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メイク マイ デイッ!  作者: 平野ハルアキ
28/39

海だっ!! そのよん。

「思ったより人居ないわね」

「皆様、意外とここの存在に気が付かないのですわ」

 翌日、リコとミーアに案内されて、アイシャ達は磯へとやって来た。


 海の青と黒くゴツゴツとした岩肌のコントラスト。所々に出来た潮だまりに潜む海辺の生き物。人の活気に溢れた砂浜とは、また違った魅力が感じられた。


「うーん、こう言うところって、軽く探求心がくすぐられちゃうわねー」

 辺りを見渡しながら、アイシャは言った。今の彼女は、水着の上にパーカーを羽織っている。


「ほら見て、アイシャー。ヤドカリさんだよ」

「負けないよー、リコちゃん。こっちはカニだー」

 潮だまりからつまみ上げた生き物を、比べ合うように掲げるリコとノノ。指につままれたヤドカリとカニが、ワキワキと手足を動かしている。


「大きさ的には互角ってところかな。引き分けー」

「むむ、次は負けないよー、ノノ」

「こっちこそー」

 即席の審判役を務めたアイシャの判定に、笑顔で火花を散らす両者。こう言った些細な事で夢中になるのも、野外遊びの醍醐味だ。


「お、こっちにはヒトデが居るぞ」

「ヒトデかぁ。人でなしって事ね、ヒトデだけに!」

「……ホントだ。キレイな星形してるね」

 キメ顔のイリーナを背景に、ナーニャはロイドがつまみ上げたヒトデを眺める。


「ヒトデかぁ。ヒトデなしって事ね、ヒトデだけに!」

「色も鮮やかですわね」

 キメ顔のイリーナを背景に、ミーアはロイドがつまみ上げたヒトデを眺める。


「ヒトデかぁ。ヒトデなしって事ね、ヒトデは人じゃないでしょ? そう言う意味での人でなしと、ヒトデって言葉を掛けた」

「遂にダジャレの解説始めちゃったよこの人!? いい加減スベってるって事実に気が付いて下さい!!」

 その場の皆が必死になって目を逸らし続けている事実。それを一切汲み取る気がないイリーナに、意を決したアイシャは心のハリセンを手に勇猛果敢に切り込ん

だ。


「むう、ノリが悪いわねーアイシャちゃん。海だけに、海藻類のノ」

「聞いてるこっちが辛いんでそろそろ止めて下さい!?」

 聞くに堪えない、恐ろしいセリフの気配を察した瞬間、アイシャは叫んでいた。中年男性のセンスを妙齢の女性と言う外皮で覆った人物。それが、イリーナの本質の一端であった。


「まあまあ、アイシャ殿。こっちにはイソギンチャクが居るでござるよ」

「……こっちはウミウシだよ」


『んで、こっちは人間っと』


「ホントだ――って、うひゃあ!?」

 唐突に割って入った謎の声と、遅れて聞こえて来たリコの声にアイシャが振り向くと――


『ほーむ、こりゃ人間の子供やわなー』

「わわわ! 何なのこいつー!?」

「お嬢様!?」

「た……タコ?」


 そこには、やたらと巨大なタコが、その足をリコに巻き付け捕らえる姿があっ

た。


「な、何でござるか!?」

「うわっ、こいつ魔物化してるタコじゃんか!!」

 コジローとノノが叫ぶ。


「つーか、魔物が人語を話してるぞ。あり得るのか?」

「……文献なんかで一応報告例があるみたいだけど……。普通はそんな事ないよ」

 ロイドの疑問にナーニャが答える。


「……でも、この近くにも『魔物除け』が設置されてあるのに。こんなところにまで魔物が来る訳……」

 魔物が嫌う波長を発する魔法具があるために、人間達の住む街や村には魔物が寄り付かないのである。当然、この海水浴場にも存在するのだが――


『ん? なーんかショマショマした感じがすると思ったら、それが原因かいなー』「一体どんな感じかサッパリ分からないけど、つまりは大して効いてないって事ね……」

 非常事態の割に、イマイチ緊張感に欠けるタコとの会話。かぶりを振って気を取り直し、アイシャはタコと対峙する。


「こちらの言葉を理解出来るみたいね。リコちゃんを離しなさい!!」

「そうだ、離してよー!!」

『ふふん、やーなこった』

 小娘の糾弾など意に介さず、と言わんばかりに鼻(?)で笑うタコ。


『なーに、ただ巣に連れて帰って観察するだけや。心配せんでも後で無事に返す

わ。おめーらだって、ヤドカリとか捕まえとるやんか? それと同じやわー』

「うーん、それを言われると弱いんだけど…………巣?」

 痛いところを突かれ声のトーンが落ちるアイシャであったが、気になる単語の存在に、思わず聞き返す。


『おう。巣』

「何処にあるの、それ?」

『ん? 海の中』

「助けてアイシャー!? 無事に返される前に絶対私溺れちゃうー!?」


 このままでは無事に戻る事が出来ないと知るや、リコは巻き付いた足の中でジタバタと暴れ始めた。エラ呼吸が出来ない人間にとって、海の中と言う場所は非常に住みづらい場所である。生命的な意味合いで。


