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メイク マイ デイッ!  作者: 平野ハルアキ
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お店の戰い

「三人共、ちょっと良いかしら?」

『グリード』にて、カウンター席に座って食事を楽しむアイシャ、ノノ、ナーニャ達に、ゴドウィンが話し掛けて来た。


「ちょっと待ってー。今コーンを一粒一粒フォークで突き刺すのに忙しいから」

「後で良い上にどうでも良いでしょ!!」

 特に意味のない細かい作業に没頭するノノは捨て置いて、ゴドウィンは用件を切り出した。


「実はねぇ、お店の売上アップのためのアイデアを考えてる最中なのよ。折角だから、あなた達の意見を聞きたいと思って」

「……そう言われても、私達じゃ飲食店の経営とか分からないし……」

「いや、先入観のない奴の意見とか、案外参考になったりする事あるんだよ」

「あ、ロイド君」

 厨房の奥から姿を現したロイドが口を挟んで来た。皿洗いでもしていたのか、両手をタオルで拭いている。


「そうそう、そんな深く考えなくて良いから。思い付いた事を言うだけで良いわ」 頼み事でもするかのように手を胸の前で軽くパチンと合わせるゴドウィンに、三人は顎に手を当て「うーん」と考えを巡らせてみる。


「超頑張って一生懸命お客を呼び込むとかかなー」

「いくら何でももう少し深く考えなさいよ……。うーん、パッと思い付くのは新メニューを出す事かな?」

 アイシャがポツリと呟く。


「ああ、新メニューなら出す予定があるわ」

「へえ、どんなのですか」

 そう尋ねられたゴドウィンは、自信満々に胸を張って答える。


「ふふ。その名も『店長の気まぐれサラダ』! 日によって内容が変わる、ドキドキ感溢れるメニューよ」

「おお、割とよく聞くメニューですけど、面白いんじゃないんですか?」

「……『気まぐれパスタ』もたまに聞くよね」

 その新メニューに対するアイシャ達の反応は悪くない。それを見たゴドウィンは上機嫌で笑顔を浮かべた。

 何故かロイドは気まずそうに目線を逸らしているが。


「じゃあさじゃあさ、他にも気まぐれ系メニュー増やして見たら? 例えばスープとかさー。日によって味が変わるとか面白そうじゃん」

 雰囲気に任せてノノが提案する。しかし、


「あ、それは無理よ」

 にべもなく却下された。随分とアッサリ否定された事に、三人は首を傾げる。


「何故ですか? 確かにアドリブで作るのは無理でしょうけど、予め作っておけば問題なさそうですし。結構行けそうな感じが……」

「あー、それなんだけどな……」

 先程から挙動不審なロイドが、アイシャの言葉を遮る。疑問顔の彼女に、発言を続けた。


「『気まぐれサラダ』って、要はその日の余ってる食材を捌くのが目的だから。予め作るのは無理なんだよ」

「「「…………」」」

 語られた真相に、居たたまれない空気が三人を包み込む。飲食店の涙ぐましい努力の一端に触れた瞬間であった。


「何よう。ドキドキ感は味わえるんだから良いでしょ」

「今は微妙なやるせなさを味わってますけどね……」

「ま、まーそれはともかくとして。他にはお店の制服を変えてみるとか。カッコ良いのとか、可愛いのとか」

 場の空気を変えるべく、ノノが別のアイデアを持ち出す。


「……うん、それ良いかも。男の人は執事で、女の人はメイドとか」

「おいおい、俺が着る事になるんだぜ。勘弁してくれよ」

「えー、執事服のロイド君とか意外と似合うかも知れないよ?」

「そーそー。見せてくれたら、思いっきり笑い飛ばしてあげるからさー」

「そう言われて着る奴が居るか!!」

 わいのわいの言いながら盛り上がる四人。その様子をゴドウィンは「うんうん」と頷きながら眺める。


「そうね、見た目にこだわるのも大事よねぇ。フリフリの可愛い服とかも良いかも知れないわね――」

「へへー、そう言って貰えると提案した甲斐がある……」


「ワタシが着る服として」

「「「「それ絶対良くないですよ!?」」」」


 恐るべき発言に、脊髄反射的に四人は叫んだ。


 瞬間、彼らの脳内で想像の翼が力強く羽ばたく。

 それ以上考えてはいけない、と必死に抑える理性の鳥籠は、しかし抵抗虚しく突き破られ四散する。枷を失い暴走する翼は、鮮烈なるビジュアルイメージを脳裏に描き出す。


 筋骨隆々たるゴドウィンが、フリフリな服装で「いらっしゃいませ☆」と出迎えるその姿を。


 若者達の心に、深くくらい傷が刻み込まれた。


「……ほ……他には宣伝をどんどんしてくとか……」

 絞り出すような声で、ナーニャがアイデアを口にする。アイシャ達も悪夢を振り払うかのようにその提案に食らい付いた。


「そ……それも良いよね! うん、宣伝は大事!」

「なるほどな! いやあ、良いアイデアだよな!」

「うんうん、ホントそう!」

 やけっぱちで口を揃える彼らの姿を、ゴドウィンは興味深そうに眺める。


「あら、良い反応ね。……宣伝かぁ。そっちに力を入れてみようかしらね」

 一つ大きく頷き、彼はその提案を受け入れた。


「三人共ありがとうね。みんなの意見、参考にさせてもらうわ」

「そうですか、お役に立てたのなら幸いです」

 礼を言うゴドウィンに、アイシャは笑顔で答えた。


 その後三人は残っていた食事を平らげ、店を後にした。






 数日後の朝――


「新聞、新聞っと。……あれ?」

 起床したアイシャが郵便物を確認すると、『グリード』と書かれたチラシが新聞紙の影から顔を覗かせていた。


 ああ、この間の意見を早速実行に移したのね。どれどれ――

 アイシャはチラシを引き抜き、内容を確認してみる。


『毎日が強欲! 大衆食堂グリード、超頑張って一生懸命営業中!』

『店長の気まぐれサラダ始めました! 日によって内容の変わる、ドキドキ感溢れる新メニュー! ※内容は余り食材によって決まりますので、リクエストには応じられません』

『店員一同、フリフリドレス姿でお待ちしております!』


 目眩がするようなフレーズが踊る文面に合わせ、店長の写真が大きく写し出されていた。


 それは決してあってはならない、禁断の衣装を身に纏った姿であった。


「………………」

 眼前の悪夢はアイシャの脳裏にこびり付き、癒されつつあった心の傷を容赦なく広げた。






「うーん、ここのところ客足が遠くなっているのは何故かしらねぇ……」

「すまんみんな、俺じゃ止められなかった……」

 フリフリドレスに身を包み、ゴドウィンとロイドはそれぞれに呟くのであった。

 


 


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