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トケイ  作者: めくじら
2/2

時計2

 『父さん……』通夜の夜。泣き崩れる母。参列者は後をたたない。黒服に身をつつむ少年。

 

 「あぁ、あれは私だ」懐かしい記憶。

 

 『なんで、僕、謝るよ。一人でも謝るから』少年は涙を流していた。

 

 「そんなに泣くなよ。父さんはもう帰って来ないんだ」ずっと泣いていたかった。いつまでも。しかし、それが途切れてしまうとき、それからが本当につらいんだ。

 少年の幼い手の指がゆっくりと父の頬に触れた。まるで氷のように冷たい。あんなに暖かかった父が。

 いまでも思い出せる。あの時の父を。死の冷たさ。

 そして、無意識のうちに悟るんだ。このなかに父さんはもういない。 

 『………』 

 そして、……………どうだったっけ?


 カラン、カラン!!


 なんだ、……またあの夢か。

 店の中に誰か入って来ていたのが目に付いた。

 (おじいちゃん、誰も来ないんじゃなかったの?)

 見知らぬ女性だ。年は……私より、5つか6つ上ぐらいか。もしくは30を越えているのだろうか。ずいぶんと落ち着いた印象を持っている。

 

 「いらっしゃいませ!!」この店の空気にあまりにもそぐわない声が響いた。とりあえず言っておかなければいけない気がした。

 女性は驚いたような笑みをこぼした。

 

 「あら、今日はやけに若いのね」女性は一挙一動に気品を兼ね備えていた。

 

 「え?叔父の知り合いですか?」少し助かった気持ちだった。時計の説明を要求された日にはお手上げだった。

 

 「知り合い……と言うのとは少し違うわ。以前来たことがあるのよ、この店に。まだ、子供の頃だったけど」

 知らなかった。たとえ、一人でもこの店に客が来るとは。

 

 「子供の頃…、一人で、ですか?」聞いたところで意味が無いのはわかってる。でも、予測しなかった事態に慣れるまでの時間が欲しかった。

 

「えぇ、そうよ」


 「何故?」

女性は一瞬キョトンとした表情を浮かべ、こらえるように下を向き、私の顔をチラッと見ると小さく笑った。


 「面白い人ね、あなた。今日は来て良かったわ」女性は続けた。「そうね、だってこのお店がオシャレで素敵だからじゃないかしら」


 「素敵……ですか」私は耳を疑った。


 「まぁ、実はもう一つ理由があるの」女性は言った。


 「なんですか?」


 「私が子供の時に来た、その日の時計が欲しいの」


  ??


 「え?まさか……、もう無い?」女性は怪訝な顔をした。


 「いや、なんのことを言ってるのか……」私は現在のこの状況に至るまでの経緯を、つまり、何もわからないことを告げた。


 「なるほど!じゃあ君はおじいさんが、毎日、時計を作っていることを知らないのね?」女性は聞いた。


 「それは知ってますよ?叔父は時計作りが好きですから、毎日かどうか知りませんけど」


 「違うのよ、そうじゃなくて1日に一つ時計を完成させるの。だから、時計には全ての日の日付が彫ってあるでしょ」


 「日付が彫ってあることさえ知りません」私は正直に言った。


 「………」




    ・・・・・




 「あったわ!あった!これよ!!」女性は時計の埃をはらいながら言った。

 二人はすでに埃まみれになっていた。この大量の時計の中から、一つの時計を探し出すのは正直無理かと思っていた。


 「ほら!見て、私が来た日付が書いてある」

 

 まさか、本当にあるなんて。


 「嬉しい!!これいくらで売ってくださるの?」

 

 …………あっ!どうすればいいんだろう?


 「えっと、まさか、非売品とか」女性は心配そうに聞いた。


 「いえ、えっと…」叔父が値段は客と相談して決めると言っていたことを思い出した。「…いくらだったら買います?」


 「いくらでも買います!」女性は時計を抱きしめて言った。


 「う〜ん、そうじゃなくて、もっと現実的な値段を言ってください」


 「現実的な値段?」女性は聞いた。


 「はい。なんか言い方悪いかも知れないですけど、あなたならこれにいくらつけますか?」私は時計を指差して言った。


 「私が値段つけるの?」女性は首を振った。「……出来ないわ」


 困った。どうすればいいんだ。時計は日用品…か、


 「一つだけ教えてもらえませんか?」


 「?」


 「何故、その時計が欲しいんですか?」


 「……そうね、だって、私がここへ来た、あの日に作られた時計があるんですもの」女性はしばらく考えて言った。「思い出の品ってところね。とても素敵だわ」


 「今日初めて見たのに思い出の品ですか?」


 「えぇ、そうよ。だから、探してくれてありがとう」


 叔父だったらどうするだろうか……、わからない。

 そして、この問題と平行してある一つの興味が頭の中を刺激していた。私が父を間接的にせよ殺してしまったあの日。あの日の時計はあるだろうか。

 

 「その時計はあなたに差し上げます」考えた挙げ句に。「叔父としてもそれを望むでしょうから。でも、一つ条件があります」これ以上無い利己的な結論だった。


 「条件?」


 「ある日付の刻印された時計を一緒に探して欲しいんです」一人でも時計は探すつもりだったが、出来れば叔父の帰宅前に見つけたかった。


 女性は自らの衣服の汚れた部分を強調するように「……もう、ここまで埃まみれなんだもの。今更、断る理由なんてないわ」そう言うと、優しく微笑んだ。


 「…………」




    ・・・・・




 叔父への感謝を私に伝えて、女性は帰っていった。

 

 時計はすぐに見つかった。この店の中で唯一の未完成品。作りかけの時計。時計の針は動いていない。

 この時計は作られたその日から時を刻んでいないのだろう。


 何故、完成させなかったのか。もしくは、これで完成…

 

 (いや、……それはないよな?)

 

 叔父にとって時計は日用品なんだ。こんな、中途半端な作品を叔父が望むはずがない。

 

 (たぶん、完成させることが出来なかったんだ)

 

 あの日、叔父は私を迎えに来る前、ここで時計を作っていたんだ。いつものように。

 

 どんな気持ちで私を抱きしめたんだろう。私の濡れた心は、あの一瞬の情熱に照らしだされ、すっかり乾いてしまった。

 

 手作りの作業台は主の帰りを待っている。

 

 クラシックを聞きながら、時計を作る叔父の姿が目に浮かんだ。



最後までお付き合い頂き有難う御座いました。

わかりやすく書こうと思えば思うほどわかりにくくなっているような気がします。

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