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メイク マイ デイッ!  作者: 平野ハルアキ
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大会始めました そのに

 一週間後、魔法研究所にて――


「はーい、みんなこんにちはーー!!」

『……こんにちはー』

 集まった見習い騎士及び研究所員達の、覇気のない声が部屋に響いた。


「うーん、どうしたのかなー、元気ないぞー? それじゃあ、もう一回」

「イリーナ所長。さっさと先に進めて下さい」

 子供向けイベントのようなノリで挨拶をするイリーナへ、その場の皆の意思を代弁するかのようにレイナールが言った。


「へいへい。……じゃーまあ、バトルロワイヤル大会始めちゃいましょーか。基本的なルールなんかは、事前に配っといた紙に書かれている通りだからねー」

「まあルールと言っても、そんな複雑なものでもないのよね」

 手元の紙に目を落としながら、アイシャは呟く。要は何らかのダメージを受けて一本取られたと判定されれば負け、最後まで残った者が勝ち、それだけだ。


 他にも、どんなダメージを受けても実際に怪我をする事はない、今回はフィールドに仕掛けを用意した、などの記載も彼女は改めて確認しておいた。


 仕掛けって、罠か何かかしら。それとも、有利になるような道具? まあ、やってみれば分かるか。

 脳内で自己完結しておく。


「そしてこちらが、今回の大会で使用する魔法具、『本の中に世界が出来ちゃったよ君〜僕、少し成長しました〜』よ!! この中に対戦フィールドとなる『幻影世

界』が広がっているわ!!」

 そう言ってイリーナは、本の形状をした魔法具を掲げてみせる。


「前より更に名前が変になってる!?」とアイシャ。

「おおー、なんか凄そうだねー。名前が変だけど」とノノ。

「大した技術でござるな。名前が変でござるが」とコジロー。

「素晴らしいじゃないか。名前が変だけどね」とカイル。


 その他参加者達の間からも口々に「おお、スゲー! 名前が変だけど」「楽しみだわ! 名前が変だけど」と称賛の声が上がる。


 見習い騎士達の反応に笑みを見せたり、拳を握ったりする研究所員達の中、ただ一人「……最高の名前だと思うんだけど……」とうなだれるナーニャであった。


「はいはい、皆さんお静かに。……では、イリーナ所長」

「そうね、早速行きましょうか。参加者はさっき配ったしおり、放さないでねー」 そう言ってイリーナは『本(略)君』を開き、中を参加者達に向ける。魔力を込めたしおりに反応し、それを持っている人物を『幻影世界』に送る仕組みだ。これにより、一度に多人数が利用出来るようになっている。


「アタシと戦うまで脱落しないでよね、アイシャ」

「そっちこそね、ノノ」

 目配せをし、言葉を交わす二人。


「じゃあ行くわよー! 『お越しやす〜、幻影世界〜』」

 その合言葉は変わらないのね……と思いながら、アイシャは『幻影世界』へと吸われて行った。





「相変わらず、本物と区別が付かないわね」

 久方振りの『幻影世界』の中で、きょろきょろと首を動かすアイシャが最初に口にした言葉はそれだった。開けた場所に立っている為、辺りも良く見渡せる。


 耳を澄ませば遠くから微かに参加者からの感嘆の声が聞こえて来る。開始していきなり戦闘、と言う事がない様に、それぞれの位置はある程度以上離されているのである。


『みんな聞こえるかしらー。一分後に開始するからねー』

『健闘を祈りますよ』

 降って来たイリーナとレイナールの声に、空を見上げる。


 今回は空に参加者の残りの人数と、互いの位置を確認出来る地図及び方位が表示されている。西側中央にある赤い点が自分で、多数の白い点が他の参加者だ。見る人それぞれで見え方が違う仕組み、との事であり、アイシャは内心でその魔法技術に唸った。


 軽く体をほぐし、静かに闘志をたぎらせている間に時は経ち、


『三……二……一……スタート!!』

 バトルロワイヤルの火蓋が、遂に切って落とされた。


「よーし、行くわよ! 取りあえず、手近な相手を狙いましょうか」

 一つ気合を入れて、南に駆け出す。

 左右を小高い崖に挟まれた場所に差し掛かる。


「居たわね。あれはトーマス君か」

 同僚の名前を口にし、剣を抜く。相手もこちらに気付いた。


「アイシャさんか。いざ、尋常に勝負!」

 トーマスと呼ばれた見習い騎士は叫び、手にした槍をアイシャへと向け、突進する。


 縮む両者の距離。十メートルを切った、まさにその時――


 崖の上から、何かの影が跳躍した。

「「……え?」」

 四つ脚のその影は土を削りながら、二人の間に割って入るように着地する。


 それは、『化物』と形容するしかない姿であった。

 獅子のような体躯の背には、大きな翼。額に鋭い一本の角。口元には凶暴さを湛えた牙が、獲物を求めるかのように鈍く光っていた。


『グゥルルルルルルルル』

「…………え? いや、あの、え?」

 その『化物』は、敵意しか感じ取れない唸り声を上げ、首をゆっくりとトーマスへと向ける。当のトーマスはまるで事態が飲み込めず、その場でオロオロするばかりだ。


『ゴワアアアアアアアアアアッ!!』

「のぉーーーーーーーう!?」

 瞬間、唸りを上げて躍り掛かった『化物』が、その右前足をトーマスへと振り下ろした。反応する暇もなく剛爪の餌食になったトーマスは、悲鳴だけを残してその姿を光と散らせた。


 え? ナニコレ? また不具合? え?

 いやいや、でも、姿が消えたって事は、えーとつまり、トーマス君別に死んだって訳じゃなさそうだけど、え? ナニコレ?


 一方のアイシャは、混乱する思考を繋ぎ止めるのに必死で、戦う事も逃げ隠れする事も出来ずにいた。

『化物』がこちらへを向く。間違いなく、アイシャを次の標的と定めている。


 飛びかからんとその身を沈め、


『キョエエエエエエエエッ!!』

『ゴガアアアアアアアアッ!?』

 突如、奇声と共に飛来した鳥が、その脚で『化物』を鷲掴みにした。二メートル以上はあろうかと言う『化物』が一掴みにされる程に、その鳥は巨大であった。


『巨鳥』は暴れる『化物』をその爪でがっちりと押さえ、風を残してそのままどこかへと飛び去って行ってしまった。


 その光景をしばし呆然と見送っていたアイシャは、


「ちょっ!? どうなっているんですかーーーーーー!?」

 やがて我に返り、空へと――つまりは外のイリーナへと叫び声を上げた。ほぼ同時に、フィールドのあちこちから困惑混じりの怒声が響いて来た。


『はいはーい、みんな静かにー』

 上空から、イリーナの飄々とした声が降って来た。その後ろから『何なんですかアレ!?』だのと言った声も聞こえる。その中にトーマスのものらしき声が混じっている事に、アイシャは安堵の息をついた。


 みなが落ち着いて来た頃を見計らって、イリーナは言った。


『ルールを書いた紙見てないの? 『フィールドに仕掛けを用意した』ってあるでしょ?』

 その一言で、事態を察する気配が伝わって来る。遥か遠くから。遥か頭上から。


『今回のテーマは『生存競争』よ。ちょっとばかり凶悪な魔物達が跋扈ばっこするこの地から、果たして生き延びる事が出来るのだろうかー!!』

『いや待てぇぇぇぇぇぇぇぇっ!?!?!?』


 バトルロワイヤル大会の影から、サバイバル大会としての側面が顔を覗かせた瞬間であった。


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