今宵、あなたの後ろにも? そのいち
「ああ、すっかり遅くなっちまった」
ぼんやりとした月明かりとささやかな街灯に照らされながら、ロイドは人通りのない夜の城下街を歩いていった。『グリード』閉店後も居残りでゴドウィンの指導を仰いだ結果、深夜の帰宅となってしまった。
自身が志願した事なので、帰宅が遅くなったのは別に不満と言う訳ではない。
が、流石に日付が変わる寸前まで、と言うのはロイドとゴドウィン共に予想外であった。
明日休みだからって、ちっとばかり熱が入り過ぎたか。まあ、師匠がここまで付き合ってくれたのは、俺に期待を掛けてるって事だよな。
疲労した頭で、努めて前向きに考える。
そうこうしている内に、中央広場にたどり着く。昼間は活気のある場所だが、今の時間帯ではロイド以外に誰も居ない。
彼がそのまま通り過ぎようとした時、
『…………マ…………』
どこからか、声が聞こえて来た。
「……ん?」
不審に思って、立ち止まる。
空耳だろうか? ロイドは辺りを見渡す。しかし特に人影などは見当たらない。 ……いや。噴水の後ろ、そこに何か白い人影らしきもの見えた。それがロイドの方へと徐々に近づいて来て――
『…………ミマ…………』
「おわあぁーーーーーーっ!?」
絶叫を上げ、ロイドは一目散に駆け出していった。
「幽霊……ですか?」
ノノ、コジローと共に団長室へと呼ばれたアイシャは、怪訝そうな声で言った。
「そう、幽霊です。ここ最近、中央広場の噴水で目撃情報が相次いでいます」
椅子に座ったレイナールが、そう言って話を続ける。
「内容としては『白い影を見た』『声を聞いた』と言ったもので、具体的な被害はありません。ですが、住民から不安の声が上がっています。無用な混乱を避けるため、騎士団と魔法研究所で調査をする事になりました」
レイナールは執務机をコツコツと指で叩く。
「そう言う訳で、騎士団からはあなた達を出そうと思います。研究所からはナーニャさんに加え、イリーナ所長直々に調査に乗り出すそうです」
そう言われて、アイシャは自分達が選ばれた理由が分かった。要は以前のキノコ採りの時と同じ理由なのだろう。『仲が良いからやり易い』だけでメンバーを選んでも、何ら問題ない程度の軽い事件と言う訳だ。
「調査は明日の夜に行う予定です。もちろんスケジュールの方は調整しておきま
す。どうでしょう、頼めますか?」
レイナールの言葉に三人は顔を見合わせながら互いの意思を確認する。
「良い、よね?」
「良い、かなー?」
「良い、でござるか?」
同時に呟き、
「「「了解しました(でござる)」」」
そして綺麗に声を揃え、三人は調査に乗り出すのであった。
「つー訳でみんなー! 準備は良いかー!」
翌日の夜、研究所に集まったアイシャ、ノノ、コジロー、ナーニャを前に、拳を振り上げながらイリーナは言うのであった。
「いやあの所長、何でそんなテンション高いんですか……」
「だってアイシャちゃん? 夜にみんなで集まって幽霊調査とか、何をどう考えてもテンション上がるじゃないのー!」
「何をどう考えても、この場でそう思っているのは所長だけです」
いつも通りの平静さを保っている面子を横目で見ながら、アイシャは言った。もっとも、今のイリーナも『いつも通り』と言える訳だが。
「てゆーか、幽霊ってホントに居るの?」
「うん、まずそこよね……」
ノノの疑問に、アイシャは頷く。
アイシャは幽霊の存在を頭から否定はしていないが、かと言って肯定的であるとも言えない。一番近いのは『真剣に考えた事がない』なのである。
「……考えられるのは、死んだ人の意思が魔力と混ざり合って、その存在を維持してる、とかかな……」
ナーニャが見解を示す。とは言え、全く歯切れは良くないが。
「そんな事があり得るのでござるか?」
「……分からない。そもそも、仮説とすら言えない。『魔力的な側面からも調べて見よう』ってだけで、心霊関係はそもそも専門外なの」
コジローの疑問に答えるナーニャ。
「だったら私達が調査しても、結局何の解決にもならないんじゃ……」
「『調査した』って言う事実が重要なのよ、アイシャちゃん。何もなければそれで良し、誰かのイタズラだったら注意して終わり。最大の目的は住民を安心させる事なんだから」
「もしも本当に幽霊が出た時はどうするんですか?」
「そんときゃそん時よ。対処出来ない、と判断したら撤退してその事を報告、改めて対策を練るわ。取りあえず今日のところは、そんな深刻に考えなくても良いの
よ」
机に腰掛けながら、イリーナは説明をする。納得した様子でアイシャ達は「は
い」と答えた。
「つー訳でみんなー! 楽しんで行こうぜー!」
「締めの言葉は結局ソレなんですね!? 夜中なんですからもう少し静かにお願いします!!」
「しかし何だかんだ言って、自身の大声でのツッコミは止められないアイシャなのでありましたー」
誰に向かって言っているのやら、ナレーション口調で締めに入るノノであった。




