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メイク マイ デイッ!  作者: 平野ハルアキ
14/39

そうだ、川釣りへ行こう そのに。

 魚の塩焼きや唐揚げ、ロイドが作ってきた弁当で腹ごしらえを済ませるや、アイシャは決然とした様子で立ち上がった。


「よーし、次こそはやってやるわ。見てなさいよー!」

 燃える瞳で川に向かってビッ! と指差しながら宣言する彼女の姿に、


「おお、気合十分でござるな!」「……やってやれ、アイシャ」「……うん、まあ頑張れよ……」「てか、ちょっと自分見失ってる?」

 コジロー、ナーニャ、ロイド、ノノ。皆の反応はそれぞれであった。


「さあ、行くわよ。なんか釣れろ―!」

 叫びながら川に釣り針を放る。ポチャン、とウキが着水し、ぷかぷかと川の流れに浮かんだ。


「なんか釣れろー、なんか釣れろー、なんか釣れろー……」

「色々と焦り過ぎだろ……。そんなブツブツ言っても釣れるようになる訳じゃ」

「おお!? なんかアタリが来た!!」

「早速釣れたぞオイ!? マジかよ!?」


 開始して数秒でいきなり訪れた手応えに、興奮気味にアイシャは叫ぶ。軽く衝撃を受けるロイドを横目に、口の端を上げながら竿を引き上げた。


「どうだ見たかー! 私の気合の勝利ー!」



 ザパァン (長靴)



「………………」

 水面上に姿を現したその『釣果』を前に、口をあんぐりと開けたまましばらくの間固まる。


「……なるほど。つまりアイシャの気合がこの長靴を呼び寄せた、と」

「やめて!? 冷静に解説されるとすっごい恥ずかしいから!!」

 真顔で状況分析を行うナーニャの言葉に、今更ながら自身の空回りっぷりを自覚したアイシャは赤面した。


「ううう……。で、でもでも何かを釣り上げたのは事実! 流れはこっちに来てるはずよ!」

「前向きなのか、無理矢理なこじつけなのか区別が付かんな……」

「前向きって事でよろしく! なんか釣れろ―!」

「……赤面してた割に、結局そのテンションは変わらないんだね」


 外野の声を無視して再び釣り針を放る。ウキの動きを注視しながらブツブツと念じ声を呟く。


「なんか釣れろ―、なんか釣れろー…………おお!? またアタリ来た!!」

 再び手応え有り。はやる気持ちそのままに、アイシャは竿を勢い良く引き上げ

た。


「どうだー! 今度こそ私の勝利ー!」



 ザパァン (釣り竿)



「…………」

「……釣り竿で釣り竿を釣り上げたのか、釣り竿が釣り竿に釣り上げられたのか、どっちなんだろ?」

「いやそれは、釣り竿で釣り竿を釣り上げた訳で、つまり釣り竿が釣り竿で釣り上げられた釣り竿が釣り上げて釣り竿」

「いやロイド君、釣り竿釣り竿言い過ぎて釣り竿を釣り竿で釣り竿な釣り竿で釣り上げて釣り竿に釣り上げた釣り竿」

「一応言うけど、アイシャが一番混乱してるからねー」


 文字にすれば確実にゲシュタルト崩壊を引き起こしそうな会話を始めた三人に、様子を見ていたノノが呆れながら指摘する。


「むぐぐ……。だ、だけど今度こそは! なんか釣れろー!」

「お前、もう大分ヤケなってるだろ」

「……聞こえてないと思うよ」


 ナーニャの言う通り、外野の声がもはや聞こえてないアイシャの再挑戦。ウキを貫かんばかりの熱視線を送り続ける。


「なんか釣れろ―! アタリ来た! 勝利ー!」

 恐ろしい程の早さで手応えを確認するやいなや、アイシャは三度目の正直と言わんばかりの確信を持って竿を引き上げた。



 ザパァン(サバの缶詰)



「…………」

「……あ、コレ中身入ってるね」

「…………うん、ちょっとばかり加工済みなだけであって、コレもれっきとした魚な訳であって、つまり私の勝利な訳であって……」

「踏み留まれアイシャ!? コレを勝利と言うのはむしろ色々な意味で敗北だぞ!?」

 虚ろな瞳で自己欺瞞の言葉を垂れ流し始めたアイシャを正気に戻さんと、ロイドは彼女の身体を揺さぶりながら必死になって呼び掛けた。


「……はっ、危ない!? もうちょっとで誘惑に負ける所だった!!」

「良かった!! 負けそうになってる時点で既にアウトなのかもしれないが、とにかく気が付いて良かった!!」


 必死の説得の甲斐あってか、彼女の目に再び意思の光が戻る。闘志も新たにアイシャは釣りを続行するべく、竿を振りかぶる。


「行けー! 次こそなんか釣れろ―!」



 ザパァン(水筒)



