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スタートライン その4

《七月 二十日 PM0:15》

 授業が終わり、明後日から夏休みになるということもあり、生徒達は少々浮かれていた。

「皆、浮かれてるね」

「まあ、明後日から夏休みだからしょうがないんでしょ。宿題もないしねー♪」

「デュオもうれしそうだね」

 この学校では教師達が面倒くさがって夏休みの宿題を出そうとしない。夏休みの間、生徒達は野放し同然なのだ。

「部員の目星付けておいたよ。写真やどんなプロフィールがあるけど、見る?」

 ついでに写真は盗撮したものであることはデュオには内緒だ。

「見る!!」

 エナが手渡すとデュオは写真を取り、めくりつつ眺める。

 そして三枚とも見終わると顔を上げた。

「そうだよ」

 一人目は背が低く、前髪がまっすぐ切りそろえられたおかっぱ頭の少年。

 髪の奥に見えるダウナーな瞳、線が細く、中性的な顔立ち。小柄なこともあり、女子だと言われたら一瞬、信じてしまいそうである。

「一年C組男子、砂山 昇。クラスではいじめにあっていて孤立しているみたいだね。家でも父親と対立状態。趣味は野生動物へのえさやりだそうだよ」

「野生動物ってトラとか? 危険なやつ?」

「野良犬や野良ネコ、カラス、ネズミとかみたいだよ」

「ふーん」

 そう言うとデュオはそのことには興味がなくなったかのように視線を次の写真に移す。

「次はだれ?」

「次も同じく一年C組男子。長谷川 徹」

 二人目はスタイルも顔も良く絵に描いたようなイケメンの青年。

 盗撮写真にもかかわらずなぜかカメラに向かって笑いながらピースサインをしている。

 別に格好がどうとかいうわけではないのだが、どことなく軽そうなイメージがある。

「別の高校に通っていたんだけど彼が卒業した中学で問題を起こしたんだって。そのせいで元々通っていた高校で退学になってこの学校に来たんみたいだよ」

「問題って何をやったのさ?」

「そこまでは残念ながら解らなかったよ」

 最後の一人は、目つきの悪い三白眼に眉間に刻まれた深いしわ。写真を見た瞬間目をそらしたくなってしまうほどだった。

 そして、私服であるこの学校でなぜか制服を着ている。が、制服によって受ける印象は真面目というよりもギャングかやくざのような雰囲気がである。

「彼だけは二年生、二年A組男子、秋村 源一郎。彼は西栄高校からの転校生。やっぱり何か問題を起こしたらしいね」

 西栄高校はここより少し離れたところにある難関校で入学出来れば胸を張っていいレベルの学校である。

「これで全員?」

「そうだよ」

 エナはデュオから写真を受け取りカバンの中に資料をしまう。

「私たち二人を合わせてちょうど五人。三人が了解してくれれば顧問の先生以外の条件を満たせる」

「じゃあ今すぐ行こう」

 デュオはエナの手を取り走り出す。

 エナは黙ってデュオに連れられて行った。



《七月 二十日 PM0:20》

「たのもー!」

 バンと音を立ててデュオが一年C組のドアを開けた。

 普通、こんな来訪者が来ればなんらかのアクションがあるのだろうが、周りの生徒達は華麗にスルーしていた。

「む……」

 デュオが相手にされずに少しむくれる。

 見回してみると長谷川は教室にいなかった。

 そのかわり砂山はいた。

 数人の生徒に囲まれて。

「無視してんじゃねえよ!!」

 周りを囲んでいた一人が威嚇するように砂山の机をたたく。

 それでも砂山は周りの様子が見えていないかのように、焦点の合っていない瞳をしていた。

「――っ、なんか言えよ。おらっ!!」

 そんな状況でもやはり砂山の瞳はどこも見ていなかった。


 まるで自分に降りかかる不幸から目をそらしているかのように。


「てめえのその態度が気に入らねえんだよ!!」

 再びその生徒の拳が振り上げられる。

 それでも砂山の目はその生徒を見ていなかった。

「デュオ――」

――止めて。

 とエナが叫ぼうとしたときにはすでに隣にいたはずのデュオの姿はなかった。次の瞬間、デュオの掌が先の生徒の拳を受け止め、教室中に高い音が響く。

「誰だてめえ!?」

 拳を止められた生徒は突然、間に入ってきたデュオに対して、驚きつつも怒りの矛先を向けた。

「これこれ、童ども、カメをいじめてはいけないよ。これで手を打ってくれないかい?」

 いつもよりふざけた口調でデュオはしゃべりその生徒に飴玉を握らせた。

「ふざけるな!! だれだよてめっ……ひっ――!」

 突然その生徒の様子が変わった。

 その視線の先でデュオが口調とは裏腹に恐ろしい形相をしてその生徒の腕を握っていたからだ。

「少し自重しようよ。でないと、ねえ?」

 ここでデュオがにやりと笑う。

「いたたたたた!」

 デュオの指がその生徒の腕にめり込み、その生徒の顔が歪んだ。

「わかった、わかったから放してくれ」

 その生徒が必死にデュオに懇願する。

 デュオが手を離すとその生徒は転げるようにして教室から出て行った。

「あ、あの、ありがとうございます」

 声のする方を見ると砂山がこちらを見上げていた。

「いつもこんな感じで殴られてるのー?」

「い、いえいえ。いつも大体こんな感じですけど殴られたのはこれが初めてです」

「ふーん」

 デュオがどこかほっとしたかのようにする。

「まあいいや。あなた、私達のグループに入らない?」

「ぐ、ぐるーぷ?」

「そう、グループだよ」

 そこでやっと、さっきまで会話には入れなかったエナが会話に入ってきた。

「ここでは詳しく話せないよ。ちょっとついてきてよ」

「え、ええ?」

 砂山はデュオにずるずると半ば引きずられるようにして教室をあとにした。

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