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裁きの庭  作者: いずれけす
第二章 囚われた過去と閉ざされた日々
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白髪じゃない


 現国王がまだ王太子だった頃。彼の誕生を祝う夜会の席で、6人の貴族の男女が倒れた。国の末永い栄光を願う乾杯の直後に起きたため、ワインに毒が盛られていたのではないかと言われている。

 貴族であっても権力や財力の弱い家柄の者だったなら、あまり大きな影響はなかっただろう。しかし皆有力貴族の出で、さらに悪いことに王太子もそこに含まれていたのだ。


 幸い王太子だけは助かったものの、未来のアルバーン国王まで命を落としかけたとあって、国中が混乱した。宮廷に、すみやかに事件を解決するよう圧力がかかったほど。

 当初、6人にワインを運んだ使用人や被害者と関係のある人物たちが疑いをかけられたが、最終的には1人に絞られた。――――まだ16歳の、調薬(ちょうやく)()の少年だった。

 彼は今も、牢獄に繋がれている。死の宣告におびえながら、ずっと。




*******




 『正義の塔』を中心にして、石壁に挟まれた通路が5本()びている。それぞれ王城、検察官の塔、牢獄などと直結しているのだ。


 エメリーと、なぜかついてきたフランソワとジャンは、死刑囚と()決囚(けつしゅう)を入れる拘置所・グロリアーナ牢塔(ろうとう)に向かう道を、馬車で突っ切っていた。

 グロリアーナ牢塔は、検察官の塔・『断罪の塔』の傍に建っているため、王城を挟んで真反対の方角にある『正義の塔』とは遠くかけ離れている。刑務所であるヴィットリア牢塔もそうだ。だから馬か馬車を飛ばさなければ時間がかかってしょうがない。


 『断罪の塔』すら遠いのに、刑務所や拘置所までその近くに置くなんて。弁護連盟への当てこすりとしか考えられない。高齢の法廷弁護士が、毎日長い道のりを渡るのを嫌がって、被告人弁護の依頼を降りたという話も頷けてしまう。


 立地条件をどうにかしろと訴えたい。色々文句をぶつけたら勝てる気がする。


「…………そろそろだな」


 フランソワが無感情に呟く。エメリーはハッと立ち返った。


 馬車の壁の四角く切り取られた窓枠に手をかけ、顔を出すと牢塔の正面がエメリーを迎えた。

 見張り塔と(あら)い岩肌の城壁が取り囲む、巨大な塔がいくつも立ち並ぶ建物。

 犯罪が増すにつれ受刑者の部屋を新たに設けざるを得なかったグロリアーナ牢塔の、現在の姿である。

 聞けばここ数十年の間、目立った犯罪も減り収容人数が少ないらしい。死刑執行の権限を握る最高法院長が、立て続けに死刑囚を処理していったという噂も一説にはあるものの。



 馬車を降りると、牢塔の門前でイカつい男たちがずらっと並んでいた。3人を見て一斉に敬礼したけれども、何人かは明らかに若すぎるエメリーをうさん臭そうに見やっていた。

 なので任命書と弁護連盟のブローチをちらつかせてやったら、慌てふためいた様子で謝られた。



 入り口の受付室へ飛び込んだ牢番が、必死に収容者の名簿と鍵の番号を照らし合わせるのを待つ。

 その間がとてつもなく長く感じた。


「相変わらず仕事のできなさっぷりは感嘆に値するよなあ。こんだけの人件費かけてるってのに」


 フランソワがぐるりと首を回して、目につく限りの番人を数える。多すぎたのですぐ飽きた。


「…………また、ここに来るとは」


 ジャンの笑みが引きつっている。フランソワは呆れたとばかりに前髪を撫で上げた。


「だから言ったろ。お前、えげつないの苦手で民事担当になったくらいなんだから。来なくていい。ってか来んな」

「いや、僕が持ってきた仕事だから。一応顔合わせしておかないとな、って」


 ガシガシと困り顔で後頭部を掻くジャン。これだからお前は(てい)良くこき使われるんだよと、フランソワがため息を吐く。


「面倒事の一切合財を引き受けるんじゃねえよ、お前。そんなだから見ないうちにまた白髪が増えてんだよ」

「嘘!? ………違う白髪じゃない!」

「増やしても意味ないモンを育ててどうすんだ」

「育ててない! ああこらエメリーもこっち見ない!」


 ジャンが急いで髪を隠す。しかし両手で頭を押さえているだけなので、あまり効果はない。


 名誉のため確認しておくが、ジャンの髪の毛は大部分が柔らかそうな褐色だ。日差しを浴びると灰色がかった銀の筋がいくつも艶を弾くのだが…………そうか、あれは白髪だったのか。

 エメリーが妙に納得している素振りなのを見て、ジャンは泣きそうに口元を歪めた。



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