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月下の不安と期待

「あ、そういえば。俺何も手伝いとかしてねぇわ」

 学院の正門、一人で爆笑する修二を、部活動で学院に来ていると思しき生徒が怪訝そうに一瞥していく。

「あ、いたいた」

 そんな中、唯一修二に話しかけてきた色男。綺麗で落ち着いた茶髪に、青い瞳の少年。修二の瞳は青みを帯びた黒だが、こちらは少し黒色を帯びたような、濃い青と言ったところか。肌の白い、スイス人と日本人のハーフだ。正に、美形の優等生といった印象を受ける。

「こんなところで、なに一人で爆笑しているんだよ」

 呆れた様子で、少年―― 綾取海斗(あやとりかいと)が修二に問いかける。

「いやいや、なんでもねぇよ?」

「まぁ、いいや。さ、入学式の準備、手伝ってくれよ」

 元々、準備の手伝いは生徒会副会長で、同級生でもある海斗に頼まれていたことだった。いつもだったら、面倒だと突っぱねる修二だが、新入生代表も来ると聞き、引き受けたのだ。

「俺はもう、用事を済ませちゃったんだけど」

「何を言ってるんだ? まだ準備は終わってないよ。さぁ、こっちへ来た来た」

 海斗が修二の首を掴み、そのまま引っ張っていく。海斗は新入生代表に会うためだけに、準備の手伝いを了承したのだが、それを知らない海斗は問答無用で修二に任を課す。

(あ~あ、こっちは疲れてんのに……)

 西日を顔に受け、目を細めながら、心の中で悪態をついた。



 □ ■ □ ■ □ ■


 

「だからね、全く君ってやつは」

「あ~、はいはい」

 修二と海斗は、学院から少し離れた定食屋に来ている。こじんまりとした素朴な店だが、その味など、質は良いので、一部の生徒はここの常連だったりする。この二人もその常連だ。

 現在、修二は海斗から説教を受けている。今回の手伝いはちゃんとやったので高をくくっていた修二だったのだが、それ以外のことを指摘された。

(こいつは俺の母親なのか……?)

 母親、家族というものを想像し、修二は少し気分が悪くなったが、決して表情には出さない。

「いい、修二? 今年はちゃんと授業に出なよ」

 疑問形にはならない言葉。口答えは許さないといった感じだ。実際、海斗が修二に対して言ったことは、学生としては当然のことだ。

「ちゃんと進学できたんだし、そうぎゃあぎゃあ言うなって」

「ぎゃあぎゃあとは何だ! 進学だってギリギリだったじゃないか!」

 あーだ、こーだと漫才のような押収を繰り広げる二人だが、海斗はハーフということもあり、正統派な美形と形容でき、修二も海斗よりは人を選ぶだろうが、そこそこ美形なので、中々画になってしまう。実際、彼ら二人を出汁にし、良からぬ妄想をする淑女たちも多い。

「あははは、二人はいつも変わんねえな!」

 カウンターの向こうから、店の主が話しかけてきた。気の良さそうな中年男性だ。ここの常連である二人は店主に顔を覚えられているどころか、一部の客にまでその存在を認識されている。

「す、すみません。また大声を出してしまって」

「いいって、いいって。今は常連しか来てないからよ。じゃんじゃんそのロン毛パーマをしかってやんな!」

「勘弁してくれよ、親父さん……。っていうか、誰がロン毛パーマだ!」

 客の間に、どっと笑いが起こる。中には水を吹きだしている者までいる始末。こんなことで店は大丈夫なのかと、疑いたくもなってしまう。

 その後も、この漫才のような状態は続き、他の客も盛り上がってしまい、軽い宴会のようになってしまった。

(この店、大丈夫だろうか?)

 そこにいた客の全員が、騒ぐ傍らでそのようなことを考えていた。



 □ ■ □ ■ □ ■



「はぁ。さっきは店の雰囲気に呑まれちゃったけど、ちゃんと授業には出なよ?」

「わーってるって」

 少々しつこいようにも聞こえるが、修二を想ってこその海斗の行動なので、強い文句は言わない。むしろ、修二はそれを嬉しくも思っている。それが誰であろうと、自身を心配してくれるというのは、嬉しいものなのだ。

「で、明日の入学式、見たいのか?」

「ん? ああ、できればな」

 目当てはもちろん新入生代表の挨拶だ。彩だけでなく、もう一人の方も気になる。

「じゃあ、明日の朝、僕の部屋まで来てくれ。僕と一緒なら、生徒会に混じって見ることも可能だろう」

「お前の心象が悪くならねぇか? こんな問題児連れてたらよ」

「問題ないよ。確かに君はよく授業をさぼるけど、あれを除けば、誰かと問題を起こしたとか、そういうのはないだろう? 君の能力を高く評価している人も多い」

 海斗の言う“あれ”を除くと、実際、今まで誰かとの、拳を使った喧嘩を修二は経験していない。そういう問題が起きそうになったことはあるが、修二自身がうまく躱している。

「そうか。じゃあ頼むぜ」

「わかった。じゃあ、また明日」

 海斗も了承し、二人は別れた。既に日も沈み、街灯が煌々と輝いている。

 綺麗な満月だ。昨日も月は真ん丸と存在していたのだが、そんな中、不法侵入、窃盗など、怪盗紛いのことをした修二は異常だろう。

(やっぱ、月はいいねぇ)

 その異常と形容される少年は、呑気に月を見上げていた。

(明日……、か)

 修二だけでなく、一部の在校生、そして大半の新入生がこの月の下、同じようなことを考えているだろう。


 主人公に関して、特に仲の良い男子生徒は後二人出す予定です。

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