不意打ちの夜
《九月 十五日 PM1:15》
「生徒達に体育館に逃げ込まれてしまった。誠に申し訳ない」
機動隊の隊長が隣に立っている教頭に話しかける。
落とし穴の罠で落ちた隊員を救助している内に生徒達には体育館に逃げ込まれ、体育館の門にもバリケードを張られてしまった。
その上、隊員達からは負傷者も出た。
「過去のことは悔んでもしょうがないでしょう。それより早くあの体育館を攻め落としたらどうです?」
「それが門にはカギがかけられ、入ることができませんし、かといって周りの壁をよじ登ろうとすると高圧電流が流れている有刺鉄線群があるし。体育館の屋上には見張りの生徒がいます。下手に突入すると集中砲火を浴びます。というかなんで体育館回りに有刺鉄線があるんですか」
「元々はありませんでしたよ。今回のために実行犯達が取り付けたんでしょう」
教頭が苦い顔をする。
教頭が苦い顔をした理由が痛いほどわかり、隊長も苦笑いを浮かべる。
「とにかくここは暗くなるのを待ちます。6:00に体育館の電源を落とし体育館側の明かりを消し。有刺鉄線の高圧電流を無効化。暗視ゴーグルをつけた部下達が突入します。それで決着です」
《九月 十五日 PM4:50》
「昨日は一応納得したがなぁ」
体育館の中はにぎやかだった。
簡単に言うと緩み切っていた。
「これはいくらなんでも緩みすぎだろ! 外には機動隊がずらりと並んでいるんだぜ」
「大丈夫、エナが言うには屋上に見張りさえ立てていればむやみに攻めてくることはないらしー。なにかが始まるのは夜、おそらく5:30から7:00までの時間帯に攻め込んでくるって言っていた」
「その情報は正しいのかよ」
「エナが言ったんだから間違いない」
はあ、とペンデがため息をつく。
「それで、件のエナはどこ行ったんだ?」
「さっきトイレに行ったよー」
「あっそう。て、聞いといてなんだけど何でエナの行動全てを知っているんだか……」
その疑問はそれ以上考えると怖い考えが思い浮かんでしまいそうである。
「まあデュオが変態なのはこの際置いといとぅえ――」
ペンデが言葉途中にして空中でコマのように回転する。
「誰が変態だー!」
デュオが放ったキックが見事にペンデの顎をとらえていた。
「変態に変態と言って何が悪い」
「ホモに変態とは言われたくないこの変態!」
「ほ、ホモじゃねえよ。大体それを言ったらデュオはレズじゃねえか」
「レズじゃないよ! 何の根拠があってそんなこと言ってんのさー」
「根拠も何もエナとの関係を見ていたらいやでもわかるって!」
「? 何の話ー」
「何って……デュオってエナのことが好きなんじゃ……」
「だからそれのどこがレズなわけ?」
好きであるという点に対して否定をしていないことを突っ込むことすらペンデは忘れていた。
「へ? いや、だって」
そんなかみ合わない会話を繰り広げているとエナがトイレから現れた。
男子トイレから。
「「「は?」」」
ペンデのみならずその場にいたテセラ、エクシも疑問の声を上げる。
「ん、どうしたの、皆?」
そんな空気を感じエナが質問する。
「エナー、ペンデが私をいじめてくるー」
デュオが目に涙を浮かべエナに泣きつく。
「……本当に?」
「うぉ、なんかエナから美少女が出しちゃいけない殺気を感じる。嘘、嘘だからな、いじめてなんかいない。デュオの単なる被害妄想だ」
「嘘だ、レズって言ったー!」
「え?」
今度はエナが疑問を口にした。
「どうしてデュオがレズってことになるの?」
(((あんただ、あんた)))
三人とも一斉に心の中で突っ込む。
「大体なんでエナは男子トイレから出てきたんだ」
「なんで、て、トイレに行ってきたからだよ」
「そうじゃなくて……」
ペンデが頭を抱える。
「俺が言いたいのは何で男子用のトイレにエナが入っていたのかっていう話だよ」
ああ、とエナはつぶやいて納得する。
「そんなの私が男子だからに決まってるよ」
「な」
「ん」
「…………だっ」
「「「てー!」」」
「三人とも最近会ったばっかりなのにずいぶんと息ぴったりだね」
「な」を言ったのがペンデ、「ん」を言ったのはテセラ、「…………だっ」を言ったのがエクシ、最後の「てー!」を三人で喋るという荒技にエナは大層感心する。
「その外見で男かよ!」
「微妙に失礼だよ……」
そうは言っても、ペンデ達に言わせればほおを膨らせて怒る姿はどっからどう見ても女子だった。
「だ、だってエナさん一人称が私じゃないですか」
「ああ、これは小さい頃、いとことデュオにこの一人称を強制され続けているうちにこの一人称で固定されちゃったんだよ」
ペンデ達三人は口をあんぐりと開けていた。
「それが俺をホモって行った理由の一つか?」
「当然ー」
「それでですか!」
いきなりテセラが手を打ち納得する。
「なにが?」
デュオがテセラに聞き返す。
「このチームに呼ばれた僕達三人は何で全員男なのかなって思っていたんです。二人とも女だったら残りのメンバーも全員女のほうが色々と上手くいくと思うのに。
最初は男手が足りないのかなって思っていたんですけど。あれはエナさんがデュオさんに浮気と疑われないようにとむぐっ」
エナがあわててテセラの口をふさぐ。
「(テセラ、それは間違ってでもデュオにだけは言わないでよ)」
「(何でですか)」
エナが小声でテセラに囁きそれにつられてテセラも小さい声で聞き返す。
「(実を言うと私は小さいころからずっとデュオに片思いしてるんだよ。でもそんなこと本人には恥ずかしくて言えないよ)」
「(片思いっていうのはエナさんの勘違いだと思いますけど)」
「そんなことよりエナ、早く作業済ませちゃおう」
これ使うんでしょ、と言ったデュオの手には大量のコード類と大型の照明があった。
「あ、そうそう皆も運ぶのを手伝ってよ。それ私一人だと重すぎて」
「なんだよそれ」
「罠だよ」
「罠ぁ?」
皆の周りにはてなマークが浮かぶ。
「人間だれしも新しく手に入れたものは使いたくなるものだよ」




