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裁きの庭  作者: いずれけす
第二章 囚われた過去と閉ざされた日々
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グロリアーナ牢塔



「あの………」


 驚いて振り返ると、鍵を持った牢番が呼びかけづらそうに突っ立っていた。フランソワが「ん?」と関心を向けると、ほっとした顔つきに和らぐ。


「手続きが完了しました。こちらが鍵です」

「どーも。ごくろうさん」


 依頼人である死刑囚の部屋の鍵は、2つある。1つは牢番が管理するもので、もう1つは裁判が終わるまで担当弁護士が管理する仕組みになっているのだ。

 なぜか牢番はフランソワに鍵を渡し、彼もためらいなく受け取った。


 エメリーの気持ちは複雑だ。




「そちらの塔に収監しております」


 門の手前の塔へ案内される。この塔の最上階に目当ての人物がいると告げられたエメリーとフランソワは、いかにも辛そうなジャンを引きずって、見上げるだけで立ちくらみのする長い螺旋階段に足をかけた。


 最上階まで上るとなると足が痛んでたまらない。『断罪の塔』の構造は『正義の塔』と似ており、段差も低いので余計に疲れる。日頃自分の部屋と外とを行き来しているエメリーは、ここでも同じ目に遭わなければならないのかと肩を落とした。

 しかし、これからもっと辛い現実が待っているのだ。

 エメリーは強張って震える両手を握り締め、夢中で階段を駆け上がった。





 天井近くに取りつけられたランプの炎が、廊下を夕陽のように照らす。窓のない空間。長時間ここにいれば息が詰まるだろう。非常に圧迫感があった。


 それもそのはず。かつてのグロリアーナ牢塔は単なる牢獄としてだけでなく、拷問部屋にも用いられていたのだ。その証拠に、通路の壁には様々な拷問具が飾られてある。どれもかなり使い込まれたらしく、表面が無数の傷や金属の()げで目立っていた。のこぎりなどの刃物にいたっては、先端が刃こぼれしてしまっている。


 エメリーは眉をひそめた。口元を食い締め、前方だけを見つめる。


 ヴィットリア牢塔には軽犯罪者の弁護なんかで何回か足を運んだけれど、グロリアーナ牢塔は初めてだ。塔内の空気を吸う前に出て行きたくなるとの散々な評判だったが、予想以上だ。

 空気がやたら重い。ランプの明かりは心許(こころもと)なく、天井も低い。

 こんな場所で死ぬまで過ごすとなると、狂ってしまいそうだ。


 この道数十年のフランソワはさすがに慣れており、すまし顔で歩調をエメリーに合わせる。対してジャンは胃のあたりをさすり、のろのろと2人の後をついていた。心なしか顔も、青ざめている。


「大丈夫ですか?」


 気絶するんじゃないかと心配になって尋ねる。ジャンは力なく微笑んだ。


「これでも昔よりだいぶマシになったんだけどね。ここの空気はやっぱり慣れないな……」

「よわっちいんだよお前は。俺なんか死体見せられたことあるんだぞ」

「うぐ………」


 フランソワがあっさりした口調でとどめを刺した。ジャンが片手を壁につき、ぷるぷると口を押さえる。

 さらに追い討ちをかけるエメリー。


「検死ですか?」

「みたいなモン。その時担当してた殺人事件で、どうも被害者の死に方がおかしいと思ったんだ。で、医者に聞こうと思ったらそのまま冷暗所に直行されて………いい経験っちゃいい経験だったな、ありゃ」

「ちょ、待って、待って、フランソワ………」


 淡々と当時の光景を思い出して語るフランソワ。その横でエメリーはうんうんと聞き入り、ジャンは置いてけぼりにされている。

 彼のことなどいざ知らず、2人はコツコツと石造りの廊下に靴音を響かせた。


「お前、もうちょっと精神面鍛えような………おっと。着いたぞ」


 お目当ての部屋を見つけ、フランソワが口笛を吹いた。

 牢塔の突き当たり。金のプレートに『419』の数字が割り振られた部屋。フランソワの持つ鍵の番号と一致している。


 エメリーは古びた木の扉へ目を据えた。

 黒ずんだ、褐色の扉は鉄の縁取りがなされていて、嫌でも鼓動を激しくさせる。埃っぽい酸味を含んだ匂いが鼻先を刺激した。


 扉の上部には、穴みたいにくり抜かれた窓。そこから室内を埋め尽くす薄暗い影がエメリーたちを見張っていた。

 光も乏しく、さほど広いとも言いがたい部屋に10年間閉じ込められるなんて。一体どれだけ苦痛だったろう。こんな息苦しい空間にいながら、毎日やってくる牢番の足音におびえるのだ。


 普通なら、正気を失ってしまう。


 この扉の内側にいる人物を思って、エメリーは声にならぬ吐息を吐き出す。


 たった一枚の板。これを押せば、焦がれてどうしようもなかった人とようやく会える。

 ジャンから毒殺事件の担当弁護の依頼を持ちかけられた時には、エメリーの心は決まっていた。このために法廷弁護士を目指したのだから。


「いいか。お嬢。まずは信頼を勝ち取ることだ。それには相手をよく知れ。まずはそこからだ」


 法を学んでいた頃、毎日聞かされていたことだ。弁護士の道に入ってなおも、こうして事あるごとにフランソワから言い聞かされる。

 だが知っている。見知らぬ死刑囚を。誰よりも。エメリーが一番。


「また来たのか」


 こちらのやり取りが届いたのだろう。扉の奥から言葉が聞こえた。




 ようやく兄貴登場。天の岩戸開きます。


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