表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
裁きの庭  作者: いずれけす
第一章 回された歯車
8/34

猛者ととんでもない後輩



 ぎゃあぎゃあ騒ぐいい年した男2人を前に、ひっそり思案するエメリー。物静かな謎めきをまとう彼女は、無視できない存在感がある。

 突然エメリーの左手を、違和感が襲った。小指が、一瞬熱く(うず)いた気がした。

 ひょっとしたらと、望みが湧く。

 果たされないままずっと残っている約束を、やっと。自分の手で護れるかもしれない。

 エメリーはそっと、男たちには勘付かれないよう、片方の手で左の小指を包んだ。


「…………本当に、私しかいないんですか?」


 しばらくして生まれた、音。決して大きくない声は、それでも口やかましく言い争っていた2人の耳にすんなり入った。

 操られたようにフランソワがエメリーと向き合い、首を縦に振る。


「ああ」

「集団毒殺事件、ですよ?」

「ああ」


 刹那、零れそうな青灰(せいかい)の双眸に光が走った。

 整った彼女の、引き締められた口元が緩んだ。両膝で組んだ手に固く力を加える。

 強張った声が紡いだ。


「私で良ければ、引き受けさせて下さい」

「…………え?」


 いいの? とジャンはぽかんと口を開け、エメリーを凝視する。

 被告人の性格を差し引いても、ベテランの法廷弁護士までもが(さじ)を投げた一件だ。そんな大役を、優秀といえ駆け出しの法廷弁護士が務めるなんて。


 …………こちらが押しつけたのだが。


 逆転無罪を勝ち取れば、確実に彼女の名は上がる。しかし無実を証明できず敗訴なら、年配の法定弁護士たちが黙っていないだろう。ただでさえ、彼女の評判を快く思ってなさそうなのだから。

 ある意味で博打な裁判に、どうして立とうと決めたのだろう。本音を知りたくて、ジャンはまじまじと人形みたいな表情を探る。

 澄ましたような虹彩には何の欲望も浮かんではいなかった。


「…………ははは! そうか。そうだよな。でかしたお嬢。よくぞ言ってくれた! ああこれで安心して寝れる!」


 裏があるものと考えられるが、本当のところは分からない。もしかすると純粋に人助けしたい一心なのかも。

 そんなことを(いぶか)ったりせず、自分にお鉢が回ってくることばかりを怖がっていたフランソワは、両手を振り上げて喜んだ。さすが俺の教え子、と。


 …………なんか違う気がする。


 まあいいか。ジャンもフランソワのプライドを投げ捨てた言動に引っ張られてどうでも良くなった。理由はどうあれ、この子のおかげで面倒な仕事を受ける可能性がなくなったのだ。感謝せねば。


 先輩がとんでもない人だと後輩もとんでもなくなるのだな。ジャンはため息をついた。



評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