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裁きの庭  作者: いずれけす
第三章 引き返すための黄金の橋
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突撃 お部屋侵入


 朝の時間をクローデンスとの面会に費やし、エメリーは『正義の塔』へ引き返した。気の遠くなるような階段を延々と登り続け、さらに長い廊下を進む。



 今日の面会は、終わりだ。午後は『正義の塔』にある図書室で調べ物をするつもりでいる。

 弁護連盟が誇る図書室は宮廷の書庫に次ぐほどの規模で、地下室と2階部分を全て本に支配させている。もっとも、法律系の書物がほとんどなので、かなりの味気なさも誇るとの定評だ。


 図書室には裁判記録の写しもいくつかそろえてある。貴重な記録だから、2階の資料室で厳重に保管されているはずだ。クローデンスの事件の記録もあればいい。

 2階へ向かう前に荷物を置いていこうと自分の部屋の扉に手をかけたら、当然のように開いた。鍵も回していないのに。


 まさか………。エメリーがこわごわ室内を覗き込むと、


「おっす。遅かったな」


 先客がいた。


 エメリーお気に入りの革張りソファを我が物顔で占拠し、絶妙な弾力性の背もたれに全体重を預けた男は、彼女の帰りに気づくなりのんびり手を挙げた。


「相変わらず遠いねー、ここ。階段なんて終わりが見えないし。毎日、何回も行ったり来たりするわけでしょ? 大丈夫? 辛くない?」


 ついでにジャンも。

 ぽかんと開いたエメリーの口はなかなか塞がらなかった。


 住居侵入だ。刑事法の第130条違反だ。罰金だ。懲役だ。


 そもそもどうやって部屋に入ったのか。鍵をかけて出たはずなのに。


「難事件だろーが女の家だろーが、俺を前にして開かない鍵はない」


 最悪だ。


「…………冗談。冗談だ、お嬢。頼むから軽蔑の眼差しを向けないでくれ。先輩はただ嘘をついただけだ。一人前になったばかりの可愛い後輩が部屋の鍵を失くしちゃったんで入れないんですー、ってお偉方(えらがた)にかけ合って、合い鍵を入手しただけだ。どうだ、合法的だろ」


 どこが合法だ。


 彼の口調を真似て『とんでもない先輩が合い鍵を騙し取って勝手に部屋に上がり込んだんですー』とお偉方に訴えて始末してもらおうか。騙された上層部にすがるのも微妙なところだが。

 いや、まずやりたくない。


「………今、はっきり『嘘ついた』って聞こえた気がします」

「正義じゃ食ってけねぇんだよ」


 矛盾している――――


「…………………」


 この人は本当に法廷弁護士なのか、怪しくなった。


「………どうかしたんですか?」


 いっそ分厚い法律書の角で成敗しようか。

 …………その法律書で裁かれるかもしれない。やっぱりここは刑事法にのっとって処分した方が得策か。


 えげつない計画を立てつつ、それは表に出さず本題をうながす。


「別にどうこうってわけじゃねぇよ。仕事、はかどってんのかなーって」


 フランソワがぴくぴくと眉根にシワを寄せる。煙が足りないのだ、彼は重度の巻きタバコの依存症だから。『悪人顔』と自称するほど厳しい顔のつくりをしているので、上がり目がさらに吊るととてつもなく機嫌が悪そうに思える。


 しかしこういう表情の彼は、たいてい禁断症状との仁義なき持久戦を()いられているだけだ。そうでなければ今頃部屋を出てっている。


 自分が仕事をよこしてきたくせに、やたらと首を突っ込みたがっているのが、その証拠。


「独立して初めての仕事がこれだろ。俺たちより偉い法廷弁護士すら投げたんだ。お前が優秀なのは、俺の株を上げた時点でちゃんと分かってる。だが今回のヤツは別物だ」


 彼が遠回しに伝えようとしていることは、ちゃんと受け取った。要するに頼ってほしいのだ。


 フランソワの性格は矛盾している。面倒臭がりでやる気がなくて、なのにエメリーが1人で作業しているとちまちま世話を焼き始めるし、ここぞという場面での仕事は早い。


 たまに世話が過ぎて逆に仕事が増える日もあったが、そんなところも含めてエメリーは密かに彼を慕っていたりする。口では絶対に出さずとも。


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