美しき囚われの人
どんよりと、疲れ切った声。エメリーのおぼろげながら記憶に残っている声音より、少し低くなっていた。耳触りの良い、なのに強い拒絶をにじませたそれは、棘のようにじんわりと彼女の身に突き刺さる。
こんな状況でなかったなら、きっと朗らかでよく届く声なのだろう。
心臓が高鳴り、締め上げられる思いで、エメリーはドレス越しに胸元のロケットを握った。
「何度も言ってるだろう。弁護士なんかいらない。助けると言っておきながら減刑の手立てしか考えんし、女の弁護士は同情するだけで何もしない。迷惑だ」
エメリーは跳ぶ勢いで背伸びをし、扉の窓から室内を必死に覗く。
向かい合わせに並べられた椅子。そのうちの一脚に腰かける人影。うつむかれた顔は前髪に阻まれ、ちゃんと見られない。
つま先をぷるぷる震わせるエメリーを哀れんだか、フランソワが扉の鍵穴に鍵を挿し込んだ。
「大丈夫だ。今度はちゃんとした奴を連れてきた。なんつったって俺が見立てたんだからな。ジャンはセンスが悪すぎる」
「一言多いよフランソワ………」
ガチャリと勝手に開けられたので、扉にへばりついていたエメリーは危うく前に倒れかけた。ジャンが掴んでくれなければ、情けない醜態をさらしたかもしれない。…………苦しかったけど。
体勢を整えたエメリーは、覚悟を決めて大きく息を吸い込み、閉ざしていた瞼を広げた。
「…………っ」
月光に染め上げられたかのように波打った髪。ちゃんと手入れをすれば見事な鮮やかさを取り戻せるだろうに、くすんでしまっている。
ダボついた灰色の囚人服の袖から伸びる、骨ばった腕。雪の白さと例えるには、充分な陽の光を長く浴びていないせいか青みがかっていた。
青年の顔を一目見て、彼女は絶句した。
すっきりした輪郭に整えられた、すっと通った目鼻立ち。凛々しい顔立ちの女性と間違えられてもおかしくない物憂げな美貌は、伏し目がちに瞼を下ろしていることもあって仄暗い魅力を引き出している。
切れ長の瞳の奥には澄んだ薄紫の色彩。打ちひしがれた双眸が向けられた瞬間、エメリーの背がぞっと粟立った。
そらそうにも、瞳が、彼に囚われてしまっていた。
恵まれた容姿。それを際立たせる綺麗な色合い。本当は優しいのに、まじめなせいで素っ気ない印象を持たせる雰囲気。
紛れもなく。変わり果てた兄の姿だった。