「……き、気を取り直してなんか釣れろ―!」



 ザパァン(カナヅチ)



「……こ、今度こそ気を取り直してなんか釣れろ―!」



 ザパァン(騎士兜)



「一体どうなってんのこの川ーーーー!?」

 むしろ普通に魚を釣り上げるよりも難しい物品が、釣果として次々積み重なって行く有り様を見て、アイシャは思わず叫ばずには居られなかった。


「……まあまあ、川の清掃活動してると思えば気も楽に」

「ならないわよ!? 逆に惨めになって来るから!!」

「どうでも良いけど、もうちょっとで交代だぞ」

「うん、そうね。……とほほ、結局私は魚を釣り上げる事が出来ない星の元に生まれて来たのね……。……ん?」


 悲嘆に暮れ、心が折れそうになっているアイシャの手元に、唐突に釣り竿を通じて何かがググッ、と引っ張るような感覚が伝わって来た。先程までと似ているようで、明らかに異質な手応え。それもかなり強い。間違いない――


「……き、来た! 絶対これ魚だよ!」

 興奮気味に叫ぶアイシャ。遂に訪れたチャンスに、気持ちの昂ぶりが止まらな

い。


「うおっ! かなりの大物じゃねえか!?」

「……凄い引き具合」

 横で見ていたロイドとナーニャも、目を見開く。軋み音を上げんばかりに反り返る竿を見れば、相当な難敵である事は二人にも容易に察しが付いた。


 高揚する精神を努めて冷静に保ち、格闘を続ける。無理に引き上げようとせず、魚が弱るのを待つ。

 徐々に垂直へと近づく竿。徐々に水面下にちらつき始める魚影。


「お、落ち着くでござるよアイシャ殿」

「うはー、こりゃ相当でかいわー」

 大物の気配を察してこちらへとやって来たコジローとノノも、固唾を呑んで見守る。


「……っ! えーーい!!」

 今が好機と見たアイシャは、一段強く竿を引く力を込める。遂に水面上へと姿を現した魚が、浅瀬へと乗り上がり――


 ぶちんっ。


 手元に伝わる不自然な感覚。唐突に軽くなる手応え。


 ――糸が、切れた。

 アイシャの脳内に、瞬間的にその事実が駆け巡った。


 そんな。まさか。ここまで来て。

 落胆の念が胸に浮かぶ。


 いやにゆっくりと見える周囲の動き。視界に映る魚影。浅瀬に乗り上げたその姿が川に還らんと跳ねる――


「てりゃあっ!!」

 瞬間的にノノが動く。手にした玉網を突き出し、跳ねる魚をすくい上げる。ビチビチと暴れるその姿が、完全に網の中へと収められた。


「ふー、ギリセーフ。こう言う時のために網があるんだよー」

 玉網を引きながら、したり顔でノノが言った。


「しっかし、良くこんな大物釣り上げたもんねー。アイシャ、凄いじゃん。……アイシャー?」

 怪訝そうにノノは何の反応も示さないアイシャの顔色を伺う。


「……や……」

 プルプルと小刻みに震えるアイシャの身体。微かに聞こえる呟き声。どうしたのか、とノノが聞き返そうとする前に、


「やったよぉぉぉーーーーーー!!」

 アイシャはそう叫び、突進するかの如き勢いでノノに抱きついた。


「むぎゃ!? い、痛いってばアイシャ!?」

「ありがとうノノーーーー!! 釣れたよぉぉぉーーーーーー!!」

 ノノの訴えなどまるで聞こえてない様子で、締め付ける手をぎゅうぎゅうと強める。期待感と失望感、その落差に揺れ動いた末の成果に、アイシャは喜びを抑える事が出来なかった。


「ホントありがとうノノーーーー!! 良かったよぉぉーーーーーー!!」

「わ、分かったから離してーーーー!?」

 そう言われてもなかなか腕を離そうとしないアイシャの姿に、彼女の悪戦苦闘ぶりを知る仲間達は互いに顔を見合わせ、苦笑いを浮かべるのであった。





「もうこんな時間……。そろそろ寝ようかな」


 部屋の時計を一瞥したアイシャは、手にした本を閉じて洗面台へと向かう。

 自身の歯を磨く姿を鏡の向こうに捉えながら、今日の出来事をそっと思い返す。

 うーん、ちょっと我を忘れてはしゃぎ過ぎたかなー。今思い返すと恥ずかしいかも。


 でも、楽しかったな。


 歯磨きを終えた彼女は部屋に戻り、照明を落とす。カーテンの隙間から、月明かりが柔らかく差し込んだ。

 ベッドに入り、目覚まし時計をセットする。


「お休みなさ〜い……」

 誰にともなく呟き、目を閉じる。楽しい思い出を緩やかに明日への活力へと昇華させながら、アイシャは静かに寝息を立て始めた。

 

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