機動隊 その4
《九月 十五日 AM11:40》
「攻めてきませんねえ」
「ああ、来ないな」
二棟二階の窓からテセラとペンデが顔をのぞかせていた。
「二十分もじっとしたままですね」
「こっちは何もせずにただいるだけなのにな」
二棟には罠らしい罠は張られていなかった。
ただ生徒達がそこにいる、ただそれだけだった。
「心理的な罠ってやつだな。本当は何もないのに一度罠に引っ掛かった奴はまた何か罠があるんじゃないかと思って恐れ、手を出すことができずに尻込みする」
「でも、本当に何か仕掛けておいた方がよかったんじゃないですか? 相手が手を出しづらいのは一緒なんですし」
「あのなぁテセラ。もし本当に罠を仕掛けておいてもしそれが向こうに見つかると向こうは、ああ、アレが向こうの仕掛けた罠なんだな。アレに気を付けて行こう、という気になるだろう。だから何も仕掛けずにおくのさ。何も仕掛けなければ何が仕掛けてあるかなんて絶対にばれないからな」
「なるほど、ペンデさんも考えたりするんですね」
「今のはすこし傷ついたぞ、俺」
テセラはバックから乾パンを取り出しかじり始める。
「ペンデさんも要ります?」
「貰おう」
周りでも他の生徒達も早めの昼食に入っていた。
《九月 十五日 PM0:10》
稲穂高校の近くにある定食屋、そこで機動隊の隊長と副隊長は食事を取っていた。
「思っていたより手こずりますね。当初の予定だともう生徒達を体育館まで追いつめて生徒達は籠城戦を強いられるはずだったのに」
「それだけ生徒達のリーダーが優秀なんだろう。現に彼らの罠で我々は攻めあぐねている」
戦線が硬直しているため、機動隊は昼の時間に交代で昼食を取っているのだ。
「昼休みが終了したら攻めよう。このままの状態でいてもらちが明かない」
「そうですね。結局罠も見つかりませんでしたし」
「頭上にだけは警戒が必要だな」
そう言って隊長は食べていたAランチをかき込んだ。
《九月 十五日 PM0:30》
「状況に何か変化は?」
「特に何も」
「そうか……」
そう言うと隊長はマイクを持ち口に近付けた。
『全員突撃!』
その命令で機動隊の面々は声一つ上げずに突撃していく。
すると二棟前にいた生徒達はすぐに一棟の方へ逃げて行ってしまった。
『隊長、生徒達が一党へ向けて逃げていきます』
「……どういうことだ?」
罠があるならそれで迎え撃ってくるはずだ。
『二棟に罠の類は一切ありません』
「……やられたな。罠を置かずに時間稼ぎをするのが目的だったのか。……一棟前に攻め入れ。塞がれてはいると思うが一応二棟に入って、渡り廊下の方を確認。二人まわしとけ」
それだけ言うと隊長はマイクを机に置く。
(大丈夫だ。一棟からあとは渡り廊下で逃げることはできない。上からの罠は無いはずだ)
隊長はまるで自分に言い聞かせるように小さな声でつぶやいた。
だがそのつぶやきは何かあるのではないかという疑心暗鬼な状態を如実に表していた。