終戦の時
《九月 十六日 AM6:50》
機動隊が体育館の中に突入すると、壁の内側には誰もいなかった。
(体育館の中に立て籠もっているのでしょうか?)
隊長がけがをして代わりに指揮をすることになった副隊長は怪訝そうな顔になった。
壁の内側には多くの生徒が待機していると思っていたのだ。
そんなことを考えていると体育館の中に突入していった部下の一人が戻ってきた。
「どうしたんですか、ずいぶん早いですけど。もしかして踏み込んだところで奴らが投降でもしてきたんですか?」
ロケット弾にビビってそうしたというのなら撃ったかいがあったというものだ、と彼女は思った。
「違います。生徒達が誰一人として見つからないのです!」
「なんですって!?」
「ですから、中に人が一人もいないのです!」
「そんな馬鹿な!」
中には犯人達と人質に取られている生徒達が大量にいるはずだ。
「そんな馬鹿なことがあるはずないでしょう! 百人を超える人間が急にいなくなるわけないじゃないですか! どこかに隠れてるに決まってます!」
「体育館内はくまなく探しました。もし見逃している場所があるとしても百人も隠すスペースはないはずです」
「だけど外にもいないし。どこかにいるはずです」
「どこかに逃げたというのは考えられないのですか?」
「突入前は屋上にいたリーダー格らしき人間と会話までしていたんですよ。その時にはいました。ここは周りをぐるっと私達に囲まれていたし、その他の場所は体育館を囲むものより高い学校を囲む塀です。出られるわけがない。どうなってるんですか!」
体育館には生徒達がいた痕跡は残ってなかった。
体育館に残っていたのは周りを囲っている電気の流れていない有刺鉄線と夜に機動隊が落とした装備だけ。
「消えちゃったとか」
「馬鹿なこと言うんじゃありません!」
隊員の一人が言った言葉を大声で否定しつつ副隊長の心の中ではもしかしたらという感情がぬぐえないでいた。
《九月 十六日 AM7:05》
体育館の中の様子は教師陣にも伝わってきた。
どうも中にいたはずの生徒達が機動隊にまわりを囲まれた状況で消えてしまったようだ、とのことだった。
その報告を聞いた高村先生はにやりと口元を歪めた。
「なるほど、このために俺を顧問にしたわけか」
高村先生はここの卒業生だ。
生徒達しか知らないことをいろいろと知っている。
情報を漏らさないように、裏切らないようにと釘を刺す意味での顧問だったのだ。
「なるほど、これがわからないのは教師が悪いな」
エナの予想通り、高村先生にはやはりトリックが分かっていた。