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プロローグ

――            ――


私は、貴方に会いたかったのだ。



 この気持ちに、多分嘘偽りは無いと思う。貴方を一目見たとき、私の心は吸引された。

 私が自分の気持ちを断言することができないのは、自分の心を保てないから。この世の事象は存在するのだと断言してしまうのは、あまりにも危ういことだから。要するに自分に自信が持てない。そんな私が、貴方に会いたかったと戯言を述べたところで、信じてもらえやしないだろう。

 それでも貴方は、私の心を離しはしなかった。流れるような黒檀の髪、鋭く紅い宝玉を宿した目。貴方を形成する何もかもが、愚かで汚れた私を打ち砕いたのだ。

 貴方を宿すその器に、紅い目に触れてみたかった。

 触れてしまったらそこから皮膚が裂けてしまいそうな、そして同時に私が壊れてしまうような、そんな気がした。鋭利な貴方だから、私は触れることすらできない。

 私は貴方に触れないほうがいいのだろう。だが、禁を犯す欲に抗えるほど、私は大人ではなく、純粋な人間でもなかった。

 私を護ろうとするその器は、例えるなら幾万の星を混ぜた、漆黒の杯のようだ。黒くて紅い、そして白い貴方の色は、空に打ち上げられながらも存在感を増していくのだろう。価値が高くて手が伸ばせない、そんな哀しいことを、考えさせられるような。


 私を護ろうとする貴方の紅い瞳は、私にとっての凶器だった。


 だからこそ驚いたのだ。私のような惨めで醜い、薄汚れた存在の人間に手を差し伸べ、護ってくれたことが。

 私に凶器を向けながら、貴方はそれが当たり前かのような仕草で私に語りかけてくれる。

 ひとりぼっちだった私は、ただ、嬉しくて。

 だから貴方に甘えてしまった。私の罪を半分、貴方に与えてしまった。愚かな行為だと分かっていても、私はもう独りでいたくなかった。貴方と一緒に、いたかった。


 それでも貴方は、微笑んでくれたから。


 貴方に支えられながら、私は貴方と共に罪を殺していくことに決めた。

 それがたとえ、永遠に巡り続ける運命だとしても。


 白くて細い手を握ると、貴方は心底嬉しそうに私の手を握り返した。


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