終戦の時
《九月 十六日 AM4:30》
「ほんとに攻めてこねえ。エナの奴すげーな」
外にいる機動隊は夜が明けてもなんの動きも見せていなかった。
その時ペンデはエナが男だと分かった後、デュオはエナが女のような容姿であることについて言っていた事を思い出した。
「エナが男であるのに対し、女の外見をもっているのはきっと神様がエナに男の心理も女の心理も全て理解できるようにするために違いないよー」
と。
思い出していると、別の生徒が屋上まで上がってきた。
「交代に来たぞ」
「はいよ」
ペンデはその生徒に双眼鏡を渡して建物の中に戻る。
そのまま寝ようかどうか考えたが、ここから寝ると六時に起きるのが辛そうなので起きていることにした。
《九月 十六日 AM6:10》
『ハイ、みなさんよく眠れましたか』
エナが体育館全体に覚醒を促している。
『今日は全員でここを撤退しようと思います』
体育館中から驚きの声が上がる。
「どうして撤退なんだ」
「納得できん」
辺りから不満の声が上がる。
『みなさん聞いてください』
エナが体育館全体に落ち着くよう促すが体育館の喧騒は一向に収まる気配がない。
エナが握ったマイクをデュオが奪う。
『喋るな!』
デュオが吠え体育館が静まり返った。
「さ、エナ続きをどうぞ」
「ん、ありがとうデュオ」
エナはデュオからマイクを受け取ると言葉を続ける。
『昨日の夜、私達は機動隊を追い返しました。しかしこのまま立て籠もると困ることがあります。例えば食糧です。今は私達が持ち込んだ食糧があります』
エナが体育館の一角を指し示す。
そこには缶詰などが積まれていた。
『今はあのように食糧があります。しかしあの食糧もこの人数がいればすぐになくなってしまいます。それに今回追い払ったことで向こうはこれを排除するためもっと大げさなものを使ってくるかもしれません。例えばブルドーザーで門ごと破壊するかもしれません』
体育館がまた騒がしくなるがデュオの人にらみでおとなしくなる。
『安田講堂事件を知っているでしょうか? あの事件は機動隊が出てきて鎮圧されてしまいました。力で築き上げたものは必ず力で崩されるのです』
エナが似合わない握りこぶしを振り上げる。
『必要なのは力を逃がすことなんです。だからこその逃走、負けるための逃走ではなく勝つための逃走をしましょう。そして――』
そしてエナは生徒達に向かって魅惑的にウィンクする。
『同じ逃げるならミステリアスに逃げましょう』
「エナは絶対自分の容姿を理解してやっているよな」
その様子をペンデは半ばあきれながら見ていた。
《九月 十六日 AM6:30》
塀の外には機動隊の生き残り(別に死んではいないが)が集まっていた。
『立て籠もっている生徒達に告ぎます。早く人質を解放しておとなしく投降しなさい。さもなくば、隊長の仇等々を含めて強制的に全員捕まえます』
その様子を、屋上からエナ、デュオ、テセラ、ペンデ、エクシの五人がいた。
他の生徒達はいない。
この場にいないという意味ではなくこの学校にいない。
「こりゃあちらさんだいぶキてるな」
「あれだけコケにして隊長をけがさせれば普通そうなるんじゃないですか」
「…………まだ中に連れ込まれた奴らが人質だと思っているのは滑稽だな」
「さて最後のお仕事、彼らをここに突入させれば終わりだよ」
エナがデュオにメガホンを渡す。
「……このためにデュオにだけ叫ばせていたのだな」
「そう、常にデュオ一人で喋らせることで一人しか喋っていないことに疑問を抱かせないんだよ」
「これで最後、みんなやるよ」
皆が覚悟を決めたようにうなずく。
そして最後の意味を込めデュオが大きく息を吸う。
『断る!!』
この反応は機動隊でも想像していたらしくあまり驚いていなかった。
『投降しないのなら力ずくでも』
『御託はいいからさっさとかかってきな。昨日から全部が失敗してるじゃないか』
「あとはデュオに任せて私達は脱出するよ」
デュオ以外の四人は体育館の中に入って行った。
『……そんなことを言って後悔しても知らないからね』
『戦争終結の条件はもう言ったでしょ。こちらの譲歩をそちらが断った以上、残っているのはどちらかが全滅することだけだよ』
『けが人が出てからじゃ遅いからね』
その時ポケットの中からバイブ音がする。
エナ達が逃げ切れた合図だ。
『体面上の礼儀はもういいよ。こちらがけがで訴えることはないし。遠慮なく来な』
『撃て!』
とたんロケット弾が飛んできた。
さて、僕のエガイタ物語もそろそろ終りに近づいてまいりました。
あと少しの期間、皆様お付き合いください。