『うおっ、コイツ子供の癖に力強いなー!? 大人しくせーや!!』

「きゃあ……っ!!」

 タコに体を強く締め付けられ、苦悶の声を上げるリコ。


「リコちゃん!! ……リコちゃんを返しなさい!! あなたさっき『ヤドカリ捕まえるのと同じ』とか言ってたわね。だったら、捕まった生き物と同じように全力で抵抗してやるわよ!!」

 これも一種の弱肉強食、妙な平等観に流される必要はない。そう心で念じたアイシャは、改めてタコに向き直る。


『勇ましい嬢ちゃんやなー。けど、こっちは伊達に魔物化しとらんでー。そこに居る全員が掛かって来ても、勝つ自信はあるでー』

「……悔しいけど、あいつの言う通りかも。状況が悪い」

 挑発気味に言ってのけるタコの言葉に、ナーニャが呟く。何しろ、こちらは武器の一つも持っていないのだ。


『そう言うこっちゃー。つまり、おめーらにゃどうする事も出来んわー!!』

 勝利を確信し、高笑いするタコ。


 この付近にいる騎士に助けを求めても間に合わない。さりとて、このままでは捨て身で戦っても勝ち目はない。一体どうすれば……。


 苦悩するアイシャ。だがその時――


「待ちなさい」

 今まで沈黙を保っていたイリーナが歩み出て、タコと対峙した。


『ん? なんやねーちゃん?』

「私が代わりに捕まってあげるわ。だから、リコを離しなさい」

 静かに、だがはっきりとそう告げる。


「所長!?」

「イリーナさん、一体何を!?」

 イリーナの言葉に、アイシャを始め一同がざわめく。


「危険ですよ所長!! いくら何でも……」

「良いの、アイシャちゃん。こう言うのは大人の役目よ」

 振り向いたイリーナは、にっこりと笑ってそう言う。そしてすぐに向き直り、タコに対して語り掛けた。


「どうかしら、タコさん? このナイスバディーをじっくり観察出来るわよ?」

『ええ度胸やなー。よっしゃ、その提案飲んだるわ』

 そう言うとタコは、足を巻き付けたままリコを地上に降ろす。


『よーし、このガキンチョを離すと同時にねーちゃんを捕まえるでー』

「イリーナ様……」

 ミーアが心配そうに声を掛ける。


「大丈夫よ、ミーア。後は任せたからー(・・・・・・・・)

 含みのある言い方に、ミーアははっとした。同時に、ナーニャが「……あ、なるほど」と呟いた。


「それよりも、ちゃんと約束守りなさいよー? アイシャちゃん、リコの確保よろしくね」

『わーっとるわ。アイシャとか言う嬢ちゃん、このガキンチョの体掴んどきや』

「わ……分かったわ」

 イリーナの言う通り、まずはリコの安全確保を優先させようと思い至り、アイシャは指示通りに両手でリコの肩を掴む。


『せーので行くでー。……せーの!』

 そう言うとタコは、リコを離すと同時にイリーナに足を巻き付けた。すぐにアイシャはリコを引っ張り、タコから離れる。


「リコちゃん、大丈夫!?」

「う……うん、アイシャ。平気だよ」

 リコの無事を確認し、一旦はほっとするアイシャ。しかし、代わりにイリーナが捕まってしまっている。状況は決して好転などしていない――


『よっしゃー。じゃあこのねーちゃん巣に持って帰って、色々観察したる……』

「ゴメンねータコさん、騙すような事しちゃって。もうこっちの勝ちなのよー」  イリーナの唐突な勝利宣言に『はあ?』とばかりに顔をしかめるタコ。その言葉で、アイシャはようやくイリーナの真意に気が付いた。


