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メイク マイ デイッ!  作者: 平野ハルアキ
12/39

長と長と見習い達と

「暇ねぇ……」

「そうっすね、師匠」

 午後の『グリード』にて、カウンターに頬杖を突く店長ゴドウィンのオネエ言葉な呟きにロイドは生返事で返した。


 食事時ともなると賑やかな店内も、今の時間帯では客足も遠くなる。食材の下ごしらえ、食器洗い、掃除等のやるべき事も一通り済ませてしまった。

 結果ゴドウィンは、閑散とした店内で「暇」と呟く以外の時間の使い道を見出す事が出来なくなっていた。

 修行中の身であるロイドの方は、勉強と言う形で空き時間を有効活用しているため、その呟きにほぼ無関心であったが。


「あぁ、ホント暇だわぁ……」

「あー、そうっすね」

「退屈しのぎに何かこう、騎士団がクーデターでも起こして王国を火の海に包み込んで、その犠牲となったロイドの仇を取るためにワタシが単身戦いを挑む、とか言う展開にでもならないかしら……」

「単なる暇つぶしのためだけに、えらく大仰且つ俺が犠牲になる前提な展開を望まんで下さいよ!?」

 思わず読んでいた食材本から顔を上げ、ツッコミを入れるロイド。その反応速度は中々のものであった。


「こんにちわーっと。一体何の話?」

「ん? アイシャじゃねえか。どうしたんだこんな時間に?」

 入口から飛んできた声にロイドがそちらに顔を向けると、そこには勤務中であるはずのアイシャが立っていた。


「見回り中だよ。ついでだから、寄ってみたのよー」

 アイシャの後ろから、ひょこっとノノが顔を出す。


「そう言う事。それで、何の話だったんですか、店長?」

 他の店員に軽く会釈しながら尋ねる。アイシャの問いに、ゴドウィンは頬に手を当て、微笑みを浮かべながら答える。


「そんな大した事じゃないわよ。ちょっと騎士団がクーデター起こしてくれないかしら、って話をロイドとね」

「凄まじい程に大した事を朗らかに語らないで下さい!?」

「しかもその言い方だと俺まで関与しているかのように聞こえるんですけど!?」

 アイシャの驚異的反応速度によるツッコミに一歩遅れて、ロイドのツッコミが追加される。結果的にそれは、見事なコンビネーションを生み出した。


「まーそれは後で考えとくからさ、取りあえず水ちょーだい」

「「考えるな!!」」

 ノノのさり気ない謀反宣言に対し振り降ろされたアイシャ&ロイドの心のハリセン・ツープラトンは、鋼鉄をも裂かんばかりの切れ味を伴っていた。


「まあ冗談は置いておくとして、お勤めご苦労様。この辺りは至って平和よ」

 ゴドウィンはコップに入った水を二つ分用意して、差し出す。受け取った二人は礼を言いながら口を付け、喉の渇きを潤した。


「……ぷはっ。それは良かったです。でもこないだも食い逃げが出たんですから、油断しちゃ駄目ですよ?」

「……その食い逃げ犯、瞬殺されてたけどな」

 若干青ざめながら、ロイドはポツリとこぼす。あの時、彼の顔のすぐ真横を必殺のフライパンが唸りを上げて通過していたので、軽くトラウマになっているのであろう。


「うーん、アレは見事だったねー。流石は元騎士。ウチの団長と戦ったら、どっちが強いんだろ?」

 うんうんと頷きながら、ノノは回想する。同時に浮かんださり気ない疑問を口にすると――


「私がどうかしましたか、ノノさん?」

 背後から、当の騎士団長レイナールの声が聞こえて来た。


「うひゃあっ! だ、団長!? もー、脅かさないで下さいよ」

「団長!? 一体何故ここに?」

 全く予想外の人物の声に、ノノとアイシャは驚いて振り返る。


「見回りのついでです。むしろ私はあなた達がここに居る事が疑問なのですが」

「そ、そうでしたか……。私達も同じですよ」

 涼しい顔で二人の驚愕を受け流すレイナールに、アイシャはサボりと思われやしないか、とやや緊張気味に答える。 

 幸いにもレイナールは「そうでしたか」と軽く流し、ゴドウィンの方へと顔を向けた。


「ご無沙汰でしたね、ゴドー。調子はいかがですか?」

「悪くないわよ、レイ。あんたも上手い事騎士団長やってるみたいじゃないの」

 親しげな様子で声を掛け合う両者。普段とは違った彼ら(約一名の精神面除く)の姿に、アイシャは新鮮味を感じた。


「それで、一体何の話だったのですか?」

「いやね、騎士団がクーデター起こしてくれないかしら、って話よ」

「その話を今ここで蒸し返しますか師匠!? これかなり最悪なタイミングじゃないっすか!?」

「なるほど。考えさせられる話ではありますが……」

「団長!! お願いですから沈思黙考の姿勢を見せないで下さい!!」

「取りあえず、今回は見送らせて頂きます」

「ヤバい、次回が来る前にこの国から脱出した方が良いぞコレ」


 あくまでも穏やかな様子で語られるレイナールの逆心を前に、アイシャとロイドは全身から吹き出る冷や汗を止める術を知らなかった。


「軽い冗談ですよ。二人共そんなに怯えないで下さい」

「「デ、デスヨネー」」

 その言葉に全身の力がふにゃふにゃと抜ける。二人にとって巨岩に押し潰されるかのような感覚は、決して『軽い』ものではなかった。


「それでノノさん、結局何の話だったのですか? ウチの団長がどうとか言ってましたが」

「ああ、団長と店長のどっちが強いんだろー、って話です。店長って、元騎士だったんですよね?」

「そんな事ですか。今ではどうなのか分かりませんが、ゴドーが現役の頃の話でしたら彼の方が上でしたよ。この方は前騎士団長ですから」

「「「……え?」」」

 さらっと飛び出た衝撃の事実。アイシャ、ノノ、ロイドの三人は思わずぽかんと口を開けて互いに目を見合わせた。


「……え? ホント店長騎士団長……?」

 呆けたようにノノが尋ねる。


「もうっ、ばらさないでよレイ。恥ずかしいじゃないの」

 その問いに、ゴドウィンは身をよじらせながらそう答えた。


「ほ、本当なんだ……。ロイド君、知ってた?」

「初耳だよ……。俺の師匠って、実は結構とんでもない人だったんだな……」

 ゴドウィンの過去の一端を知り、ただただ驚くばかりの二人。人に歴史あり、という言葉がアイシャの胸に浮かんだ。


「さて、そろそろ見回りに戻りますよ、二人共。終わったら、私が特別訓練でもして差し上げましょう」

「はい、分かりまええええええええええええええええ!?」

「だだだだ団長!? アタシらが何をしたって言うんですか!?」

 特別訓練と言う名の地獄への誘いを宣告され、アイシャとノノは本日一番の驚愕の悲鳴を上げる。


「いえ、話をしていてちょっとしたノルスタジーを感じまして。少しばかりやる気が湧いてきましたので、折角ですからね」

「やる気が湧いたって、まさか普段以上に厳しくなるんじゃ!?」

「ぎゃー!! あんな事聞くんじゃなかったー!!」

「それでは、また。ほら二人共、行きますよ」

「「たーーすーーけーーてーー!!」」


 泣いて懇願する見習い騎士二人を「逃がしませんよ」とばかりに引っ掴み、レイナールは店を後にする。その姿を和やかに見送るゴドウィンと、友人達の行く末を瞑目して祈るロイドであった。



 



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