番外編 まんがレヴェリア昔ばなし ももたろう そのさん。
「あれが鬼ヶ島ね……」
海岸へとたどり着いたリコたろう一行の目に、鬼達の住まう禍々しき島の姿が映し出されていました。
……すみません、ちょっと盛りました。
割と普通の島でした。
立て看板に『鬼ヶ島まで船で十分 料金一人三〇〇ウルム』と書かれていなければ、分からなかったかも知れません。
「お客さん方、鬼ヶ島へ行きたいでござるか?」
一行が島を眺めていると、ござる言葉の船頭らしき人が話し掛けて来ました。
「うん、そうだよ。これから鬼退治に行くんだよ」
リコたろうは、目的を包み隠さずに言いました。
恐らく彼は、鬼ヶ島への渡し賃で生計を立てているのでしょう。鬼達との繋がりがあってもおかしくはなく、そんな相手に鬼退治の計画を明かすのはマズイのではないでしょうか。乗せてくれないかも知れませんし、鬼達に情報を伝えるかも知れません。
「そうでござるかー。頑張るでござるよー」
幸い、そんな思惑など毛頭ない相手でした。それはそれで無頓着が過ぎるような気もします。
「ささ、乗るでござるよ。すぐに出発出来るでござる」
船頭に促されて、船に乗り込みます。いよいよ、リコたろう一行が鬼ヶ島の土を踏む時がやって来たのです。
料金は、合計一三五〇ウルムでした。リコたろうに子供料金が適応されました。
「親分、これ今週の売上合計っす」
「ご苦労様、ロイド。……うふふ、上々じゃないの」
大衆食堂『グリード』店内にて、子分の鬼から受け取った売上伝票の束とそれに添付されたメモ書きに目を通し、鬼の大将ゴドウィンはニヤリと笑みを浮かべました。
ちなみに女言葉を使ってますが、外見は屈強な大男です。鬼の大将は、いわゆるオネエでありました。彼の前では性別の壁(精神)など、子供の前で「これから張り替えるからねー」と宣言された障子同然なのです。
「この調子で売上を伸ばして行けば、『グリード』支店をオープンさせる事が出来るわ。そしてゆくゆくは、全国にチェーン店を展開させてやるのよ!」
「……実際に金を払いに来た村人、まだ一人も居ないっすけどね……」
ロイドの呟きなど馬耳東風とばかりに、ゴドウィンの高笑いが辺りに響きます。しかし――
「そこまでだよ、鬼の大将!」
突然、幼女の勇ましい声がゴドウィンの笑い声を遮りました。
「誰かしら!?」
ゴドウィン初め、部下の鬼達が声の方向へと目をやります。そこには、
「私はリコたろう! あなた達を懲らしめるためにやって来たわ!」
テーブル席に腰掛け、メニュー表を広げながら鬼達を糾弾する『レヴェリア一のリコたろう』と書かれた旗を掲げた女の子と、その仲間達の姿がありました。
一部からは「唐揚げとしょうが焼きどっちが良いかなー」「いやここ敵の本拠地だからね!?」等、緊張感がまるでない会話も聞こえて来ます。
「懲らしめに来た割に、なんかくつろいでるよな……」
「乗り込んで見たところ、丁寧に席に案内されたのでつい……」
ロイドの冷静な指摘に、ミーアはコップの水を飲みながら答えました。
「聞けば、村人達の家に押し入って勝手に料理を作り、領収書を置いて行ってるそうね。迷惑だから止めなさい!」
「そうは行かないわよ。何しろ鬼ヶ島って交通の便が悪いし、ほとんど客が来ないの。こっちから売り込みに行かなきゃ駄目なのよ!」
ゴドウィンの言い分に、思わずリコたろう一行は「あ、そりゃそうだ」と頷きました。鬼ヶ島は、店を構えるには立地条件が最悪な場所なのでありました。
「まあ、それは分かるけど、村人に迷惑掛けて良い理由にはならないよ。別の方法取りなさい!」
「要求を飲ませたければ、力づくでやって見なさい。私のチェーン店展開の野望、誰にも止められないわ!」
交渉は決裂し、鬼達は臨戦態勢を取りました。
場にみなぎる緊張感に、イヌのアイシャは慌てふためきます。
「わわわっ! これってマズイんじゃない!?」
「リコちゃんがいくら強いったって、多数の鬼達が相手じゃさすがに分が悪いかもねー……」
普段はお調子者なサルのノノもさすがに不安を隠し切れない様子です。そんな二匹へ、キジのナーニャは語り掛けます。
「……大丈夫、きびだんごの効果が現れて来たっぽい」
シャドーボクシングの真似事をしながら言うナーニャの言葉に、アイシャ達は気が付きます。自身の身体が軽く感じる事に。
「す、凄い! 何か力が湧いて来る!」
「どうやら、イリーナ様の腕前は本物だったようですわね」
興奮気味に言うアイシャに、ミーアは頷きながら答えます。
「野郎共かかれぇぇぇッ!!」
ゴドウィンがいきなり野太い声になって、子分達に号令を掛けます。それを合図に鬼達は一斉にリコたろう一同へと襲い掛かりました。しかし、
「えいやーーっ!」
きびだんごでパワーアップしたリコたろう一同の敵ではありません。
鬼達は投げ飛ばされ、突き倒され、はたき倒され、次々と返り討ちにされてしまいました。
「さあ、後はあなただけだよ!」
累々と積み重なった鬼達を脇目に、リコたろうはゴドウィンと対峙します。
「ワタシを甘く見ない事ね。行くわよ、ウラァァァッ!!」
怒声を発し、ゴドウィンはリコたろうへと突撃します。丸太のような腕が握り拳を作り、リコたろうを襲います。
「やあっ!」
しかしリコたろうはその拳をするりとかいくぐり、逆に掌をゴドウィンの腹部へとめり込ませます。
「ごふっ……!?」
壁に叩き付けられたゴドウィンへ向かって、リコたろうは手の平を向けます。そして、
「もう悪さしちゃ駄目だよ! ええーーーいっ!!」
追撃の火球を放ちました。
「うぎゃあぁぁぁーーーー!?」
ゴドウィンの悲鳴と爆発音が店内を震わせます。
煙が晴れます。
そこには、ボロボロな姿で「降参するわぁ……」と呟く鬼の大将の姿がありました。
店内にリコたろう一行の勝ち鬨の声が上がりました。
こうして、リコたろう達は鬼退治を終えました。
その後鬼達は村へと赴き、謝罪と領収書の無効宣言、回収を行いました。
迷惑を掛けられた村人達でしたが、意外にも『グリード』の味に好意的な意見が多く、中にはリピーターになると言う人も見受けられました。
「これなら正攻法で行っても儲かりそうねぇ」と、ゴドウィンも安心顔です。
村人達からのお礼の品と『グリード』サービス券を手に、リコたろうとミーアは自宅へと帰ります。折角だからと、アイシャ、ノノ、ナーニャも一緒です。
「お帰りなさい、リコたろうにミーア。見事に鬼退治を果たしたようですね。そちらのお仲間達もご苦労様でした」
「お帰り〜。ミーアご飯〜」
レイナールおじいさんとイリーナおばあさんが、リコたろう達を温かく迎え入れます。
ミーアの料理を囲んで今夜はパーティーです。
その後、なんやかんやでアイシャ、ノノ、ナーニャの三匹もこの家に住む事になりました。
こうして、リコたろう達は愉快に暮らして行きましたとさ。
めでたしめでたし。




