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無影の怪盗

 東京都内某所、とある屋敷内。桐生修二はそこにいた。黒スーツの上に白いクローク、灰色のキャスケット帽と、客人に見えなくもない格好だが、招かれたのではない。時は未明、見つかれば前科が付く行動。彼は不法侵入者だ。

(しかし、また随分と西洋かぶれだなぁ、おい。どこぞの王宮でもモデルにしてるのか?)

 後ろで結ばれた、癖の強い黒髪を揺らしながら、修二は堂々と歩を進める。それでも、彼の足が音を奏でることはない。

 そんな足取りとは裏腹に、よく観察してみると、何やら衰弱しているようにも見える。病で床に伏せててもおかしくない、そんな印象だ。しかし、それでも修二の足は止まらない。

 いたずら好きな子供のような、誠実な青年のような、それでいて冷酷な大人のような瞳が辺りを見渡す。青みを帯びた黒――女性の髪で言う、濡れ羽色の瞳だ。

 明かりが点いていないとはいえ、今夜は満月。逃げる者より、追う者が有利な夜だ。

 豪奢な廊下には、様々な芸術品が飾られており、その天井には、この西洋の造りには似合わない、監視カメラが設置されている。

 だが、その監視カメラが修二の姿を捉えているとは思えない。彼は今、ある術により、その姿をあらゆるものの目から隠している。

 と、その時。廊下の角を曲がり、警備の者と思しき男がこちらに向かい、歩いてきた。強い、一目でわかるほどだ。単純な戦闘能力では敵わない。一対一の決闘で、策を弄し、身を削り、ようやく勝てる、そんな次元だ。それがこの屋敷には何人も配置されている。

 しかし、修二は動じない。男の目にも、自身の姿が映っていないことを確信しているからだ。修二は呑気に手を振りながら、男の横を通り過ぎる。やはりつらいのか、それを誤魔化しているかのような挙動だ。


(さてと、目的の物はどこかね)

 この屋敷に忍び込んだ理由、それは窃盗だ。修二自身の欲しているものではないが、仕事なのでやらなければならない。

(っていうか、もし俺が捕まったら、上のお偉いさん方は釈放の手引きとかしてくれるのだろうか……)

 ふと、不安になる。だが、それをすぐに拭う。仕事には極力、私情を挟まないようにする。

 廊下を歩きながら、部屋の扉を一つ一つ確認していく。ご丁寧に、そこに置かれていると思われる品の名前が書いてある。廊下の飾りとして置いてあるものではなく、お気に入りの美術品や工芸品には、それぞれ部屋でも与えているのかと、おかしくて修二は笑いそうになる。

(全く、酔狂だな)

 そう思う修二だが、自身も興味がないわけではない。所々、気になる名前が扉に書かれている。無駄なことはしていられないが、私用で来たのなら、盗らないにしても、一目見るぐらいはしているだろう。


(お、ここだな)

 目的の物の名前が書かれた扉を見つけた。その名は“永遠の冬”。だが、ここからが問題だ。

(スピード勝負だな)

 修二は自身の姿を隠していた術を解く。修二の身体に活力がみなぎる。

『ボス! 今から“永遠の冬”を回収する!』

『了解した』

 術の効果が切れ、上司との思念が繋がる。それと同時、修二は目の前の扉を蹴破る。当然、屋敷内に警報が響き渡る。警報とは言っても、御上品な鐘のような音だ。

 それに構わず、修二は部屋へ踏み入る。


「ほぉ……」

 思わず声を上げてしまうような逸品がそこにはあった。美しい氷だ。大きさは手に収まるほど。その美しさはそこらの宝石など目ではない。見ているだけで、心が落ち着き、清らかになっていくようだ。儚げに見えるが、現在の技術では溶かすことができないと言われている。

(っと。さっさとお暇しますか)

 一瞬目を奪われていた修二だが、すぐに当初の目的通り、氷を囲っているガラスを割り、奪取に成功する。観賞するためか、ガラスは薄く、罠もなかった。


「よし」

 部屋を出た修二だが、まず廊下の窓を割った。先程の術は使わず、廊下を全力疾走。警備兵に見つかりそうになるまではこの状態で移動する。

(チッ、もうかよ!)

『術を再発動。思念、切れます!』

 廊下を曲がろうとした瞬間、危うく警備兵に見つかりそうになった。急いで、先程の術を使い、場を乗り切る。

 どうやら、窓が割られていることで、犯人は外に逃げたと思ってくれたようだ。修二の思惑通りの展開である。

(じゃ、こっちはのんびりと帰らせてもらいますか、ね)

 警備兵の大半が外の庭へ捜索に向かう。その間に、修二は裏手から脱出しようと、屋敷内を移動する。

 この屋敷は芸術性重視の造りのため、武骨な防犯システムは採られていない。監視カメラは例外だが。そのため、警備兵の実力が高いのだが、その警備兵に見つからない以上、逃げるのには問題ない。塀や柵なども芸術性に富み、侵入や逃亡を妨げるのには適しておらず、飛び越えるのは容易だ。


(無事、任務成功ってとこかね)

 すでに屋敷内の敷地から出た修二は、自身の成功を確信し、静まり返り、不気味な雰囲気を醸し出す市街地へと、その身を沈めていった。

 初めまして、田中水素です。もし気に入って頂けましたら、これ以降もよろしくお願いします。術に関する説明は追々出てきますので、御辛抱を。

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