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メイク マイ デイッ!  作者: 平野ハルアキ
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キノコ採りに出かけよう そのさん。

 ぜーはーぜーはー。


 魔物化キノコから逃げ切った三人はしばらくの間その場にへたり込んで荒い息を整えていた。


「そ……それにしてもキノコに喰われる日が来るなんて思いもしなかったわよ

……」

 それなりに復活したアイシャが言う。


「ま……まーきっと、キノコもお腹空かせてたんでしょ。それで味には目を瞑って手近に居たアイシャに喰いついた、と」

「なんか勝手に不味いとか決め付けられてるし……」


 疲労のせいかノノに対するアイシャのツッコミにもいつものキレがない。


「…………と、ところで、……ふ……二人とも……」

「あーナーニャ、落ち着いてからで良いから……」


 完全にグロッキー状態なナーニャにノノはそう言った。



                〜五分後〜



「…………も、もう大丈夫。さすがに全力疾走はきつかった……」

 虚弱体質、と言うほどではないが彼女は体力に自信のある方ではない。


「それで? 何か言おうとしてたんじゃなかったの?」

「……うん。落ち着いて聞いて欲しいんだけどね」

「? 大丈夫よ、あんな目にあった直後なんだし」

「……迷った」

「ふーん、なるほどね。私達迷ったんだえええええええええええええええええ!? このままミイラ一直線!? 白骨化して飢え死に!?」

「アイシャー。全然大丈夫じゃないじゃん。飢え死にと白骨化の順番逆だし」


 慌てふためくアイシャを、意外と冷静なノノがなだめた。


「……迷ったとは言っても方位磁石持ってるからちゃんと帰れるよ。取りあえず南に行けば森を抜けられる」

「……あ、そうなんだ。よ、良かった……」

「……だけど、逃げる時のドサクサで『魔物除け』を置いてきちゃったの。だからかなり辺りに注意しないといけない」


 魔物の生息地であるこの森は、『魔物除け』があるからこそ実験材料の調達先として利用できるし『一人ではそれなりに危険』程度で済む。それなしで歩く、というのは自殺行為であると言えるのだ。


「つまり気を引き締めて行こー、って事だね」

「……うん。二人とも、こんな事になっちゃってゴメン……」

「気にしないで、ナーニャ。それよりも早く脱出しましょう」






 薄暗い森の中を三人はおそるおそる、と言った調子で歩いて行った。先程までは気にならなかったような物音にも『びくっ』と反応してしまったりもする。

 それでも魔物に出会う事なく進んで行く。不安を紛らわすかの様にナーニャが口を開いた。


「……段々と視界が開けて来た。もうちょっとで出られるはず」

「うん、そーだね。一時はどうなる事かと思ったー」

「まだ気は抜けないけどね。さすがに魔物化した狼とかの猛獣系が出てくるとは考えづらい……」



 がさっ。



「考えづらいもんねっ。や、やだなぁノノ、驚かしちゃったりしてー」

「ア、アイシャこそー。あるいはただの空耳だよねー、あはははは」



 がさがさっ。がさっ。



「……!? まさか……」


 ナーニャが緊張した声を上げる。もはや空耳ではない物音が三人に確実に近づいてくる。その気配の主は――


『ぐるるるぅ………』

「「あははははははは!?」」


 らんらんと目を光らせる四足歩行の獣。普通のそれより明らかに巨大な体躯。


 ――魔物化した狼であった。


「……こんな森の浅い所に狼が出てくるなんて………。これはかなりまずい」


 二人いるとは言え、見習い騎士では分の悪い相手である。


「こ、コレ、明らかにこちらを標的にしているよね……?」

「……少なくとも友好的な感じじゃない」


 じりじりと後ずさる三人に一歩ずつ近寄る狼。


 今まさに飛び掛からんと身を沈めたその時――


「てやぁ!!」

 ノノが狼の眉間に向かって、拳大の石を投げ付けた。

 命中。狼は呻き声を上げて怯んだ。


「今の内! 逃げよう!!」


 叫ぶと同時にナーニャの手を引っ張って駆け出す。アイシャもそれに続いた。


「すぐには動けないはずだよ! 頑張って走って! 森の外までは追って来ないはず!」


 森の近くには街道がある。街道には『魔物除け』が設置されてある。さすがにそれ以上自分から近付く様な事はないだろう、と踏んだのだ。


 三人は、一心不乱に走る。

 走る。走る。走る。

 木の間をすり抜け、ツタをくぐり、茂みをかき分け、根っこを跨ぎ――


「きゃあっ……!?」


 アイシャが足を取られて転倒。リュックの中身が地面にぶちまけられる。


「「アイシャ!!」」

 ノノとナーニャの緊迫した声。


 狼の姿が見えた。アイシャに向かって来ている。逃げ切れない。

 狼が、今まさに大口を開けてアイシャへ――――


「……っ! ええーーいっ!!」


 咄嗟にアイシャは地面に落ちたリュックの中身――食べると色々キケンなキノコを掴み取り、狼へ投げた。口元へ向かって飛んで来たキノコを狼は思わずかじる。


『ぎゃわわん!?!?』

 奇声をあげ、狼はキノコを吐き出す。戦意をなくしたのか、そのまま森の奥へと走り去って行った。


「「「た……助かったぁぁ〜〜〜〜……」」」

 危機が去った事を認識した三人はへなへなとその場で脱力する。


「アイシャ、大丈夫ー?」

 しばらくして、息を整えたノノが尋ねる。


「何とかね。あー、死ぬかと思った……」

 大の字で地面に寝転びながら、アイシャは答えた。


「……それにしても、アイシャお見事」

「うん。剣を抜くには体勢が悪かったから無我夢中でね。まさか今日一日でキノコに命を狙われる経験と、助けられる経験を同時にするとは思いもしなかったわ

……」

 言いながら起き上がって、服に付いた土をはたき落とす。


「きっとアイシャは、キノコから運命さだめの鎖で搦め取られた存在なんだよ」

「どんな存在よ!? なんか無駄に大袈裟な表現だし!!」

「……まあまあ、アイシャ。それよりも早く帰ろうよ。もう森の外が見えてるよ」 ナーニャが指差す方へ二人は目を向ける。言う通り、そこには平原が広がっていた。


「良かった〜、抜けられたんだ。って言うかもう夕方じゃない。早く帰らないと団長達が心配してるんじゃないかな」

「……うん、そうだね。みんな、帰ろう」

 笑いながら、三人は帰路に就いた。

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