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メイク マイ デイッ!  作者: 平野ハルアキ
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フロイデ王宮事情 外出編

「ねーアイシャ、あそこになんか凄い怪しい人が居るんだけど……」

 街の見回りの最中、その人物の姿を捉えたノノは、はたと足を止めヒソヒソ声でアイシャに話し掛けた。


 ほっかむりで頭を覆い、周囲を気にしながらコソコソと行動する怪しすぎる姿。体格から察するに、恐らく男性。


 アイシャにとっては既視感を覚えるその光景は、彼女に驚きよりも先に行動を促していた。『その人物』へとつかつかと歩み寄り、「あの……」と声を掛ける。


「ヒイィッ! ……あ、あれ? 君は確かアイシャ君?」

「……陛下、こんなところで何をなさっておいでですか……」

 声を掛けられた瞬間に軽い悲鳴を上げたその男――フロイデ国王ニコラスの顔を確認したアイシャは、ため息混じりにそう尋ねた。


「どったのアイシャー、その人知ってえええええええええええええ!? へ、陛下むぎゅっ!?」

「わわっノノ、騒ぎになるから叫んじゃ駄目!」

 後を追いかけて来たノノが、不審人物の正体に気付き驚愕の声を上げるのを、アイシャは慌てて口を塞いで押し留めた。


「ええとアイシャ君、なんでこんなところに……?」

「見回りです。むしろ、こちらのセリフですよ。何故、陛下が城下街に……?」

「むぐーっ!?」と暴れるノノの口を押さえたまま、アイシャは尋ねる。


「い、いやね? やはり王たるもの、民の生活を直接この両のまなこに収めねばならない、と思ってね……」

「肝心の『両の眼』が泳ぎまくっているのを見ると、本当の理由はまた王妃様から逃げ出して来た、と言ったところですね……」

 出来れば王たるもの、視線を一所ひとところに定めて欲しい――と言う想いに蓋をしなが

ら、推測を述べる。


「いやまあ、その、そう言った事情もない事もないかな……。八、いや七割位には……」

「微妙な見栄を張らないで下さい……」

 と言うか、城の見張りは国王が外に出たのに気が付かなかったのだろうか。この国の警備体制はどうなっているのかと、見習いの身ながら心配になる。


「まあ、街の様子を見たいと言うのも一応嘘ではないからね。折角だからアイシャ君、案内してよ。国王命令って事にしといてあげるからさ」

「はあ……。分かりましたよ、もう……」

 先程までのオドオドした態度は何処へやら、ちゃっかりとそんな要求を出して来たニコラスに、アイシャはこめかみを押さえながら答えた。


「いやー、ありがとう。……ところでさ」

「はい?」

「……その子、大丈夫なの?」


「……きゅう〜……」


「え? ……わーー!? ノノーー!?」


 口元を押さえられ続け、呼吸困難に陥ったノノがぐったりとしているのに今更ながらに気付き、慌てふためくアイシャであった。






 パトロールの道すがら、アイシャ達はニコラスに街の案内を行った。


 例えば書店。

「ここは、私が良く行く本屋さんなんですよ」

「そう言えば、今日は『龍玉えもん』最新刊発売日だったね。二人共、寄って行って良いかな?」

「まさかの愛読者!? 今は我慢して下さい!!」


 例えば薬局。

「ここの薬剤師は腕が良いと評判なんですよー」

「そうなんだ。城の薬剤師が作る薬と、どちらが効くんだろうね。主に胃薬と湿布がさ」

「……普段の生活、と言うか扱いがにじみ出てますね……」


 例えば装飾店。

「陛下ー、良い子にしますから、ここのお店で一番他店での売却価格が高い商品を私に買って下さいよー」

「あっはっは、しょうがないなあ」

「私こんなに生々しいおねだりする良い子は初めて見たよ!? 陛下も安請け合いしちゃ駄目です!!」


 例えば『グリード』。

「確かここは、前の騎士団長だったゴドウィンが店長をしている店だったね」

「あれ陛下、ご存知なのですか?」

「うん、彼は頼りになる人物だったよ。実にたくましい、男の中の男だったね」

「……今の店長を見たらどんな反応するんだろうねー」

「へ、陛下、今日はお忍びですので、挨拶はまたの機会に……」


 ……と言った感じであれやそれや。民の活気溢れる生活ぶりに、ニコラスも終始満足気な笑顔を浮かべていた。


「いやあ、今日はありがとうね、二人共。やはり街の様子を直に見るのは正解だったよ」

 城門近くまで戻った辺りで、ニコラスは供をした二人に礼を言う。


「それは何よりです」

「お給料上げて下さいねー」

 にこやかにアイシャとノノは返す。


「ノノ君、それは君の上司に言ってね。……それでね二人共、もう一つお願いがあるんだけどね」

「「はい?」」

 一つ咳払いを入れて切り出すニコラスに、アイシャとノノは頭に疑問符を浮かべながら耳を傾ける。


「――多分今、ローズがカンカンになってワシを探してると思うからさ、見つからないように執務室まで戻るの手伝って欲しいんだ」

「「そこまで面倒を見ろと仰りますか!?」」

 国王陛下の口から発せられた要求に、見習い騎士二人はそう叫ばずにはいられなかった。


「頼むよー、見つかったらヒドイ目に合うしさー」

「と言うか仮に見つからずに戻ったとしても、その後はどうなさるおつもりです

か!? いずれは王妃様と顔を合わせる事になりますよね!?」


「いやまあ、それはホラ、後で考える事にしてさ……」

「それを問題の先送りと言うんです陛下!! 観念して謝った方が幾分かはマシなのではないでしょうか!!」


「でもさ、このままやり過ごせば時間が解決してくれる可能性も決してゼロではないって言うかさ……」

「つまり具体性のある方策が特にないって事ですよね!? その可能性はゼロ同然、と言う事実の方を直視して下さい!!」


 ひたすらに王妃との対面を拒むニコラスに、アイシャはもはや何の遠慮もなく正論を叩き付ける。そんな二人の姿をノノはただ無言で眺めるばかりである。


 否。正確には、二人の側に居るローズマリーの姿を、である。


「お帰りなさい、ニコラス。とっても心配したわよ」

 横合いから声を掛けられ、瞬間的に血の気が引いていくニコラス。止めどもなく流れ出る冷や汗を拭いもせず、ギギギ……と顔をローズマリーへと向けた。


「や、やあ、ローズ。探したかい?」

「ええ。とっっっても探したわよ」

 表面的には穏やかな笑顔を浮かべ、ローズマリーは言った。そのままニコラス肩へと手を置き、力を込めた。


「アハハハハ。……ねえローズ、凄く痛いんだけど」

「うふふふふ。……執務室に戻るまでに言い訳を考えておきなさい。全て完膚なきまでに叩き潰してあげるから」

「助けて!? ねえ二人共助けてよ!?」


 身も世もなく見習い騎士二人に助けを乞う一国の主。その求めに対し、


「「……あ、そろそろ訓練が始まる時間なので……」」

「見捨てないでぇぇーーーーーー!?」


 二人は、一片の偽りもない忠誠心を示した。


「ほらニコラス、行きましょうか。……そこの二人。大体の事情は察していますから。ご苦労様でした」

「ヒイイィィィィーーーーーーーーーッ!?」

 そのままローズマリーに引きずられて行くニコラスの姿をただ無言で見送る二

人。


「……戻ろっか」

 しばらく立ち尽くした後、どちらともなくそう呟くのであった。


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