海だっ!! そのいち
魔力で駆動する車にはるばる揺られ、アイシャ達はその地へと降り立った。
頭上には抜けるような青空と、さんさんと照り付ける太陽。眼前には陽光に照らされ、白く輝く砂浜とどこまでも広がる青い海。
「うわ〜、キレイね〜」
「おおー、良い感じじゃーん!」
感嘆の声を漏らすアイシャの後ろから、荷物を手にしたノノが車から降りて来
た。慣れない長距離移動に、つい先程までダレていたとは思えない程の快活さである。
「えへへー、良いところでしょー?」
ぴょこん、と車から降りながらリコが尋ねる。そこはかとなく自慢気な雰囲気
に、アイシャは微笑ましさを感じた。
「うん、すっごい良いところだね!」
「ふふん、もっと褒めなさいアイシャちゃん! 運転した私共々!」
「何故ここで割って入りますか所長!?」
ババン! と仁王立ちしながらイリーナが言い放つ。これ見よがしに自慢気な雰囲気に、アイシャは大人気なさを感じた。
「まあ、それくらいは勘弁してやれよ。実際イリーナさんのおかげでここに来れた訳なんだしさ」
「……リコちゃんとミーアさんもね」
「そうでござるなー。感謝感激でござるよ」
「ふふ、どういたしまして」
次々と車から降りながら、ロイド、ナーニャ、コジロー、ミーアはそう言った。 八人はそれぞれ荷物を持って、リコの父親が所有する別荘へと移動する。一泊二日の海水浴に胸を踊らせながら。
きっかけはイリーナからアイシャへの提案であった。
何でもこの時期、リコは両親と共に別荘へと遊びに行くのが毎年の恒例らしい。しかし今年は両親の都合が合わない。そのため代わりにイリーナが連れて行く事になった。
アイシャにはいつぞやの『幻影世界』の件でのお礼もしたいし、リコも喜ぶだろうから一緒にどうか、とお誘いの言葉が掛けられたのである。大喜びでアイシャは承諾。折角だからと彼女の友人達にも声を掛けてみれば、全員二つ返事で参加を了承。
かくしてアイシャ達は、フロイデ城より南方に位置する海水浴場へと遊びに行く事になったのである。
ちなみにレヴェリアにおいて、魔力で駆動する車は珍しくはないものの決して一般的と言えるほどのものでもない。都市部などで公共の交通機関として用いられるのが普通で、個人で所有出来るのはかなり裕福な人物に限られる。
今回用意した車はリコの父親の所有物を借りたものである。そしてイリーナは仕事柄この手の魔法具に触れる機会を得ており、そのため車の運転技術を持ち合わせていたのであった。
閑話休題――
「皆様、あちらが今回の宿である、ご主人様所有の別荘ですわ」
ミーアがうながす方向へ、アイシャは視線を向ける。やや小高い丘の上、海水浴場を一望出来る場所に建てられたログハウスがそこにはあった。
「わあ、おしゃれ〜」
「ふっ……。なかなかやるじゃないの」
「いやノノ、お前一体どう言う立場での発言なんだよ」
わいわい言いながら一同は鍵を開け、中へと入る。広々とした二階建てだ。八人でも余裕を持って利用出来るだろう。
「取りあえず荷物を置きましょうか。男性陣は一階の寝室をお使い下さいな。女性陣は二階の大部屋を使わせて頂きますわ」
「かたじけないでござる」
「寝室って、この扉か」
そう言ってコジローとロイドは荷物を置くため、寝室の扉を潜る。その間に女性陣はドタドタと階段を登って行った。
アイシャが荷物を置いて一階へと戻りリビングへ向かうと、既にコジローとロイドがソファーでくつろいでいるところであった。
「まー取りあえず、一息ついたら早速海に行こーか」
「……うん、そうだね」
後ろからやって来たノノとナーニャがそう言いながら空いている席に座る。残りの女性陣もすぐに降りて来て、ひとまずミーアが用意した飲み物で喉の渇きを癒やした。
「うーみーっ、楽しーみー」
「ふふっお嬢様、まずはお着替えしましょうか」
リコが即興の歌を口ずさみ始めたのを合図に、全員がそれぞれに立ち上がる。
「少年達ー、私の水着姿に悩殺されないように気を付けなさいよー? あとノゾキはバレないようにねー」
「か、からかわんで下さいよ」
イリーナの軽口にあたふたと手を振るロイドの姿に、茶化すような笑い声が上がる。
「心配無用でござるよ。所長殿の水着姿に動揺する事などあり得ませぬし、ノゾキなどしたところで何ら無価値なかなり痛いっ!?」
歯牙にも掛けぬ、と言わんばかりのコジローの姿には、代わりに所長直々の手刀が脳天に与えられたが。
「うっさいわ!!」
「つーかコジロー、無価値とは何よー」
イリーナの叫びの後に、ノノが呆れ顔で続く。その二人を交互に眺めたコジローは、大きく頷きながら言った。
「……なるほど、反省するでござる。お詫びに、必ずノゾキをする事をここに誓うでござものすっごく痛い!?」
真顔で明後日の方向へと振り切れたコジローに、イリーナ&ノノの渾身の手刀が脳天に炸裂した。
「うーん、着替える時は気を付けないとだねー」
「そうですわよお嬢様。油断しないよう気を付けなければいけませんわ」
「ちょっと待て二人共!! 何故俺の方を見ながら言う!? 完全なとばっちりだ!!」
ジト目のリコとミーアの視線に晒され、ロイドは無言では居られなかった。冗談半分の先程ならともかく、本気でそう思われては精神的にだいぶ辛い。
「……大丈夫だよ、リコ。そんな度胸も甲斐性もロイドには皆無だし、彼がノゾキなんて未来永劫絶対にあり得ないから」
「ここまで本人の心をズタズタに引き裂く信頼の言葉はなかなかねえぞ!?」
表情に関してだけは穏やかに信頼感を表すナーニャに、ロイドは軽く涙目になって叫んだ。それは、実に悲しい信頼感であった。
「だ、大丈夫だよロイド君! 私には分かってるから!」
「うう……、ありがとうなアイシャ……」
落ち込むロイドを励まそうと必死に言葉を紡ぐアイシャ。彼女は、精一杯の真心を込めて言った。
「ロイド君が、ちゃんとノゾキをするような人だって事を!」
「お前何とんでもない事口走ってくれてんだ!?」
その場の雰囲気に流されるまま、フォローと言う名の爆弾発言を投下するアイシャに、ロイドはもはや悲鳴を上げる他ないのであった。




