運命の日
それから再び目覚めるまで煩わしい夢は襲ってこなかった。
朝ご飯を食べ損ねた俺はコンビニに向かう。
弟にプリンも頼まれてしまった。どちらが兄かわからないな……。
コンビニで朝ご飯兼昼ご飯を購入し帰宅する。
重いビニール袋を下げて、家の桜の前を通り過ぎようとしたらいつもと違う光景が広がっていた。
髪の
長い
女が
倒れていた。
「え……、これは夢?俺まだ寝ているのか!?」
バタバタと自分の体を触り、ついでに頬も抓っておく。
「痛い」
てことは夢じゃない!倒れているなら具合が悪いわけだからー、と思い駆け寄る。
「大丈夫ですか!?救急車呼びますか!?」
肩をたたくが反応がない。
うつ伏せになっている体をゆっくり仰向けにして気道を確保する。
脈はある。自力で呼吸もしている。これ以上は俺では手の施しようがないと思い、家に助けを呼ぼうと彼女の傍を離れようとした。
しかし、それは彼女によって阻まれる事となった。
手を掴まれ、まるで逃がさないとでも言うように鋭い眼光で睨んでくる。
「だいじょうぶ」
掠れた声で女がつぶやいた。
「大丈夫って倒れている人に言われても信用できないのですが」
「お腹すいているところ無理して動いたから倒れただけ。だからご飯をくれたら動けるようになる」
あれ?もしかして俺たかられている?そんな慎ましい表情で見られても俺は動じない。
なぜなら俺の弁当を狙っているふとどき者に変わりはないからだ!
「ご飯くれたら良いことしてあ・げ・る」
囁かれてしまった。こんな美人に囁かれて動じない男はいない!!ごめん母さん俺大人になってくる!!
「は……はい!」
あ、声が裏返ってしまった。恥ずかしい……、変声期早く終わらないかな。
頭が変な方向に暴走しかけたが、とりあえず家に上がってもらい、俺のご飯を分けてやろうと思う。
「そこに座っていてください」
居間の炬燵に案内し、お茶を入れる。
好みを聞き忘れたから煎茶で良いだろう。
「おまたせしました。ってなにしているんだよ!」
彼女は仏壇に線香をあげ、手を合わせていた。
「勝手にごめんなさい。少し懐かしかったから、私君のおじいちゃんの知り合いなの」
「あー、だから家で倒れていたんですねー、ってせめて家を訪ねてから倒れてくださいよ」
なんかこの人と居ると疲れる。
自称おじいちゃんの知り合いは、俺のパンを奪い食べている。
なんとか守り抜いた弁当をコーラで流し込みながら俺はふと疑問に思ったことを口にした。
「ところで、どちら様ですか?」
「そういえば、自己紹介がまだだったね。えっと、黒雛と言います」
くろびな?変な名前、この人ほんとにおじいちゃんの知り合い?
「高取雄輝です。おじいちゃんは2年前に亡くなりましたが、どちらでお知り合いになったんですか?」
「かれこれ124年前かしら?最後に会ったのは敏君がまだ10歳のころだったわ」
え……?この人電波な人?つうか、おじいちゃんの名前違うし!
変な人にはなるべく早く帰ってもらおう。
「えっと、祖父の名前は敏ではないのですが?」
「え!!あーごめんなさい!じゃあひいおじいちゃんかな?。やっぱり長く眠ると時間の感覚狂うわね」
(やばいこの人)
「やばいってひどいわねー。私はこの家の守り神やってるのに!もー知らないどっか行っちゃおうかなー」
「え!聞こえちゃった!?それより神様ってホント?」
おかしな人の設定が気になって、つい質問してしまった。
「ほんとほんと。あの桜いつも綺麗に咲くでしょ。あれは君の先祖と約束した時に埋めた桜でね、あれを通してこの家を守ってたわけ」
うわー、神様すごーい、俺の先祖すごーい。
でもなんか嘘くさーい。
「でもなんで神様がなんであんなところに倒れていたの?」
「話せば長くなるのよ……」
神様はいきなり落ち込みだした。
そして俺の運命を変える一言を言い放った。
「そうそう、君誰からも加護貰ってないでしょう?」
「まぁ……」
神様まで俺を人間失格扱いするのかと思って頭に熱が登るのを感じた。
「そんなに睨まないでよ。それはしょうがない事だったんだから」
「しょうがないって、なんで初対面の人に言われなきゃいけないんだよ。神様だろうがなんだろうが知らないが、俺がどれだけ悩んできたかわからないだろう!?」
これまでされてきた差別的な言動は俺の心に十分な傷を負わせていた。
神様は申し訳なさそうに目を伏せごめんなさいと呟いた。
「実は、あなたが生まれる段階で私が加護を与えることになっていたの。あなたのご先祖との約束でね。でも、白が邪魔をしてきて私を再び眠りにつかせた。だからあなたに加護を与えるのが遅くなってしまった。本当に申し訳ない事をしたと思う」
神様はペコリと頭を下げた。
「あんたが俺の守護者?」
「ええ……、黒龍それが私の本当の姿」
信じられない。今まで夢にまで思っていた事が叶うなんて。
しかもこんなにも位の高い龍が。
黒と白の龍は四大元素の龍とは異なった力を持ち、この世の理にすら影響を与えるという龍だ。
(一般的には……、お父さんが家の言い伝えを話してくれたのはいつだったろうか、その中で何か重要な事を言っていた気がするが、思いだせない。)
「雄輝に加護をあげたいのだけど、先に言わないといけない事があるの
・私は今、万全ではなく本来の半分ほどしか力が出せない。
・白龍に狙われているから、確実にあなたを危険にさらす。
それでも良かったら加護を与える事ができる」
俺の返事は決まっている。
この喜びをくれるなら、俺は黒雛のために戦う覚悟が出来る。
「加護が欲しいです。あなたのことも全部受け入れます!」
(あれ、でも白って……)
「わかったわ。私の加護をあなたに授けます。」
俺の手をとり、彼女の額近くにもっていき手の甲をおでこに押し当てた。
一瞬鳥肌が立った後手の甲に温かいぬくもりを感じた。
相性はよかったみたいだ。
合わない相手に加護をもらうと激痛が走ると聞く。
そして、止まっていた俺の運命の輪が一気に回りだした。