大会始めました そのいち
「……ってな訳よ。どう、レイナール騎士団長さん?」
「……イリーナ所長。お願いですから、思い付きだけで騎士団を巻き込まないで頂けますか……」
「えー、良いじゃないの。そこは臨機応変に行きましょうよ」
「臨機応変だと言えば、行き当たりばったりが許されると思わない事です」
「そんな事言わずにやりましょうよーーっ!」
「すみませんが、いい年した大人が床に身を投げ出して両手両足をジタバタさせないで下さい。みっともない上に、はしたないです。あと、ホコリが立ちます」
「ふふん、こんな事もあろうかと、スカートの下に短パンを穿いて来てるのよ。だから、下着が見える事はないわ。残念だったわね!」
「全く残念とは思っていませんし、みっともない点とホコリが立つ点は何ら解決されていません。と言うか、駄々をこねる事態を想定しないで下さい」
「お願いよ、レイナール団長。私はこの研究を、現在危篤状態にある父のために何としても完成させたいの。もう先が長くない父のために、一日でも早く……」
「あなたのお父様、今年だけでもう五度も危篤状態に入ってますけど、その後のお加減はいかがでしょうか? ちなみにお母様は三度、弟さんは二度です」
「ねえ、覗いて見たくなぁい? 乙女の、ヒ・ミ・ツ(はぁと)」
「先程短パンを穿いて来ているとおっしゃっていた方に、スカートの端をめくられましてもね」
「ああもうっ、泣き落としも駄目、色仕掛けも駄目って、じゃあどうすれば良いのよ!?」
「逆ギレも甚だしいですね……。……分かりましたよ、許可します」
「およ?」
「確かに、見習い達には良い機会ですからね。協力しましょう」
「おお、やった! 騎士団長様サイコー!」
「はいはい、どうも。次からは事前に話をした上で、計画的にお願いしますよ」
「ほーい。……それにしても団長」
「はい」
「まさか団長が短パン好きだとは思いもしなかったわ」
「何勘違いしてくれているんですかあなたは」
その日――
中庭の掲示板に貼り出されたお知らせの内容に、見習い騎士達の間からざわざわとした喧騒が立ち上っていた。
「バトルロワイヤル……?」
掲示板を注視しながら、アイシャは言った。
「何か、魔法研究所が開発した魔法具の実験も兼ねているみたいだねー。『幻影世界』とか何とか」
「ああ、あの時の。不具合直ったのかな」
ノノの口から出て来た聞き覚えのある単語に、アイシャは得心が入った。初めてリコとミーアに出会った日、三人は魔力で創った仮想世界に入った事がある。その時の魔法具の改良版を使うのだろう。
お知らせの内容を、かいつまんで説明するとこうだ。
来週、騎士団と魔法研究所の共同でバトルロワイヤル大会を開く。
参加者同士で戦い、最後まで生き残る事を目的とする。
対象は見習い騎士。参加は任意。
使用武器は近接系であれば自由。
場所は魔法研究所。『幻影世界』にて行われる。
優勝者には、金一封を進呈。
「金一封かー。中々魅力的だねー」
「そうね。大金って程でもないだろうけど」
何よりも、日頃の訓練の成果を発揮出来る良い機会である。自身の心が静かに、だが確かに沸き立つのをアイシャは感じていた。
「その顔、やる気みたいだね、アイシャ」
「そう言うノノこそ」
互いに目を見合わせながら、挑戦的な笑みを投げ掛ける二人。
「「負けないからね」」
そして、手の甲と甲とをこつん、と合わせながら、言葉を交わした。
「話は聞いたよ!!」
「だ、誰!?」
唐突に背後から響いて来た声に、アイシャは振り向く。
「そのバトルロワイヤル、僕も参加させて貰おう!!」
「いや、誰なのかは声で大体分かってましたけどね!? 何故そんな芝居掛かった登場の仕方するんですか!?」
掲示板に群がる見習い騎士達の後方、城内廊下へと通じる入口付近の壁にもたれ掛かりながら、参加を表明する第一王子カイルの姿がそこにはあった。
「と言うか、対象は見習い騎士ですよね。殿下は参加出来ないんじゃ……」
「……それは大丈夫ー!」
「わあっ!? ……って、ナーニャ、なんでここに!?」
またもや背後から声を掛けられアイシャが振り向くと、職場の違う友人の姿が何故かそこにあった。
「……殿下も特別に参加を許可するって、所長が言っていたから」
珍しく大声を出したためか、軽く息を整えてからナーニャは言った。
「そう言う事さ。特訓を積み重ねて来たその成果、確かめるには最高の舞台だよ。本気で行かせてもらうよ!!」
「そ、そうですか。まあ、やるからには手心なしでやらせて頂き……」
「その意気や良しでござる!!」
「なわあっ!? ……今度はコジロー君!? 口調で分かってたけど!!」
三たび背後から声を掛けられアイシャが振り向くと、仁王立ちをしながら叫ぶ同僚の姿がそこにはあった。
「されども!! 最後に勝ち残るのは、アイシャ殿でも、ノノ殿でも、殿下でもござらん。この拙者でござる!!」
「相手が師匠とは言え、譲らないよ。僕は必ず、勝者になってみせる!!」
背景に炎でも背負いそうな勢いで、コジローとカイルは火花を散らせる。ちなみに、とある理由(と言える程かどうかは分からないが)により、カイルはコジローを師匠と呼んでいる。
そんな彼らの事は脇に置いて、ノノはアイシャに声を掛ける。
「アイシャー、大丈夫?」
「うん、大丈夫……」
先程から心臓に悪い登場を重ねられ、脈拍が乱れっぱなしのアイシャはそう答えた。
「……勝者は誰か。その答えは、そう――」
ナーニャが息を吸い込み、
「――来週の、バトルロワイヤルで判明する!」
吐き出す勢いと共に宣言をした。
しばしの間、場を支配する残響の余韻。
そして、
「「「はい、お疲れ様でしたー(……でしたー)」」」
「コレ仕込みだったの!?」
満足気に言葉を交わす三人に、アイシャはそう叫ぶのであった。