『勝ちやて? アホな事言うなやー。捕まっとる奴が入れ替わっただけで、そっちの状況は何も変わってへんでー』

 そう言って余裕の笑みを浮かべるタコ。


 彼は気付いていなかった。否、知る由もなかった。


 たった今、状況が劇的に変化した、と言う事を。


「じゃ、ミーア。リコの魔法具外してあげて」

「はい、分かりましたわ」

 そう言ってミーアは、パーカーのポケットから鍵を取り出す。それをリコの腕輪の鍵穴に差し込み、回す。


 かちゃり、と言う音と共に腕輪が開き、リコの手から離れた。


「お嬢様、怖い思いをさせて申し訳ありません。ですが――」

「うん、分かってるよミーア。ヒドイ目に合わされた借りは返さなきゃ」

 そう言ってタコの前へと歩み出る。


『なんやガキンチョー。折角離したったのに、また捕まりたい……』

「まずは肩慣らしで。……えーい!」

 タコの言葉を無視し、リコは掌を前方に向け、叫ぶ。


 瞬間的に火球が膨れ上がり、前方へと放たれた。

 火球はタコの側面をかすめ、後方の海へと着弾。発生した爆発は海水を巻き上

げ、大気を震わせる凄まじい轟音と衝撃をタコの背に浴びせ掛ける。


「うーん、快調快調。次は当てるよー」

 巻き上げた海水が雨のように降り注ぐ中、リコは真っ白になって固まっているタコに向かって、掌を向けた。


『………………………………………………………………………ナンデスカ、アレ』「あれがあの子の魔力よ。あの様子だと、まだ全力じゃないみたいね。末恐ろしいわー」

 辛うじて声を絞り出すタコに、イリーナはうんうんと頷きながら解説する。


『……………………………………………………………………こ、こっちには人質』「ちなみに、力も凄いわよー。さっき、あなたも体験したでしょ? あれが封印された状態で、今のあの子は封印を解いた状態。ついでにあなたは結構な巨体。つまり接近戦を挑めば、私を傷付けずにあなたを倒す事なんて簡単って事」


 勝機なし。


 タコの胸中に、たった一つの単純な言葉が刻み込まれた。


「それで、どうするのかしら?」

 イリーナの最後通牒に、


『………………………………………………………………………………降参します』 タコは弱々しく呟いた。






「それで、このタコどうするんですか?」

 連絡により駆け付けた騎士達に取り囲まれた上で縄で縛られ、すっかり意気消沈しているタコを指しながら、アイシャが言った。


「そうねー。曲がりなりにも人を襲ってる訳だし、このまま巣に返すって事はないわねー」

『あ……あの、命ばかりはお助けを……』

「私からもお願い。ヒドイ目には遭ったけど、殺しちゃう程の事は……」

 イリーナの言葉に弱々しく懇願するタコを見て、リコはそう口添えをする。


「まあ、そいつの目的は人間の観察だけだったからね。そこで一つ提案、魔力の研究に協力しなさい」

 指をピッと立てながら、イリーナはそう言った。


「人語を話す魔物なんて相当珍しいの。あなたの事を調べれば、魔力の影響に関して色々な事が分かるかも知れない。もちろん待遇は保証するわ。どう?」

『お、おおきにー!! 協力させてもらうがなー!!』

 イリーナの提案に、大喜びでタコは飛び付いた。


「よーし、決定ね。そいつは丁重に扱いなさいよー」

 騎士達にそう言ってから、その場を離れる。後は彼らに任せておけば良いだろ

う。


「それにしても所長」

「ん? なーに、アイシャちゃん?」

「所長の事、ちょっと見直しましたよ」

「へ……?」

 笑顔で告げるアイシャに、イリーナはキョトンとする。


「助けてくれてありがとうね、イリーナ。カッコ良かったよ!」

「い、いや、別に大した事じゃないしー。結局はリコが決め手だった訳だし」

 アイシャに続けて感謝の言葉を口にするリコに、あたふたとしながらイリーナはそう答える。


「でも危険な目に遭ったのは確かですし。中々出来る事じゃないっすよ」

「……所長、流石です」

「だ、だから、ホントに大した事じゃないってー。ちょっと何よ、どうしたのよ」 ロイドとナーニャからも賛辞が飛んで来るに至って、遂にはそっぽを向いてしまった。


「あれー、もしかして所長照れてるー?」

「胸を張るでござるよ、所長殿」

 ニヤニヤしながら言うノノと、称えるように言うコジロー。


「う、うるさーい! 子供が大人をからかわないのー!」

「でしたら、成人であるわたくしが褒め称えましょうか?」

「み、ミーアー!」

 したり顔で言うミーアに、顔を真っ赤にしながらそう叫ぶイリーナは、もはや普段の調子など欠片もなくなっていた。


「も、もうこの話はおしまい! とっとと帰り支度始めるわよ!」

『『『はーい』』』


 そう言ってさっさと歩き始めたイリーナの背を、一同は笑顔を見合わせながら追うのであった。


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