10年越しの再会
「――――ッ!」
あまりの衝撃にエメリーは思わず口を押さえた。たまらなく強い感情が込み上げ、涙が滲みそうになる。
あの時とはすっかり変わった。今ではエメリーの方が年上となってしまった、16歳の彼と。
座っているからよく分からないけれど、それでも大きくなった背丈。すらりと伸びた脚。かなり細いものの、男らしく均整のとれた体格。短く揃えられていた、淡々しい光を帯びた白金の髪も今では腰まで伸び、明るかっただけの瞳には思慮深そうな重さが宿っている。
彼の特徴1つ1つに、エメリーの記憶は兄の面影を見出した。
これで10年だ。10年。どんなに待ちわびていたか。
エメリーの兄は10歳年上だ。エメリーの6つの誕生日に連れていかれたから、今年で26歳。
あの時、なぜ屋敷に人だかりができているのか理解できなかった。なぜ、兄と離れなければならないのか………見当もつかなかった。
ただ、あの大きな手を握っていないと2度と会えなくなってしまいそうで、ずっと泣きじゃくっていた。
鮮明に覚えている。真冬の風が氷の刃みたいにエメリーの手を切り抜けたこと。
それからしばらく経って、やっと兄がこの事件の犯人として逮捕されたことを知った。
「お嬢? しっかりしろ」
目が虚ろにさまよったエメリーの肩を、フランソワが揺さぶる。我に返った時には、ジャンがすでに彼女の紹介を始めていた。
「クローデンス・アッシュワードさん。初めてお目にかかります。弁護連盟のジャン・クーノと申します。この人はエメリー・ロス。裁判官の覚えもめでたい方です」
「は?」
頭が真っ白になった。脇からフランソワが「おい、俺のはどこいった」とか文句をつけているが、そんな些細なことはどうでもいい。
めでたい? 初耳である。裁判官に顔を覚えてもらえるような手柄を立てたことは、ないはずだ。
「エメリー・ロス?」
青年の双眸が警戒心を露わにして細まり、ジャンをなぞってエメリーへと伝う。途端、澄んだ瞳の奥で光が散った。
エメリーはびくりと背を痙攣させる。
青年が口を開く。
発された言葉は、怒りで溢れていた。
「………女じゃないか! しかも子供!? お前たち、馬鹿にしているのか!?」
「そんな滅相もねぇよ!」
紫の虹彩が燃えんばかりに揺らめく。十数年も犯罪者の弁護を続けてきたフランソワも、さすがにギョッと声を張り上げた。
あと一歩近くに寄っていたら、掴みかかれるか、殴られていただろう。荒々しいむき出しの殺意を青年は突きつけていた。
すかさずジャンが割って入った。
「クローデンスさん。この人は確かに年こそ若いですが、実力は保証します。14歳で弁護士資格を取得した『歩く伝説』ですからね」
「え? あの、ジャンさん。私、これ、初仕事……」
口走ってしまいそうになったエメリーの足を、フランソワが踏みつけた。指の部分目がけて力強く踏んづけてきたため、強い痛みが足首まで貫く。
「――――ッ!!?」
「任せたぞ。お嬢」
うずくまりかけた彼女の背中をフランソワがポン、と叩いた。
まったくもって酷い先輩である。




