会いに行こう
鬱蒼とした木が茂り冬の割に生温かい風が吹く場所に連れてこられた。
どこからか硫黄の匂いがするから温泉があるのかな?
「着いたわ」
ぜえぜえぜえ……、
クロがものすごく疲れ果てている。顔色も悪いしふらふらしているし。
「ちょっと休もう!なんで死にかけているんだよ!?」
「久々に飛んで、ちょっと呼吸がしにくかっただけよ。普段は隠業して行動するから、飛行は慣れていないの」
「さっき、人を落としたことないって言ってなかった!?俺だまされたの!?」
「はぁ……、落とした事はないわよ、だってあんまり載せないもの」
やっと息が整ったのか会話がスムーズになってきた。
「詐欺に遭った気分」
「楽しんでいた癖に良く言うわ。帰りはもっとスピード出して上げるからね」
うわー、こんなツンデレいらないです。誰か俺にデレデレな子をください!切実に!!
「所で、おじい様ってどんな人?」
「太古の龍の一匹で、東の観察者よ。創世期あたりから世界を観察している方で、とっても大きいの」
「漠然としすぎていて全然わからない」
(だから、馬鹿を見る目でこっちを見ないで!)
「私や白が困った時にアドバイスを求めたり、天変地異が大きすぎて、私たちの力だけじゃあ足りない時に力を貸してもらっているのよ。最後にあったのは北の方の火山が爆発したときに力を貸してもらったわ」
(あとは、私たちが力を暴走させてしまった時のストッパーの役目も負っているわ)
北の火山って何年前の話だ?クロの話している昔話はいまいち時間の感覚がつかみにくい。
「観察者の割に結構活躍していない?」
「まあ、観察対象がいなくなったら困るでしょう?これは人間だけでなく他の生物も含めだけど。では、おじい様に会いに行こう」
腰かけていた岩からおり、苔むした倒木の上を歩いていく。
神聖な空気というものはこういうものを言うのだろうな、と思わせる空気が徐々に濃くなってきた。ちょっと息苦しい。クロみるとイキイキしているように見える。
クロも神聖な生物のはずだから当然か。
(俺、どうせ汚い人間ですよ……)
しかし、大きいと言っていたから直ぐに見つかると思ったがそうでもないらしい。
しばらく歩いていても、それらしきものが視界に入ることはなかった。
そうこうしていると、大きな湖の前に出てしまった。靄がかかって見えにくいがかなり広い湖だと思われる。
周りには時期外れのツツジ等が咲いていた。きっと一年中暖かいのだろう。
「何にも見えないんだけど。それに、これは温泉?」
「そうそう、温泉。ちょっと温めだけれど」
クロは手をお湯に付けて温めていた。俺もマネしよう。
「お湯のわりにヌルついている気がする」
「これがお肌に良いんだって。お母さんがいっていたわ」
昔を思い出したようで目を細め遠くを見つめている。
クロの昔なんてさっぱり想像できないけど、纏った空気が柔らかい事からきっと良い思い出だったのだと思う。
「さて、おじい様の許へ行きましょう。私と手を握ってくれる?」
差し出された手は温泉を触った手で、手を繋いだ後に後悔と煩悩が押し寄せた。
暖かくて、ぬるぬるしていて、クロの手は柔らかくて、最高です!!
でもその後の行動で一気に現実に引き戻されることとなった。
「そのまま入ったら溺れるって!一緒に入水でもすんの!?俺まだ死にたくないよ?」
何とクロは湖に入り始めたのだ。温泉に入りたいと思っていてもこんな状況では楽しめるはずもないし、溺れてしまう。
「大丈夫、おじい様の領域に行くだけだから」
そう言って俺も湖の中に引きずり込まれた。
あんまり泳げないんですけど……。