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メイク マイ デイッ!  作者: 平野ハルアキ
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レヴェリアへようこそ

「はー、疲れたー」


 汗を拭いながら、見習い騎士のアイシャは言った。栗色のセミロングヘアも、しっとりと額に張り付いている。


「ほらそこ、まだ訓練時間は終わりではありませんよ」


 へたり込む訓練生達に向かって、騎士団長のレイナールが叱咤する。

 容姿端麗、博学多才、剣の腕前も達人級。国王陛下からの信頼も厚く、リーダーシップにも優れている。

 まさに騎士団を率いるに相応しい人物だと言えるだろう。

 ただし――


「あまりだらしない様でしたら、お尻の穴から手を突っ込んで、奥歯をガタガタ言わせますからね?」

「団長、爽やかな笑顔で怖い事言わないで下さい」


 ただし、ドSでもあった。

 割と本気でやりかねないため、アイシャ達は慌てて立ち上がった。






 ここは異世界『レヴェリア』、魔法が存在する世界。アイシャはその中の一国、『フロイデ王国』の騎士団に所属する少女である。正式な騎士と認められる日を目指し、仲間と共に日々の訓練に励んでいる。


 これは、アイシャと愉快な仲間達の平和で、時々刺激的な日々を描いた物語である――





「……はい次、アイシャさんとノノさん」


 レイナールに声を掛けられ、アイシャは摸擬戦を行うべく訓練所中央の空間へと歩み出た。


「宜しくね、アイシャさん。負けないんだからっ☆」

「……ノノ。出会ってかれこれ一年も経って、今更猫を被っても手遅れだからね?」


 目の前のかわいこぶりっ子(死語)ポーズを決める少女に向かって、アイシャは言った。


「ちぇー。アイシャのいけず」

 わざとらしく口を尖らせ、ノノは言った。彼女は小柄で可愛いらしい外見とは裏腹に、悪知恵の働くお調子者な側面を持つため油断ならない。


「そう言う問題じゃないわよ。大体、私があんたに何度煮え湯を飲まされたと思ってるのよ」

「うーん、一〇〇度は下らないかな?」

「罪悪感の欠片も無く答えたよこの娘!? 自覚あるなら控えてよ!」

「反省はしているけど後悔はしていない」

「ドヤ顔で言ってる辺り、実は反省すらしてないよね!?」


 何やら漫才じみた二人の会話を遮る様に、レイナールは手を叩いた。


「二人とも。お喋りはその辺にして準備しなさい」


 慌ててはい、と答えながら二人は訓練用の木剣を構える。


「それでは……始め!」


 団長の合図と共にアイシャは得物を振りかぶり、突進した。対するノノは、迎撃の構えを見せる。


「やぁーーーー!」

「ていぃ!」


 ガツン、と音を立て木剣同士がぶつかり合う。安全対策として施された魔術により衝撃が緩和されるため、本気で打ち合ったとしても手を痛める事はない。両者はそのまま鍔迫り合いに移行した。


「今日は私が取らせてもらうわよ、ノノ」


 前回の敗北を思い出しながらアイシャは言う。そんな彼女の闘志を前にノノは、


「あ、勝ちたいんだ。じゃあ譲ろうか?」


 しれっとそう答えた。


「……え? ……いやいや、勝てば良いってもんじゃなくて、もっとこう、前回の借りを返した達成感とかさ、なんていうかこう」

「隙ありぃ!!」

「だと思ったわよ!!」


 叫ぶなり、ノノの繰り出した足払いを回避。そのまま後方へと距離を取った。


「ありゃ、見破られたか」


 意外そうにノノは呟く。それを見たアイシャは得意げな笑顔を見せた。


「ふふん、甘いわよノノ。私だって日々成長してるの。『譲ろうか?』なんて言い始めた時点で何か企んでるなー、ってピンと来たわよ。だからあんたの油断を誘うためにわざと」

「隙あり」

「痛ったぁぁぁーーーーっ!?」


 説明にかまけノノの接近に気が付かなかったアイシャは、そのまま頭部に木剣の一撃を喰らった。安全対策として施された魔術により衝撃が緩和されても、本気で打ち込まれればだいぶ痛い。


「はい、それまで」


 レイナールが終了の声を告げる。それから頭をさするアイシャの方を見やりながら呆れた様に呟いた。


「アイシャさんのそう言う所は成長してませんねぇ……。脇が甘いと言うかなんというか……」

「ううう……。面目ないです……」


 仲間達からの笑い声に赤面しながらアイシャは答える。


「仕方がないですね。折角ですから、私が鍛えなおしてあげましょう。居残りで」


 レイナールの言葉に、一瞬でアイシャの顔の色が赤から青へと変化した。彼の行う居残り訓練は、見習い騎士達の間でしばしば拷問の一種と例えられている。

 慌ててアイシャは抗弁を始めた。


「い……いや、さっきのはたまたま偶然にもそう言うアレな感じの雰囲気がアレでして、ですからこう、つまりですね? そう言ったアレではなくてですね……」

「はい次、トーマスさんとオウカさん」

「あ、駄目だコレ! もう確定事項として処理されちゃってる口調だ!」


 その後のわが身に降りかかるであろう苦境を脳裏に描き、アイシャは涙目になる。そんな彼女にノノは優しく声をかけた。


「アイシャ」

「うう……。何、ノノ?」

「負けた方が明日の昼食おごるって今決めたけど、良いよね?」

「良い訳あるかーーーーーーっ!!」

 

 アイシャの叫び声が、周囲へと響くのであった。

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