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裁きの庭  作者: いずれけす
第三章 引き返すための黄金の橋
19/34

鳥籠で眠る


 人物画ではありませんが、途中でイラスト(モノクロ)を載せております。

 苦手な方は挿し絵表示OFFにするなど、ご注意下さい。




 半年? ふざけるな。


 検察の圧力があったのかもしれない。司法の最高の権威は裁判所だけど、犯罪者を取り締まる検察の存在感は圧倒的に濃いのだ。

 裁判官は座って事件の審理をするのみなのに対し、検察の功績はとてつもなく大きい。彼らの発言ともなれば、裁判所も無視できない。


 ――――それは、検察の役割が増えたせいだ。

 事件の調査と取り調べから、裁判の手続きまで。街の警備隊から送検された犯罪者を徹底的に洗う。


 昔は取り調べまで警備隊がしていたらしいが、捏造が相次いだので今では検察が仕切っているという。

 そこまで検察の力が高まると、やりにくいのが弁護士だ。どんなに弁護士が被告人の待遇をもっと良くしろと怒鳴っても、検察に相手にされない限り、手を打たれずじまいである。


 弁護士の活動範囲と権限は、検察と比べるとずっと狭いし、弱い。再審の日を()ばせといったところで、絶対取り合ってくれない。

 腹立たしくて、エメリーはクローデンスの部屋に向かう間、牢番と行き交うたびに睨みつけていた。


「…………人の命を、何だと思っているの」


 壁に所狭しと固定された拷問器具に、意識なく毒づいた。




*******


挿絵(By みてみん)



 沈んだ意識の底。温かな声が励ましている。


『もう少しだけ辛抱してくれ。裁判所のお偉いさんと話をつけてきた』


 あの人の声だ。

 姿を求めて、漆黒の暗闇を見回す。


『その間に、厄介な問題を片付けておかねぇと』


 見つける前に耳に届いた一言が、心臓をドクッと硬直させた。

 あの言葉だった。この低い独り言を残して、あの人は去ったのだ。

 引き留めないと。

 走り出し、手探りで捜す。腕を伸ばすと、何かが手首を掴んだ。

 あの人だと直感して、嬉しくなった。




 瞼の裏が、赤く明るみ出した。クローデンスが瞳を開けると、窓から眩しい日差しが流れ込んでいた。

 目覚めを迎えたのは、見慣れたほの暗い部屋。夜明けの薄日が白い寝台に差し、四角く切り抜かれた窓の形を縫いつける。


 今朝はいつもよりも寝覚めが酷い。(かす)む視界が徐々に鮮やかになるのを待ち、クローデンスはぼんやり天井を見上げる。

 起き上がろうと腕に力を込めると、寝台の脚がミシリと(きし)んだ。

 朽ち果てた古い音が、自分の居場所を生々しく語りかけてくる。ミシミシと無機質な鳴き声に、ため息をついた。


 吐き気がするほど思い知らされている。望みはとうに捨てていた。奇跡なんか、過ぎた希望でしかなかった。

 再審だ、良かったなと言われても、他人事としか感じられない。面会に来た法廷弁護士が翌日になると別の人物に変わっているなら、なおのこと。


 助けてくれるのは大いに歓迎だ。でもクローデンスの許を訪れた人々は何かしら彼に疑いを持っていて、そんな連中に助けを求めても無駄だった。

 だから彼は試すのだ。口汚く罵って。けなして。拒んで。それでも受け止めてくれるかどうかを。

 何人かは耐えたけど、数日しかもたなかった。あんな程度で市民の味方を語るなど、笑わせてくれる。


 変わらないのだ。検察も、裁判官も、弁護士も。普通の人間と同じ。初めから決めかかっていたら、そのことがまとわりついて他のところに見向きもしない。


 クローデンスはまた、瞳を閉じる。


 誰も手を差し伸べないと悟った時も、こんな風に真っ暗だった。

 けどいつだったか。そこに光が一筋()したのだ。


 あの人だけは、突き放さず寄り添ってくれた。クローデンスが離そうともがいていた手を無理やり握って、引き寄せた。あんたがやってないなら、こっちは信じるだけだと。

 だけど信じろとは言ってこなかった。どころか、クローデンスなんかほっぽり出して事件の調査のためにあちこち走り回っていた。


 とんでもない法廷弁護士だったと、苦笑する。


 でも誰よりもクローデンスを思いやっていたのだ。

 あの人ならば救い出してくれる。あの人の手で牢獄を出、妹と抱き締め合える日を待ちわびていたのに。


 忽然と、あの人は姿を消した。最後の最後で。


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