海だっ!! そのさん
「と言う訳で、スイカ割り始めちゃおーか!」
満腹感も落ち着いてきた頃合いに、ノノは一同を前にそう宣言した。各人からそれぞれ拍手や歓声が上がる。
「順番はさっき決めた通りでね。じゃー最初はアイシャ、行ってみよー!」
「ふふふ、いきなり割っちゃっても文句言わないでよね」
棒を手に、自信満々に歩み出る。スイカをしっかりと正面に捉えた状態で、ノノに目隠しをしてもらう。
「じゃあ、一〇〇回程体を回すからねー」
「回数を十分の一にした上でよろしく頼むわ。……いーち、にーい、さーん……」
数え上げながら、アイシャはその場でくるくると回る。
「……じゅーう、っと。行くわよー」
回数分回ってから、一歩一歩確かめるようにスイカに向かって行く。彼女の感覚では真っ直ぐ進んでいるはずだが――
「……アイシャー、右だよー」
ナーニャからの指示が飛ぶ。やはり目隠しによって、平衡感覚が狂っていたようだ。
「アイシャ、そのまま真っ直ぐだぞ」
「違うよー、もっと左だよー」
軽く方向修正すると、ロイドとリコから矛盾した指示が聞こえた。
「むむ、少なくともどっちかの指示は嘘って事ね」
もしかしたら、二人共嘘を付いているのかも知れない。
いや、最初のナーニャの指示も実は嘘だった?
誰の言葉を信じるべきか、アイシャは考えを巡らせる。
「アイシャー、もっと上の方だよー」
「ではなくて、下ですわ」
「アイシャ殿、夕日の向こう側でござるー」
「アイシャちゃーん、輝ける未来の方よー」
「ソレに一体どう騙されろと!?」
取りあえず、後の四人の指示は嘘である事は確定だが。
右だの左だの、前だの後ろだのとの声を浴びながら、アイシャは進んで行く。考えても分からないので、誰の指示を聞くかは直感だけで決める。
「そこだ、行けー!」
「よーし、てやぁっ!」
ノノからの指示にアイシャは棒を振り下ろす。しかし、彼女の手に返って来たのは「ザシュッ」と言う砂の感触であった。
「へへー、騙されたー」
「あちゃー、してやられたわ」
目隠しを外しながらアイシャは呟く。肝心のスイカの位置は――
「………………」
アイシャの遥か後方であった。
「……アイシャ、見事に嘘の指示にだけ従ってたね」
「のっけからスイカと正反対の方向へ進んでましたわ」
「……私の感覚って一体……」
遠くにあるスイカを眺めながら、呆然と呟くアイシャであった。
その後ミーア、ノノと挑むもいずれも失敗。四番手のリコが挑む事となった。
「よーし、行っくよー!」
目隠しを済ませ、気合を入れるかのようにそう叫ぶリコ。ルール通り、その場で十回転する。
「じゅーう、っと」
回り終えて、スタート。平衡感覚が優れているのか、意外とふらつきは少ない。
とは言えやはり、進路がズレている。修正するべく、アイシャは指示を出す。
「リコちゃーん、もうちょっと左だよー」
「リコー、もっと右よー」
アイシャと同時に、イリーナが嘘の指示を出す。果たしてどちらの指示を信じるか――
「うーん、イリーナはこう言う時は嘘を付くタイプだからねー。左かな」
「あれ、私の思考読まれてる!?」
人間観察を元にしたリコの判断は的確であった。左へと向きを変え、再び歩を進める。
「リコ殿ー、あの虹の向こうでござるよー」
「て言うかさっきから何故ソレで騙せると思うの!? 取りあえず時間帯とか天候とかを考えようよ!!」
そんな指示は軽く流しながら。
「お嬢様ー、そのまま真っ直ぐですわー」
ミーアの指示が飛ぶ。が、実はスイカは右側だ。
この指示に、アイシャの心に悪戯心が芽生えた。
「リコちゃーん、左だよー」
こちらも嘘の指示である。見れば、リコは少し迷っている。さて、一体どうするか――
「リコー、もっと右よー」
「イリーナの性格だと『ちくしょーさっきは嘘を見破られたー、だったら次は裏をかいて本当の事言ってやるー』って考えそうなんだよねー。右かな」
「所長、完璧に性格読まれてますね……」
「それなりに付き合いの長いわたくしが読まれてない辺り、子供でも読める位に性格が単純であると言う疑惑が浮かんで来ますわ……」
「ち、違うもんっ! これは、後々のためにわざと読ませてるだけだもんっ!」
感心と呆れがないまぜになった二人の視線を受け、イリーナは手をぶんぶか振り回しながら謎の反論をする。そうこうしている内に、リコはスイカへと近づいていた。
「そこだー、行けー!」
ロイドがそう叫ぶが、よく見ると体の向きが若干ズレている。アイシャがそれに気付いた時には、リコは既に棒を振りかぶっていた。
「てぇーい!」
そう叫び振り下ろす。『ズバァンッ!』と言う、普通のスイカ割りではあり得ない音と共に、砂の柱が立ち昇った。
「やった、手応えあり! ……あちゃー、ちょっと向きがズレてたんだねー」
目隠しを外してリコが確認する。振り下ろされた棒は、スイカの五分の一程を捉えたが、直撃とは行かなかったようだ。
が、それよりも一同はリコがもたらした『成果』に軽い戦慄を覚えた。何しろ、肝心のスイカの断面が『割れた』と言うよりも『斬れた』と言う方が適切な程に鋭いものであったのだから。
「うーん、まあちょっとは割れたから良しとしようかな」
「……話には聞いていたがすげぇな……」
「……て言うかリコちゃん? 魔力抑える魔法具付けてるんだよね……?」
リコの左手の腕輪を眺めながらアイシャは尋ねた。
「うん、そうだよ」
「……あのさ、本当にそれ役に立ってるの……?」
「何ちゅーか、本格的に封印の強化考えた方が良いかもねー」
顎に手をやり、イリーナは呟いた。
その後スイカはコジローの手によって割られるのであった。
スイカを美味しく頂いた後は、引き続き海水浴を楽しむ。やがて夕方になり本日はここまで、と言う事で別荘へと戻って行った。
そして夜――
「ん〜、最高〜〜!」
串に刺さった熱々の肉を頬張り、アイシャは至福の声を上げた。
牛、豚、鳥の各種肉類、ホタテ、ネギ、トウモロコシ、カボチャ――様々な食材が網の上のステージで共演し、炭火のスポットライトを浴びている。バーベキューと言う名のカーニバルは、今まさに最高潮を迎えていた。
「へっへー、お肉いっただきー」
「……ああっ、それ私が誰が取るかなーと観察してただけで別に取る予定はなかったお肉ー」
「つまり、取られて困るお肉ではないと言う事ですわね」
わいのわいの言いながら一同は夕食時を楽しむ。その内に、話題は明日の予定へと移った。
「だったらさー、磯の方に行って見る?」
「磯?」
リコからのそんな提案に、アイシャは尋ね返す。
「うん、海水浴場のちょっと向こう側にあるの」
「磯遊びかー。良いんじゃない?」
「そうだな」
「……異議なし」
次々と同意の声が上がる。
「じゃあ、明日は磯に行くって事で!」
アイシャの宣言に、一同は「おー!」と拳を突き上げるのであった。




