思い出の夜
《九月 十四日 PM6:20》
「おい」
それはペンデの声だった。
「こんなに呑気にしてていいのかよ」
ペンデの視線の先には今日の勝利をたたえ合う生徒達の姿があった。
「なにが?」
「機動隊が来るんだろ。いつ来るか解らないんだし戦闘準備はいつでもしておくべきだろ」
「いつも気を張っていたらもたないよ」
「だけどなぁ」
それでもペンデは未だに不安そうである。
「機動隊は面倒くさがって夜には来ないよ」
「……確かに。今の公務員は定時じゃないと働かないからなぁ」
もっともな答えを聞くとペンデは安心したように人ごみの中へと戻って行った。
「あ、エナ。ペンデと何話してたのー?」
「なんでもないよ。それより体育館の隅に置いたクラッカーと缶詰を持ってきてよ。ご飯にしよう」
そして、体育館全体での食事が始まった。
クラッカー四枚と缶詰一つの決して多くない食事。
しかし、そこにいた生徒達全員は思った――――
――――こんなに楽しい食事は久しぶりだ、と。
《九月 十四日 PM10:00》
食事が終わり、することもないので時間は早いが皆もうすでに寝付いていた。
敷布団などというものはなく、あるのは一人に一枚、エナ達が配った毛布だけだった。
昼の疲れのせいかまわりの生徒は割かしすぐに寝付いていたが、ペンデは毛布をかぶりながらも寝付けずにいた。
「そろそろ交代の時間だな」
思い出したようにつぶやくとペンデは布団から起き上がると舞台の裏にある階段を上り、体育館の屋上に向かう。
夜中は当番を決めて二人ペアで見張りをすることになっていた。
交代は互い違いに行うため、もう一人はすでに来ている。
「後は頼んだぞ」
屋上に上がる途中で交代するはずだった生徒とすれ違い、双眼鏡を手渡される。
そして、屋上に上がってペンデが見たのは、優しげな微笑みをたたえたエナだった。
「やあ、ペンデ」
「ペアってエナだったのか」
「そうだよ」
ペンデはエクシの横に腰を下ろした。
しばらくの間二人とも無言だったがぽつり、とエナがつぶやいた。
「やっぱり、機動隊と戦うのが怖い?」
「……ああ、怖い」
二人の間に再び沈黙の空気が横たわる。
「あの時は、中学に立て篭もった時は俺たちがあんなにあっけなく負けるもんだとは思ってなかった。必ず母校を残してやる、ってみんなで意気込んでた。なのに、あっけなく負けた」
「…………」
「なあエナ」
ペンデが体を抱え込むようにして小さくなる。
「俺達は本当に勝てるんだろうか」
その手は小さく震え、ペンデはそれを隠そうとするように体をより強く抱え込む。
「大丈夫」
その言葉で顔を上げたペンデの目にはエナがとても輝いて見えた。
「今度は私達も一緒にいるから」
まるでペンデが抱えていた闇を溶かすかのように。
「君一人が全部背負わなくてもいいんだよ」
僕の小説はWordに書いたものをコピー&ペーストして投稿していて、行と行の間はめったに開いていませんが、他の人の小説を読むとところどころ行を開けています。
そう考えてみると、Wordで見ていた時は間がなくても見やすい(というより間がいくつもあると見づらい)のですが、ここで見てみると間がなくダーと書いてあると結構見づらいと感じたので試しに開けてみました。
こうすると見やすいかどうかの感想を聞かせてもらえると嬉しいのですが…………
開けるのはいいがもっと少なくていい、または多くていいといったことも聞かせてもらえるとありがたいです。
今まで投稿した全ての話を書き直すのはかなり骨が折れそうなのでしませんが、特に見づらいという苦情が来ない限りはこれからの話はところどころに行と行の間を入れていこうと思います。