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メイク マイ デイッ!  作者: 平野ハルアキ
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ござる系男子

 ある休日の昼下がり――


 買い物帰りのアイシャの目に、一人の旅人らしき男がきょろきょろと辺りを見渡す姿が映った。


 フロイデでは珍しい『コソデ』に『ハカマ』と呼ばれる服装に、腰紐に差し込まれた刀。おそらく、東の『アカツキ王国』から来たのだろう。周囲を海で囲まれた島国であり、かつて行われていた鎖国政策の結果、独自の文化が発達した国となっている。


 お節介かなー。いやいや、騎士として困っている人を見捨てては置けまい。そう思ったアイシャは男の背中に声を掛けた。


「あのー、何かお困りですか?」

「ん? おお、助けて下さるか。これはかたじけない」

 男は振り返り、感謝の言葉を口にする。体格はやや小柄で、まだ年若い。アイシャとそう変わらない年齢であろう彼は、事情を説明した。


「実は拙者、刃を交える相手を探しているところでござるが、どこに行けば良いのですかな?」

「すみません。レヴェリア語でお願いします」


 まるで明後日の方向から来た回答に、反射的にそう答えた。






「――という訳で、コジロー君は武者修行のためにフロイデまでやって来たそうです。自分の剣の腕前を試すべく手合せの相手を探している、との事です」

「説明ご苦労様です。それで、なぜ私のところへ連れて来たのでしょう?」


 コジローと名乗る旅人をアイシャから紹介され、団長室にて仕事中のレイナールはにっこりと笑顔を浮かべた。


『大体分かりますけど、何あなたは私に面倒を押し付けてるんですか』というメッセージを裏に感じ取ったアイシャは恐縮しながら答える。


「ええと、つまり彼と手合せをお願いできないかなー、と……」

「騎士団長殿はこの国随一の剣の使い手とか。ぜひお願い申し上げまする」


 ぺこりとコジローは頭を下げる。そんな彼にレイナールはやれやれ、と言う風に肩をすくめた。


「私は休日と言う訳ではないのですよ。今日中に片付けなければいけない書類があるのです」


 正規の騎士達はシフトを組んで勤務している。世間が休日だからといって騎士達が全員休んでしまっては治安維持組織として問題である。


「あと、ぶっちゃけ危険人物の可能性があったので、その場合捕縛の手間が省けるかなー、と」

「ああ、それは納得ですね」

「ヒドイでござるよアイシャ殿!?」

 アイシャのカミングアウトにコジローが涙目で抗議する。まあ、街中で『刃を交えるうんぬん』とか言ってる時点で危ない人と思われても仕方ないのだが。


「分かりました。お相手して差し上げましょう」

 レイナールは椅子から立ち上がり、立て掛けてあった剣を手に取る。


「あ、ありがとうございまする!」

「構いませんよ。もちろん『安全装置』付きでお願いします」


『安全装置』とは魔法具によって武器に付加される魔術の一種である。武器が何らかの対象に接触すると、魔力が壁替わりになって保護してくれる。普段アイシャ達が使用している訓練用の木剣にも、同様のものが付加されている。


「承知したでござる」

「『安全装置』付きなら手加減なしでやっても死ぬ心配はないでしょうから、遠慮なく叩きのめす事が出来ます。まあだいぶ痛いでしょうけど、それは我慢して下さいね」


(わーお、イイ表情かおしてるー)

 この上なく爽やかなレイナールの笑顔に悪寒が走るアイシャであった。






「……と言う訳で私ことアイシャが立会人を務めさせて頂きます。二人共、準備は良いですか?」

「はい。いつでも良いですよ」

「準備万端でござる」


 アイシャの宣言に、彼女を挟む形で対峙しているレイナールとコジローの両名が答える。三人は現在、騎士団が訓練所として使用している中庭へ移動している。勤務中の騎士達の姿がちらほらと見え、何事かと言った風にこちらに視線を送っている。

 注目を受けている事に若干の居心地の悪さを感じつつも、アイシャは開始の合図を告げた。


「それでは……始めて下さい!」

 アイシャが手を振り下ろすと同時にコジローは刀を腰の辺りで水平に構え、力を込める。


「これは拙者が考えに考え抜いた技でござる! 果たして受け切れますかな!?」

「来て見なさい。先に打たせてあげます」

 微動だにせずレイナールは言う。その構えはまるで力みの感じられない、ゆったりとしたものであった。


「行きまする! 漆黒の闇に住まいし死を告げる天使よ……」

「コジロー君!? まさか『考え抜いた』ってその口上の事なの!? それは後になって精神的に悶絶する可能性があるから気を付けて!!」

「真理に手向いし無知なる者どもに、そのなんか凄い力を見せてやっつけるべし!必殺一文字切り!!」

「中盤辺りからかなり適当になってるんだけど!? 途中で力尽きちゃった!?」


 突進し、闇的な要素皆無で繰り出されたコジローの斬撃を、レイナールは軽く受け止める。


「甘いですよ」

「ならば、これはどうでござるか!」

 跳び退り、構えなおしたコジローが叫ぶ。


「闇よ! ……………………………………………………………必殺一文字切り!」

「もうネタ切れ!? 引き出し狭くない!?」


 先程と全く同じ様に繰り出された斬撃をレイナールは最小限の動きで捌き、


「ふんっ」

「痛ぁ!?」


 コジローの無防備な体に剣を思いっきり叩きこんだ。


「ふんふんふんふんふんふんふんふんふんふんっ」

「痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛いっ!?」

「団長! 最初の一撃でもう決着付いてるんでその辺で勘弁してやって下さい!!」

 怒号の勢いで剣を振り下ろすレイナールをアイシャは慌てて止めた。


「一本。私の勝ちですね」

「いや十一本打ち込んでますから!!」

 レイナールの勝利宣言に地に伏すコジローは悔しそうに呻く。


「くっ……。拙者もまだまだ未熟と言う事でござったか……」

「しかし、筋は悪くありませんでした。腕を磨けば、良い剣士になれますよ」

「ほ、本当でござるか! ならば修練を重ね、いつの日か団長殿を打ち負かして見せるでござるよ!」

「ふふ、楽しみにしていますよ」


 全身の痛みはどこへやら、闘志も新たに再戦を宣言するコジローと、にこやかにそれを受けるレイナール。そんな二人を眺めながら苦笑いを浮かべるアイシャであった。





                〜翌日〜



「……と言う訳で新しく入団したコジローさんです。皆さん仲良くしてあげて下さい」

「剣の腕を磨き上げるべく、本日より見習い騎士となったコジローでござる。よろしくお願いいたしまする」

「へー、こんな時期に入団って珍しいねー。……ん? アイシャどうしたの?」

「………………」


 それで良いのかフロイデ王国騎士団。


 滝の様な汗を流しながら、アイシャは自らが所属する組織に対し、声にならない疑問を投げかけるのであった。

 

 

 

 

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