海だっ!! そのに
「ロイド殿、この辺りにするでござるか?」
「そうだな。ちゃっちゃと済ますか」
女性陣に先んじて砂浜へとやって来たコジローとロイドは、ビーチパラソルとシートの設置を始めた。男の着替えなど、そう時間の掛かるものでもない。事前に場所の確保を頼まれるのも必然であったし、断る道理もなかった。
シートを広げて四隅を荷物で押さえる。砂浜をスコップで掘って、パラソルをしっかりと突き立てるための穴を作る。
作業をしながらロイドは海水浴場を見渡す。ごった返す、と言う程でもないがかなりの人影。香ばしい匂いで客足をいざなう屋台。ギラギラと照り付ける太陽と相まって、活気に満ち満ちた光景であった。
「こんだけ掘りゃしっかり固定出来るだろ」
「そうでござるな。……おや、みんなが来たでござるよ」
コジローに言われて、そちらに視線を移す。
「おーい、二人共ー。おまたせー」
手を振りながら呼び掛けるアイシャを先頭に、女性陣が砂浜へとやって来た。
清楚な白、落ち着いた青、情熱の赤と、とりどりに彩られた色彩。可愛らしいワンピースから大胆なビキニまで、各人それぞれの水着姿。可憐なる花、との表現が相応しい出で立ちで、彼女達は海岸の砂を踏み歩いていた。
「………………」
「おなごの着替えと言うものは、存外に時間の掛かるものでござるなー。……どうしたでござるかロイド殿?」
「……いや、この光景を見て素で平静を保てるお前は、果たしてうらやましい奴なのか悲しい奴なのかどっちだろう、と思ってな」
「?」
年頃の男子にとって、直視するには勇気の要る光景から軽く目を逸らし、ロイドは哲学的な問いを投げ掛ける。当のコジローは問いの意味すら理解出来ていなかったが。
「場所取りありがとうねー。……ん〜」
手荷物を置き、アイシャは体をほぐすように伸びをする。おかげ様で、ロイドはアイシャの水着姿をしっかりと確認する機会を得てしまった。
上下共にオレンジのチェック柄のビキニ。普段は服の下に隠された肢体をさらけ出すには十分な、その布面積。何より厄介な事に――多少、婉曲的な表現を取らせて頂くと――アイシャは、実は結構な重量物の持ち主なのであった。
「……っと。よーし、泳ぐぞ〜。……ロイド君? 何そんな首を思いっきりねじってあっちの方を見てるの?」
「……いや、潮風が俺を呼んだ気がしてな……」
「?」
心底意味が分からない、と言った風に首を傾げるアイシャを見ながら、「無自覚って怖いねー」「……一発KOとはお見事」だのとささやき合うノノとナーニャであった。
「わーい!」
ワンピースタイプの水着姿のリコが海水を浴びせる。
「このぉ、やったな〜!」
タンキニタイプに身を包んだノノが逆襲に転じる。
「……義によって助太刀いたすー」
青いストライプ柄のナーニャは、そう言いつつも両者に海水攻撃を加える。
「ナーニャ殿に続くでござるよ……へぶぅ!」
「隙あり、ですわ」
戦況有利と見てナーニャに加勢しようとしたコジローを、パレオ付きビキニのミーアが阻止する。
そんな風に波と戯れる彼女等と荷物を見守りつつ、大胆なビキニ姿のイリーナはのんびりと読書に耽る。
それぞれに海を満喫し、やがて昼食時となった。
「皆様、お待たせいたしました」
「色々買ってきたよー。早い者勝ちだからねー」
屋台での食料調達を済ませたミーアとノノが、両手の袋を掲げながら戻って来
た。
「これはタコ焼きでしょー。で、こっちは向こうの屋台のタコ焼きで、これはあっちの店のタコ焼き」
「『色々』の内容がだいぶズレてるよね!?」
「大丈夫ですわ。個数は全て一パック八個で揃えてますから、どれを選んでも不公平になりませんわ」
「『大丈夫』の内容までだいぶズレてた!? て言うかミーアさんも共犯なの!?」
タコ焼き尽くしの袋の中身を、アイシャは衝撃と共に眺めるより他なかった。
「まーまー、店によって味がどう違うか確認してみるのも良いじゃん」
「そうですわよ。それに、屋台といえばタコ焼きですし、何よりタコ焼きって美味しいですわよね?」
「ま、まあそれもそうね。ミーアさんが何故そこまでタコ焼きを推すのかは置いとくとして。一応、焼きそばとかも入ってるしね……」
どうやらミーアは共犯と言うより主犯であるらしい事を察しながら、アイシャは袋の中のタコ焼きを全員に配っていく。
「いただきまーす! うーん、美味しい!」
「ほらリコー? 口の中ソース一杯付いてるじゃないのー」
「いやイリーナさん。一見違和感を感じない発言ですが、良く聞くとそれ普通の事っす」
「いやー、出来たては美味いでござるなー」
「……マヨネーズも良い感じ」
「ええ。何と言っても、タコ焼きですから」
「だから何故そこまでタコ焼きを推すの!? 美味しいけど!!」
「店による味の違いは良く分かんないねー」
わいわい言いながら、舌鼓を打つ一同。空腹に任せ、あっと言う間に袋の中身を空にしてしまった。
「ごちそーさん。あー食べた食べた」
口元を拭いながらイリーナは言った。
「ちょっと腹を休めてから、また泳ぐか」
「そだねー。よっ、と」
「ノノ、駄目だよー。食べてすぐ横になったら牛になっちゃうんだから」
シートの上に寝そべるノノに、リコは恐らくは親に教わったであろう俗説を元にした注意をする。
「大丈夫だよー、牛になる覚悟はもう済ませてるから」
「あんたはもうちょっとヒトである事にこだわりなさい……」
謎の覚悟を完了させたノノを止められる者は、もはや一人たりとて存在しなかった。まあ実際、眠るのでなければ問題はないのだが。
「あー、でもホントに来て良かったよー。リコちゃんにミーアさん、改めてありがとーね」
「うん! どういたしまして!」
「こちらこそ、ありがとうございます。賑やかで楽しいですわ。……それと、出来ればそちらであからさまなアピールをしているお方にも、お礼を言って差し上げてあげて下さいな」
そう言ってミーアは、ノノの方を「じぃ〜〜〜〜っ」と見つめながら自分を指差すイリーナへの注目を促した。
「はいはい。所長ありがとー」
「いやー、そんなお礼なんて良いのよー。なんつーか、大人として当然って言うかー?」
「本当に大人気ないよこの人……」
白々しいセリフをのたまうイリーナの姿を眺めながら、アイシャはこう言う大人にはなるまい、と胸中で誓った。
そんなこんなで一休みした一同は、再び各々に海を楽しむのだった。




