うさぎ?いぬ?
「雄輝、さっさと起きなさい」
すでに時計の針は10時を回り、夏のギラギラした太陽が全身全霊を込めて地表にエネルギーを注いでいる。
二階の角部屋である雄輝の部屋は良い感じに暑くなっているはずだが、今年に入って一回も冷房をつけていない。
暑いのは嫌い!と家の温度をクロが25度で固定しているからだ。
クロは家の外回りに不可視の暗幕を張り、熱エネルギーの過度の侵入を防いでいるとのこと。
この方法は、加護を受けている人間なら出来なくはないらしいがエネルギーの消費が多く無駄に使うのなら、クーラーをおとなしく付けていたほうがいい。
水の龍なら、空気中の水分を冷やしたり、風の龍なら空気を動かし風を送り涼をとることが出来る。
火の龍は言わずもがなだが、熱に強い。土の龍は黙って耐えるの一卓だ。
そんなわけで、快適に寝ていた俺は叩き起こされることになった。
「うへぇ……」
「ご飯は出来ているから温めて食べなさいってお母様が言っていたよ」
腰に手をあてて、クロはあきれた顔で雄輝の顔を覗き込んだ。
「今すぐはむりー。食ったら吐く」
朝はどうも胃の調子が悪いのか食欲不振気味である。まあ、起きてしばらくすれば食えるのだが。とりあえず、起き上がり時計を確認する。
「つか、10時かよ。なんで起こしたん?予定あったけ?」
俺は予想外の時間に若干のイラダチを覚えた。夏休みなら12時起床が基本だろ?
「ふふふー。そんな堕落した生活を私が許すと思ったのか!!」
(真夜中に予定入れましたとか言えないわ)
クロはちょっとやましい気持ちになってしまったが、それ如きで彼女は動じない。
最後のほうに、かなり力を入れていたのが分かる。
ああー、特訓ですね分かります。
「今日はご飯を食べたらアーサーの家に行きます。そこで君たちは特訓、私たちはおしゃべりをします」
アーサーさんとの特訓はしばらくぶりである。
テスト前からアーサーさんは生徒会の仕事で忙しく、なんでも夏休み明けにあるイベントの仕切りでてんてこ舞いだと言っていた。
「ういー、着かえて行くから下に行ってて」
「分かったわー。ご飯用意しちゃうから早くしてね」
クロはそう言って部屋を出て行った。
夏用のジャージに着かえた俺はクロと一緒に朝飯を食い、アーサーさんの元へ向かうべく家をでた。
「え!なに!?捨て犬!!?」
目の前にはくすんだ灰色の、中型犬から大型犬程度の大きさの犬がお座り押していた。
首輪は付いていない?
赤い光彩を持つ瞳は、ゆったりとお座りをしている姿勢とは別に雄輝に威圧感を与えていた。
「いきなり捨て犬呼ばわりとは失礼な奴だな。噛み殺すぞ」
低く唸る様はまさに犬だが、しゃべる犬はこの世に存在しない。
「うさぎ、大人気ないからやめなさい」
クロはいつの間にか雄輝の隣に立ち犬を見下ろしていた。
「知り合い?」
雄輝はクロのほうを向き、短く聞いた。
「弟子」
「ですよねー」
分かっていた答えだが一応聞いておくのに越したことはない。
「昨日も言ったが俺はうさぎじゃない!」
うさぎと呼ばれた犬は再び口を開く。
確かにうさぎではない。どう見ても犬だ。
「うん、どう見てもうさぎじゃない。犬だ」
俺もここはうさぎさんに加勢しようと思う。
「そうそう、って俺は狼だ!!」
ノリつっこみ!!しかも犬じゃないのか!
「あれ?いつから龍から狼に鞍替えしたの?」
クロはからかう様にうさぎに声をかける。
「ああー!うるさいうるさい!!良いからさっさと梗夜の処に行くぞ!」
狼で龍のうさぎさんはイライラしているのか尻尾を大きく揺らしながら歩き出した。
道すがらこいつら馬鹿にしやがって、とかこの俺の完璧なデティールが分からないとはなんて可哀そうな奴なんだとか、様々な悪口が聞こえてきたが、聞こえないふりをした。
さすがにからかい過ぎたとクロも思っていたのか、俺にうさぎさんの正しい名前を教えてくれた。
銀二と言うらしい、地の属性を持っていると紹介された。
普通の地の龍は茶色が多いから驚いたが、金属の属性が強いとメタリックな色合いになると銀二さんが教えてくれた。
因みに風の龍は緑、水の龍は青、火の龍は赤と何となくわかれている。
梗夜さんは風の龍だけど紺色だ。
銀二さんは人間嫌いと言っていたが、ちょっと話し、彼の壮絶な自慢話を聞いていると打ち解けてくれた。
久々うp
忙しいような、忙しくない毎日。