥以外は城から視線を剥がそうとしなかった。そんな彼女の様子に男はスッと眉根を寄せる。

「んだと、この城馬鹿が。三十分も城眺めるとか頭のネジ外れてんじゃねえの?それにお前だって任務後は思う存分賭博やらなんやら楽しんでただろ。人のせいにすんなよ」

 彼───ユヴェイン・ローレルもやはり悪びれる様子は無く、淡々とアマネルの文句に言い返す。既に二人の周りには城に駐屯している騎士やら衛兵やらが集まりだしているが、アマネルもユヴェインもそんなことは全く気にせずに淡々とした舌戦は続く。

「この白亜の城の良さがわからないなんてそれこそ馬鹿だと思うけど?任務後の賭博もあんたが女遊びしてる間あたしは暇だったから賭けてきただけじゃない」

「別に城の良さなんてわかりたくもねえよ。そもそも女遊びも仕方ねえだろ。一ヶ月一緒に居る女が女とも思えない奴なんだからな」

「そんなだから頭悪いんだよ、あんたは。それに自分の女癖の悪さをあたしのせいにするのやめて」

「頭の出来は似た様なもんだろーが。てかもうちょっと女らしくなんねえの?」

 周囲を囲む野次馬はだんだんと増えていき、すっかり見世物状態である。

「女らしくなろうなんて思わないよ。少なくともあんたに言われてもねえ」

「ああそう。まあおまえが女らしくなったとしてもたかがしれてるだろうしな」

 そこでピンと辺りの空気が張り詰めた。アマネルは城から視線を外し、冷ややかな目つきでユヴェインを見やる。ユヴェインもそれに応える様にして瞳に挑発的な色を浮かべた。

 まさに一触即発といった雰囲気の中で彼らを止めようとする者など無く、野次馬の中には面白おかしく騒ぎ立てる者が居る始末だ。

「それくらいにしておけ。ユヴェイン、アマネル」

 そんな緊迫した空気を破ったのは凛とした強さを持った声だった。野次馬と化した騎士や衛兵が彼の存在に気付くやいなや笑みを引っ込め、頭を垂れる。

 周りを飲み込んでしまうような神々しさは彼が生まれ持った物。音無く流れる金の髪は王族である確かな証。吸い込まれそうな青の瞳は一切の穢れも無い、純粋な青。美しく整った彼の顔立ちは、白亜の城に全く引けを取らない完成された美であった。

「お久しぶりです、ハイライン殿下。王属騎士団第三部隊隊長ユヴェイン・ローレル、只今…ってか三十分ほど前に帰還致しました」

 自国の王子相手に頭も下げずに、一介の騎士とは思えない軽い口調で報告したユヴェインは、本来なら不敬だと言われてもなんらおかしくはない。が、目の前に立つ美貌の王子、ハイライン・ルーセンクロウはそんな彼の様子に気分を害することも無く、やんわりと微笑んだ。

「同じく第六部隊隊長アマネル・ファーキン、帰還を報告します。任務は成功。リズトネルに置ける不穏分子の排除はすぐに完了致しました。…ただ」

 やはりどこか敬意の足りないアマネルはそこで一旦言葉を区切り、下げていた顔を上げて溜め息を吐いた。

「ユヴェインが村や町に立ち寄る度に女引っ掛けて遊び倒すもんだから、結局帰って来るまで一ヶ月もかかっちゃいました」

 その口調は王子に対してのものとしては不適切すぎるのだが、王子はやはり楽し気に微笑むだけだ。その奇妙な様子に周りの騎士や衛兵も口を挟む事は無く、もはや見慣れたものと言わんばかりに苦笑しながら見物している。

「だあから、俺のせいだけにすんなって。殿下、こいつも賭博場に入り浸ってましたからね」

「それはあんたが女遊びしてたからだって言ったでしょ」

「やめておけ二人とも。おまえ達の口論に決着がつくわけないのだからな」

 苦笑して子供を諭すように窘められたことに、それまで淡々としていた二人がぐっと押し黙った。しかし罰が悪そうな表情を浮かべたアマネルに比べ、ユヴェインは未だ飄々とした態度をしている。

「とりあえず城内に入れ。自室でしっかり休んでおけよ。今日の夜会は騎士団隊長全員参加だからな」

 微笑んだ王子はそう言い残してさっと踵を返し城内に戻っていく。その姿が視界に捉えられなくなった瞬間に、周囲の空気が緩んだのがわかった。

「ああ~やっぱ殿下の前は緊張するよな~」

「オーラが違うからな!」

などと口々に聞こえてくる声を聞き流して城門をくぐりながら、アマネルは隣を歩く騎士の姿を再び見やる。

 高い身長に均整のとれた身体。やや癖のある黒髪は襟足が少し長い。切れ長で涼やかな目元に通った鼻梁、薄く色付く形のよい唇…と、この男はムカつくくらいによく整った顔立ちをしていた。中でも彼の意志が表れる黄金の瞳をアマネルは綺麗だと思っているのだが、それを口にしたことは一度も無い。

「ユヴェイン…あんた人前でくらいもっと恭しく出来ないの?」

 溜め息混じりにそう尋ねると、彼はこともなげに答えた。

「別にあいつが何も言わねえんだからいいだろ。殿下、とは呼んでるんだし」

 それに、と言葉を続けようとしたユヴェインの視線がある一点に止まり、途端に足を早めだす。

「マーサさん、お久しぶりです」

 彼が呼びかけた先に居たのは、簡素な服装で腰に剣を提げた銀髪の青年。整った顔立ちに紺碧の瞳を持つ彼はユヴェインの姿を見て立ち止まり、少しだけ驚いた表情を見せた。

「ユヴェイン!?アマネルも…おまえらもう帰ったのか。相変わらず凄いな~」

「案外楽な任務でしたよ。俺一人でも余裕でした」

「それはこっちの台詞だっての」

 相変わらずアマネルもユヴェインも形だけの敬語ではあるが、彼はそれを気に留めてはいない。

 楽し気に交わされる会話に参加しながらもアマネルが辺りを伺っていることに気付いたのか、マーサが突然顔を覗き込んでくる。いきなり目の前まで近付いた端正な顔に驚き、アマネルは咄嗟に後ずさった。

 おかしな事かもしれないが、アマネルは整った容姿には免疫がある。何かと行動を共にするユヴェインもそれはそれは整った精悍な顔立ちをしているし、身分は違えど縁あって仲良くしているこの国の王子は、まるで計算された人形の如く美しい容姿をしていた。けれどこのマーサという男はそんな二人とはどこかが違う。女を惑わす様な色香を全身から振りまき、異性であることを無意識に認識させられるのだ。

 ほんの少し紅く染まった頬を見てマーサは面白そうに口角をあげ、口を開いた。

「可愛い反応だね、アマネル。時間があればもっと構ってあげたいんだけど…生憎と今から騎士団の全体訓練だから」

 その言葉に俯きかけていたアマネルが勢いよく顔をあげる。その様子に何かを察したマーサは苦笑し、自らの背後に建つ訓練場を指で指した。

「シュリーザならもう訓練場だよ。行ってみたら?」

「…ありがとうございます」

 言うが早いかアマネルは二人を置いて訓練場に向かって駆け出し、すぐにその姿は見えなくなってしまった。

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