機動隊 その2
《九月 十五日 AM10:40》
「退けー、退けえー」
生徒達は開戦そうそう苦戦を強いられていた。
何しろ火力が圧倒的に違う。
こちらが机やいすで造ったバリケードの後ろに隠れガスガンを撃つのに対し、機動隊はプラスチックでできた盾の後ろから暴徒鎮圧用のゴム弾を撃ってくるのだ。
「安藤がゴム弾に当たって気絶した!」
「田中、安藤を引きずって本陣まで戻れ」
生徒側の陣営には叫び声と悲鳴が入り混じったような声が上がり、生徒達は徐々に後退していた。
そんな中、機動隊の陣内では機動隊の隊長と副隊長が会話していた。
「なんだか思っていたよりあっさり退きますね。手ごたえが無いったらありゃしない」
「おい、気を抜くなよ」
「私達を馬鹿にしやがった罰です。ざまー見ろ」
どうも先ほどメガホンで会話していたのは彼女らしい。
「だって奴ら、ろくな反撃もせずに逃げて行きますよ。これは勝ったも同然でしょう」
隊長はこの副隊長をそれほど嫌いではないがこんな風にすぐに油断するのはあまり良く思っていない。
「……まあ若い女性だからなのかもしれないが」
「何か言いましたか?」
「なにも」
隊長は副隊長にばれないように小さくため息をついた。
そもそも、若い女性が副隊長だと機動隊も盛り上がるかも、という偉い人の考えで選ばれた彼女に何かを期待する方が間違いかもしれない。
「まあでも進行を止める理由も無いからな」
機動隊は隊長の命令で進み始めた。
そして機動隊の先頭が三棟の前についたときにその事件は起きた。
「煙幕用意!」
そんな掛け声と共に三棟二階の窓に生徒達がずらっと顔を出した。
「投下!」
そして機動隊の視界は白く染まる。
「前が見えない!」
「ゲホッ、チョークの粉だ」
「ぎゃあ、目が、目がぁぁぁ」
生徒達が落としてきたのはチョークを粉々に砕いて造った煙幕だった。
だが生徒達の反撃はそれだけでは終わらない。
「第二波ぁぁ」
今度生徒達が現れたのは三棟の屋上だった。
「投下!」
そして降ってきたのは掃除道具。
箒、箒、チリトリ、モップ、箒、雑巾、バケツ、たわし、スポンジ、チリトリ、箒、ゴミ箱。
次から次へと降ってくる。
中にはゴミ箱の中のゴミをぶちまける者もいた。
もうすでに機動隊はパニックを起こしていた。
反撃するはずがない、と思っていた者からの反撃が機動隊の面々の精神にもダメージを与えているのだ。
「たた、た、隊長大変なことになりましゅた!」
「落ち着け、言葉を正しく喋れてないぞ」
いずれはこんなことが起こるだろうと思っていた隊長は副隊長ほどこの事態を深刻には思っていなかった。
(むしろ自分たちがゆるみきっている、というのを実感できたのが本物の戦いでなくてよかったと思うべきだろう)
そう考えるとむしろ彼らに感謝すべきだろうか? という考えが隊長の頭をよぎる。
「ででで、でも。どうしたら」
「とりあえず全員門まで下がらせよう。態勢を立て直して、今度は待ち伏せやトラップに気を付けて慎重に進もう」