囚われた雪の日 2
お待ちかねのケーキを切ろうとした矢先、屋敷の扉が叩かれた。慌ただしかったから、緊急の患者かと飛び出した。
だが屋敷の前を占領していたのは、いかつい体つきをした男たちで。
王家の紋章である『空翔ける白鳥』の下に、剣の一本線が引かれたブローチ。藍色の隊服。
王都警備隊の者たちだった。
剣呑な空気と野次馬たちの騒ぎで、ただ事じゃないと悟った。
けど、なんで屋敷を訪れたか分からなかった。怪我でもしたのかと、のんきに心配していたのだけど。
『クローデンス・アッシュワードだな。先日の王太子殿下の誕生夜会に招かれていた』
王都警備隊の人の言葉に、クローデンスは素直にうなずいた。
あの夜会には彼も招かれていた。受け持ちの患者である伯爵の専属調薬師として、同伴したのだ。
アッシュワード家は国王の病を治したかどで王室の危機を救った過去がある。王室もアッシュワード家には特別目をかけ、夜会への参上も歓迎していた。
…………もっとも、幼い妹を屋敷に残してきたので、早く帰ったのだが。
どうしてそんなことをわざわざ尋ねにきたのか見当もつかないでいると、男たちがいきなりクローデンスを取り囲んだ。
『王太子殿下の殺害未遂と、ウォレストン公爵以下の殺害の疑いがかけられた』
『検察の塔に来てもらおう』
何を言われたのか、さっぱり分からなくて。知らないと正直に答えたら怒鳴られた。
令状も見せつけられ、従わざるを得ないのは確かだった。
あの瞬間、クローデンスの胸を急に不安が駆け上ったのだ。そして脳裏をよぎったのは、なぜか妹のことで。
クローデンスは思わず後ろを振り向いた。
ついてきた妹が、怖そうな男たちや野次馬の視線にさらされ、泣きそうな顔をしていた。ふらふらとクローデンスの足にしがみつく。
この時は彼らの言う内容も、なぜどこかに連れて行かれなければならないのかも、全て自分の理解を超えていて、とりあえず行くだけ行って否定すればいいんだと考えていた。
だから、小さな妹を安心させようとしたのだ。
『いい子にして待っているんだよ。すぐ帰ってくるからね』
振り向いて、冷たい雪の庭に膝をついて、きつく抱き締めて。
約束をした。クローデンスの細く繊細な指に、まだまだ成長しきれていない小指が絡んだ。
子供だましのおまじない。嘘をついたら針を千本も飲ませられるから、絶対に守らなければならないのだ。何年も前から、クローデンスはよくこうして妹なだめてきた。
妹は彼の服にくっきりとシワをつけるほど、しがみついた。駄々をこねるように泣いていた。
泣き声と共に激しく繰り返される息遣いは真っ白で、ひどく寒そうだった。
警備隊の男に叱られても泣きじゃくる妹の涙が、胸を締めつけた。
『大丈夫だから』
袖越しにぎゅっと腕を掴んで離さない妹の指を優しく引き剥がし、最後に笑みを向けた。
帰ってきたらもう一度、誕生日を祝い直そう。どこかでプレゼントも買ってやろうか。そうのんきに計画していたのだけど。
全部、握り潰された。
閉ざした瞼を再び引き上げると、淡い月の光が瞳に差し込んだ。




