番外編 まんがレヴェリア昔ばなし ももたろう そのに
「近頃、近くの村に鬼が出るそうですわ」
一家団欒の最中、ミーアがそのような話題を振って来ました。
「鬼、ですか……?」
「ふーん、そんなの出るのねー」
レイナールおじいさんは真面目そうに、イリーナおばあさんは割とどうでも良さそうに話に食い付いて来ました。
「その鬼って、何しに村へ来てるの?」
リコたろうは、口元のソースをナプキンで拭いながら尋ねました。藁葺き屋根の下、囲炉裏を囲みながら座布団に座って食べるものとしては、ミートソースのスパゲティは相当に浮いている気もしますが、調理担当者であるミーアの意向に異を唱える人間はもはやこの家には一人も居ません。『美味けりゃ良い』そうです。
「何でもその鬼達は、集団でやって来ては村人達の家に無理矢理押し入り、『大衆食堂グリード、鬼ヶ島本店から出張して来ました。どうぞよろしくお願いします』と言い放ち、住民達の献立の予定を無視して料理を作り上げ、領収書を置いて去って行くそうですわ」
「それって、ちょっと変わった押し売りだよね……」
鬼達の行った、身の毛もよだつ恐るべき所業を淡々と語るミーアの言葉に、リコたろうの声は戦慄にうち震えているかのようでした。
「村人達もきっと迷惑してるよね……。よしっ、じゃあ私が鬼ヶ島へ行って、その鬼達を懲らしめて来るよ!」
「がたっ!」と立ち上がり、リコたろうは宣言します。レイナールおじいさんはしばし沈思黙考した後、
「……確かにあなたでしたら、万が一鬼達が襲い掛かって来ても勝てるでしょう
ね。お願い出来ますか?」
頷きながらそう言いました。
「うんっ、任せといて!」
力強く答え、リコたろうは天井に向かって拳を突き上げます。
「わたくしもご同行させて頂きますわ。頑張りましょうお嬢様」
「んじゃ、こっちも色々と準備しとかないとねー。……あ、粉チーズ取って」
ミーアとイリーナおばあさんも、それぞれにリコたろうへ言います。
こうして、リコたろうは鬼ヶ島へ鬼退治に出掛ける事になりました。
「……でさ、コレ何……?」
翌日、『レヴェリア一のリコたろう』と大書された旗を見て、リコたろうはげんなりしながら尋ねました。
「良いっしょー。私が作っといたのよ」
一体、何を持ってして『レヴェリア一』なのかサッパリ分かりませんが、イリーナおばあさんはイイ笑顔でそう答えました。
「後ね、これも作っといたわ。その名も『魔法のきびだんご』よ! これを食べれば、力がモリモリ湧いて来るわ!」
「おだんご自体はわたくしが作ったのですけどね……」
そう言ってイリーナおばあさんは、袋に入っただんごを手渡して来ました。ミーアが作ったのであれば、少なくとも味に関しては問題ないでしょう。
「……まあ、良いか。それじゃあ、行って来まーす!」
「では、行って参りますわ。お昼はありもので適当に作っておきましたので、温めて食べて下さいな」
「それでは、気を付けて行って来るのですよ」
「行ってらっしゃーい。夕飯までには帰って来てねー」
レイナールおじいさんとイリーナおばあさんに見送られながら、リコたろうとミーアは旗を掲げ、鬼ヶ島へと旅立って行きました。
「……なんか、すっごい怪しい人達が歩いて来てるんだけど、どうしよう……?」 イヌのアイシャはだらだらと汗を流しながら仲間達へ尋ねました。
『レヴェリア一のリコたろう』と大書された旗を掲げた女の子と、付き従うメイドさんの取り合わせ。彼女の中の常識では一体何を目的とした人達なのか判然としませんでした。
「気になるならさー、本人達に聞いてみれば良いんじゃない?」
「……そだね」
サルのノノの回答に、キジのナーニャは同意しました。
「本人達に聞くって言ってもさ、わざわざこっちから関わる理由もない」
「こんにちわー! ちょっと良いですかー?」
「向こうから関わって来たよ!?」
いつの間にか近づいて来た二人組に話し掛けられ、アイシャは狼狽しました。
「ええと……。私達に何か用ですか?」
「用ってほどの事でもないけどね。すっごい珍しい光景だったから気になって話し掛けただけだよ」
「あれ!? 私達も怪しい集団認定されてたよ!?」
それはそうでしょう。なにしろ直立したイヌ、サル、キジの取り合わせは、普通はあり得ない光景ですから。
「ところで皆さん、お近づきの印にきびだんごはいかがですか?」
そう言ってメイドさんは、袋から美味しそうなきびだんごを取り出しました。
「え、良いの? わーい、いっただきー!」
「……頂きます」
差し出されたきびだんごを、何の躊躇もなくノノとナーニャは口に運びます。
「うわー、美味しいねーこれ!」
「……でりしゃーす」
「その様子ですと、どうやら体に害はなさそうですわね」
「うん? 私達もしかして毒味役やらされた?」
きびだんごをつまみながら、しばし談笑します。その間にそれぞれ自己紹介も済ませます。アイシャ、ノノ、ナーニャは仲良しの三匹組なのだそうです。
「ふーん、リコちゃん達は鬼ヶ島へ鬼退治に行くのね」
「うん、そうだよ!」
指に付いただんごの粉を舐め取りながらアイシャが尋ねると、リコたろうから元気の良い返事が返って来ました。
「ところでお三方、ものは相談なのですけどね?」
ミーアが言います。
「相談って?」
「きびだんごが欲しいのであれば、代わりに鬼退治を手伝って頂きたいのです」
「既に胃袋に収まった段階でソレを言いますか!?」
詐欺としか言いようのない契約内容が明かされて、アイシャは涙目で抗議しました。
「任せといて二人共! 私達が居れば百人力だよ!!」
「……いっちょやったるよー」
「こっちはこっちで即決しちゃったしさあ!?」
腕まくりして勝手に協力を誓うノノとナーニャに、アイシャの涙目から一滴の雫がこぼれ落ちてしまいました。
「大体、私達じゃ鬼なんかとまともに戦えないわよ!?」
「それは大丈夫ですわ。何でもそのきびだんごは、食べればモリモリ力が湧いて来る魔法のおだんごなのだそうですから」
「そーなんだー。言われてみれば、何か力が湧いて来たような気がするね!」
「まず間違いなく気のせいよ」
ミーアの説明を聞いて、あからさまにノノは効果を実感し始めました。たったの二、三十人程度に試した結果だけで『驚くべき効果!』と喧伝する、統計的手法に問題のある広告を真に受けてしまわないかアイシャは心配になりました。
「……即効性はなくても、後からじわじわ効いてくるタイプの魔法薬の類じゃないかな?」
魔法に詳しいナーニャは、冷静に解説します。それを聞いたアイシャはしばしの間考え込んで答えました。
「……まあ、毒って感じでもなかったし大丈夫かな……。それに、鬼達が迷惑掛けているのも見過ごせないし、手伝う位なら良いんじゃないかな?」
「そうそう。つー訳で、皆でがんばろー」
「……えいえいおー」
「やったあ! ありがとうアイシャ! それにノノとナーニャも!」
アイシャ達の返答に、リコたろうは飛び上がって喜びました。
こうしてリコたろうは、メイドのミーア、イヌのアイシャ、サルのノノ、キジのナーニャの一人と二匹と一羽のお供を引き連れ、鬼ヶ島へと向かいました。




