機動隊
《九月 十五日 AM6:10》
「ここは稲穂高校の正門前です。この高校では昨日から生徒達のグループが立て籠もっています。学校側は今朝、機動隊を呼び、これを鎮圧しようとしている模様です」
「あ、いたいたー」
その時正門にあるバリケードの向こうから顔を出したのはデュオだった。
「あなたは立て籠もっているグループのメンバーですか?」
それを見たテレビレポーターがすかさずデュオに声をかける。
「そー、リーダーのデュオです」
「えー、ではデュオさん。いくつか質問してもよろしいでしょうか?」
「いいよー。私はそのために出てきたんだし」
デュオから承諾を得られるとマスコミのレポーターはこれ幸いとばかりに質問を始めた。
「デュオさん達はなぜ立て籠もろうとしたのでしょうか?」
「私達の部を学校に認めてもらうため」
レポーターの言葉にデュオはさらりと答える。
まるで質問内容が解っていたかのように。
「体育館の中には人質となっている生徒達がいると聞いたのですが本当でしょうか?」
「まぁ、本当かなー」
人質と言うよりは共犯者に近い気がするが、と、デュオは考えつつも答える。
「機動隊に対する今日の戦術はどうするのでしょうか」
「てったーい」
「へ?」
「だからー。撤退」
周りにいた人たちが皆唖然とする。
「逃げる……んですか?」
「逃げるんじゃなくて撤退。同じ土俵の上で戦ったらいい装備を持っている機動隊のほうが有利になる。だから私達は私達が有利になる場所まで下がるんだー」
「じゃあ有利になるところまで撤退すれば戦えるのですね?」
「そう言ってたねー」
「じゃあ下がった後はどうするのでしょうか?」
言っていた、というデュオの言葉にレポーターは内心首をかしげていたが気にせず質問することにした。
「うーん、それを言っちゃうと作戦がばれちゃうからここでは言わない。まあ見てからのお楽しみ、ということにしておいて」
それを言うとデュオはバリケードの向こう側にその身を躍らせた。
「あ、デュオさん!」
「これ以上はちょっと話せないなぁ。じゃあね」
デュオが兵の向こうに消え、唖然とした報道陣が取り残された。
《九月 十五日 AM10:20》
「こんな時間にやっと来るとはずいぶんと重役出勤だな、機動隊の連中は」
「機動隊のことはもう吹っ切れた?」
三棟屋上でペンデが双眼鏡を使い西門を見ているとそこにエナが登ってきた。
「おう、もう完全に……とはいかないが、まあ吹っ切れたぜ」
「そう」
ペンデの言葉に対しエナはそっけない言葉で返す。
しばらくの間沈黙が続くが、その空気に耐えられなかったかペンデが口を開く。
「これから体育館まで撤退するんだよな」
「まあ、撤退するにはするんだけど、多少抵抗してからね」
「どうしてだ?」
ペンデはエナの顔を不思議そうに見つめる。
「向こうにこっちがたいしたことはない、という風に思われないためだよ。警戒してもらった方がいろいろとやりやすいからね」
「なるほどな」
ペンデは再び双眼鏡を再び覗き始める。
「で、どうするんだ?」
「彼らには上を取られているということの恐ろしさを知ってもらうよ」