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メイク マイ デイッ!  作者: 平野ハルアキ
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今宵、あなたの後ろにも? そのに。

 夜の城下街を一行は歩いて行き、やがて問題の中央広場へとたどり着いた。


「見たところ、変わったところはないみたいだけど……」

 アイシャが辺りをざっと見渡すも、月明かりに照らされた広場には特別注意を引くようなものは何もない。


 広場に水音を響かせる噴水に、石造りのベンチ、そして腰くらいの高さの植え込み、それだけだ。昼の喧騒を取り除いた以外、見慣れた風景に違和感を覚えさせるものは見当たらなかった。


「やっぱりさー、ただの見間違えとかじゃないの?」

「ううむ、来たばかりではまだ判断出来ないでござるが……」

 別々の方向を見ながらノノとコジローは言う。


「大丈夫、ちゃんと策は考えて来ているわ。まずはそれを試しましょう」

「……策、ですか?」

 腕組みで語るイリーナに、ナーニャは首を傾げた。


「そう、策。伊達に魔法研究所の所長はしてないわよ」

 自信満々、と言った様子にアイシャ達は「おおっ」と期待を寄せる。


「なるほど。ではそれで行きましょう」

「まっかせといてー。では、行きましょうか」

 そう言うとイリーナは一歩、二歩と歩み出る。そして、自身の知能から練り上げられたその策を実行に移した。


「おーい、幽霊さーん。出ておいでー」

「これ以上ない位の正攻法だった!? 魔法全く関係ないですよね!?」


『はーい、ただいまー』

「そして出て来ちゃったよ幽霊!? 雰囲気も、それっぽい演出も、どこかに置き去りにしたまま!!」


 わざわざ研究所所長の肩書きを出してまで打ち出した策は、結果論だけに絞って評すれば上策であったと言えよう。目撃情報そのままの幽霊が、今こうしてアイシャ達の目の前に出て来たのだから。


 薄っすらと向こうが透けて見える、人型の白い影。顔の部分を見れば、表情も読み取れる。少なくとも、敵意は感じられないようだ。


「どうもこんばんは。あなたがこの辺りに出ているって言う幽霊かしら?」

『こんばんはー。はい、そうです。最近幽霊始めました』

「あら、お気の毒に」

『いやいや、そんなお気になさらず。取りあえず階段には気を付けて下さいね。じゃないとコッチ側に来ちゃいますからねー、あっはっは』

「そうね、気を付けるわ。あっはっは」


 そう言って快活に笑う幽霊に、イリーナもつられて笑い声を上げる。


「……って何なんですかこの状況はぁっ!?」

 目的の幽霊とサクッと出会って、最初に行う事がのんびりとした世間話。事前に予想していた『幽霊騒ぎの調査』からかけ離れた有様に、アイシャは星空に向かって叫んだ。


「まあまあ、アイシャ殿。手っ取り早く目標が見つかったから良いじゃないでござるか」

「そーそー。この調子なら思ったより早く帰れそうだしねー」

「何でみんな普通に幽霊の存在を受け入れているの……。……まあ良いや」


 一つ咳払いを入れて、アイシャは幽霊に話し掛ける。


「幽霊さん。最近この辺りで人前に出たりしてますか?」

『ああ、はい。夜中にここを通り掛かる人に話し掛けています。『すみませーん、そこのあなたー』って』

「……そのおかげでちょっとした騒ぎになっているので、控えて頂けますか?」

 額に手を当てながら言う。こんなにもアッサリと原因が判明した事に、安堵よりも先に微妙なやるせなさを感じた。


『そ、それはすみませんでした。僕としても早いとこ成仏したいと思っているんです。けれども、ちょっと事情がありまして、それも出来ず……』

「……事情? もしかして、それが通り掛かる人に話し掛けていた理由なの?」

 ナーニャが問うと、幽霊は『そうです』と答えた。


 幽霊の事情。それが彼の成仏を妨げ、現世に留まっている理由。


 一体、どんな想いをこの世に残して来たのだろうか。何に縛られて、あの世へと行けないのだろうか。


 アイシャの胸中に哀れみの念がちら、とよぎった。


『ド忘れしたんですけど、西って右と左どっちでしたっけ? 気になって気になって……』

「北を上とした場合、左です!! まさかソレが事情ですか!?」

 そして幽霊から放たれた言葉が、その念を崖下に蹴っ飛ばしてしまった。


『ああ、そうでしたそうでした! いやースッキリしました』

「良かったねー、解決して」

 晴れ晴れとした様子の幽霊に、そう言って笑いかけるノノ。一同が落着とした雰囲気の中、アイシャだけ

は頭を抱えてうずくまっていた。


『皆さん、どうもお騒がせしました。でもこれで心残りもなくなりました。安心して成仏出来そうです』

 幽霊が一礼する。


『それでは、さようなら』

 そして、天を振り仰ぎながら別れの言葉を口にした。


 ……。

 …………。

 ………………。


『………………成仏って、具体的に何をすれば良いんでしょうね?』

「生者にソレを聞かれても!?」

 その場できっかり一〇秒固まってから、困ったように尋ねる幽霊に、彼以上の困惑ぶりをアイシャは見せた。


「おや? 心残りがなくなったのに、成仏できないござるか?」

『どうやら、そのようでして……。あれー? おかしいなー?』

 首をひねる幽霊。そんな彼の様子を見たナーニャが、ずいと一歩前に出た。


「……念のために、私が用意しておいた道具がある。それを試そう」

「道具……って、もしかして除霊用の?」

 アイシャの問いに、こくりと頷くナーニャ。


「……効くかは分からないけど、魔法研究員として準備はしておいた」

 ナーニャはポケットの中をゴソゴソと探り、それを取り出した。


「……じゃじゃーん、お清めの塩ー」

「結局魔法関係ないし!? それただの食塩じゃない!?」

 食卓で普通に見かけるような瓶詰めの塩を手にしたナーニャは、そこはかとなく自慢気な様子であった。


「……これを幽霊さんに振り掛けてみると……」

『ああー、良い感じです良い感じです。これなら成仏出来そうだー』

「バッチリ効いてるし!?」

 塩が触れるやいなや、溶けるようにその姿を消していく幽霊。


『皆さん本当にありがとうございましたー。今度こそ本当にさようならー』

 恍惚の表情を浮かべながら、幽霊は現世から去って行った。


「…………無事解決、って事で良いんですよね……?」

「成仏したんだし、良いんじゃないの?」

 ぼそりと呟くアイシャに対し、あっけらかんと答えるイリーナ。


「つー訳で、みんなお疲れ様ー! だけど、お城に帰るまでが除霊だからねー」

「「「はーい」」」

「なんで遠足みたいなノリで締めるんですか!?」


 遠くから聞こえるイヌの遠吠えに重なるように、アイシャのツッコミ声が夜闇へと響いていくのであった。


少しの間投稿をお休みさせて頂きます。



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