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第二十四話 縺れ

縺れ = 《もつ》れ


「こんにちは」

と叶伊織は俺が告白した時ばりに気のない『こんにちは』をかえす。


「叶さん、ずっと学校休んでたよね。どうしたの? みんな心配してたよ」


相田沙耶は意外にも友好的な第二声を放った。

しかし『中絶手術だったりして』といった彼女の印象が強くのこっている俺としては、むしろそこに怖いものを感じたわけだが。


「月曜からは行くと思う」

叶伊織は、答えになってない答えを放ってよこす。あいかわらずの非社交性だ。


「あ、そう」

と相田沙耶はいささか拍子抜けするほどあっさりと引き下がり、今度は俺の方に視線を走らせて、言葉をついだ。


「みんな心配してたから叶さんが戻ってきたら喜ぶと思うよ。とくに湊クンとかね」


意味ありげな『とくに』と『とかね』。

俺には、なぜその間に湊の名前がはいるのか理解できなかった。


「湊ってあの湊?」

確認になってない確認。


相田沙耶はそんな俺の様子を見て、すこしばかり驚いたように目を見開いたが、やがてどう納得したのか、


「あ、そういうことか。なるほど、そういうことだったんだ、なるほどねぇ」


拳で口をおおうと噴きだした。

小さい肩を小刻みに揺らして笑う彼女は、本当におかしくてたまらないといった風情で、俺には何がそんなにおかしいのか分からない。


一体なにが『そういうこと』で、どこが『なるほど』なのか。


わからずに、答えを求めて叶伊織のほうを見るも、無駄だった。

こういう時の彼女の鉄面皮は完璧で、したがって俺はその下からいかなる表情も読み取ることはできない。


本当は『叶さん、湊を知ってるの?』と問い詰めたい衝動に駆られていたし、じっさい喉元まで出かかっていたのだが、それをこの場で口にするのは、なんだかひどくマズい事のような気がした。


だが結局、俺の焦燥も動揺も、もろに顔に出てしまっていたに違いない。相田沙耶の微笑みはまさに勝利を確信した者のそれだった。


「うわ、ひょっとしてまずい事いっちゃった? 私」

相田沙耶は「ごめんなさいね、叶さん」と芝居がかった口調で謝る。

もちろんその目は笑っている。


「でもね、まさかフタマタとは思わなかったから。しかもよりにもよって……」

相田沙耶は俺の方を哀れみとも軽蔑ともつかぬ表情で見て、また一つ笑った。


「親友同士を、なんてね」


いま、何てった?

……親友同士? フタマタ? 

彼女たちは、相田さんは、俺と叶伊織がデートするほどの仲だと勘違いしているわけで……

つまり、つまり、湊と叶伊織が付き合ってる?


――まぁお試し気分だったらいいんだけどさ、本気にだけはなるなよ。

――あの手の女にいれあげても、いいことはないって話。


湊の忠告が脳裏をかすめた。

あれは……どういうつもりで?

本気になるなってどういう意味だったんだ? だいたい『あの手の女』って、どういう言い回しだよ? あいつ、そんなに叶伊織のこと知ってるのかよ。


でもちょっと待て、話が変だ。

湊が叶伊織と付き合っているとしたら、一体なにを好きこのんでデート指南なんてしたりしたんだ? そりゃ頼んだのは俺だけど。


そもそもあいつは、俺が叶伊織を好きだって以前から知ってたんだぞ。

それこそ告白して玉砕するよりずっと前から打ち明けて…………あ。

打ち明けた、から………? 

俺が、あいつに……叶伊織が好きだって言ったから?


……まさか、そんなこと。だって、あいつは……サエコさんが、いやそうじゃなくて……

ありえない。でも……


頭の中がぐちゃぐちゃだった。まるでテーブルの上のナプキンとその上の数字の羅列のように。

俺には理解できず、整合性のつくルールが見つけられない。



   ■



「でさ、叶さん、おジャマ虫ついでに一つ聞いちゃうけど」と相田沙耶は俺に与えたダメージの深さをじっくり見学したあと、今度は叶伊織の方へと矛先をむける。


「湊クンはこの事しってるの?」


ずっと沈黙を守っていた叶伊織は、このときようやく唇をひらいた。

「ごめんなさい。ちょっと話がよく見えないんだけど……ミナトって誰?」


「清水湊よ、清水湊。あんたの彼氏」と取り巻きのその一の声。


「清水……」と叶伊織は眉根を寄せた。「ああ、あの窓際に座ってる?」


「ばっくれてんじゃねぇよっ! てめぇの彼氏だろ!」と叫んだのは、取り巻きその二。


まわりの客の視線が、いっせいに俺たちのテーブルへと集まる。

佐藤だったか伊藤だったか、良く思い出せない苗字をもつ取り巻きその二は、その主体性のない名前に反して、ゴクウが第一巻からいきなりスーパーサイヤンになるくらいの変貌ぶりを見せつけた。


しかし女王様が舌打ちして、佐藤だか伊藤だかに一瞥をくれると、彼女はしかられた犬のようにシュンとして引き下がった。丸めたシッポがさみしい。


「ごめんなさいね。彼女、相手があんまりナめた事をいったりすると、時々こうしてちょっと取り乱しちゃうの。斉藤さんはきっとこういいたかったんだと思う。『いくらフタマタをかけてたのがバレそうだからって、いくらなんでも自分の彼氏の名前を知らないなんていう、しらばっくれ方はちょっと現実的じゃないよね』って」


叶伊織は首をかしげた。

「つまるところ、その清水ナントカってのが私の彼氏だと?」


「だから、さっきからそう言ってんだろうがっ……あ、あー……あたし、さっきから、そう言ってると思うんだけどなぁ、叶さん☆」


斉藤さん……キャラの濃い人だな。元ヤンの設定か?


「悪いけど、清水とはまともに話したこともないから。それとも最近の彼氏ってのは、第三種接近遭遇もとったことのない人の事をさすの?」


「てめ――」


相田沙耶は片手を挙げて、またもやスーパーサイヤンになりかけた斉藤さんを制すと「まあいいじゃない」と首を振った。


「こっちだって人の恋愛事情に口を出すつもりはないんだけど……ただね、親友をフタマタにかけた挙句、しらんぷりは流石にちょっとヒドいんじゃないかと思うの。

こっちの高橋クンなんか特に何にも事情が分かってないみたいだし。叶さんの、ステキなアルバイトも含めての話」


ふふ、と相田沙耶は小悪魔的な微笑を浮かべると、「ちゃんと教えてあげたほうがいいと思うよ、高橋クンにも」と言った。


叶伊織は無表情にペンをもてあそんでいる。

視線はすでにナプキンの上のプラスチック数のほうへ戻りかけていた。


「事情が見えてこないのはこちらも同様だけど、とりあえず留意しておくわ。ご忠告どうもありがとう……」


そこでハタと気づいたように、ペンで遊ぶ手を止め、女王様を見上げた。


「ところで、あなた何さん?」







相田沙耶・・・こんなキャラにしてしまいスミマセン。

そのうち、もっと出番があるはずです。

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