表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
30/43

体育館での説得 その3

《九月 十四日 PM4:25》

 エクシが教室のドアを開けるとそこには予想通りの人物が立っていた。

「秋村か。お前も犯人グループの一人だったのか。いや、それよりどうしてここがわかった」

「…………うちのブレインが教えてくれた」

 そこにいた鶴田は犬歯をむき出しにしてにやりと笑った。

「まあどうしてここに来れたかなんてどうでもいい。せっかく骨のありそうなやつが来たんだからな」

 そして、鶴田はその笑顔をいきなり消した。

「勝負だ」

 その瞬間エクシが床を蹴り一気に鶴田との距離を詰める。

 勢いに乗せ、強烈な蹴りが放たれるがその蹴りは鶴田が拾い、構えた机によって防がれる。

「元警察官をなめるなよ」

「…………」

 エクシは蹴り足を引き床につけ、ボクシングで言うところのジャブを連続で放つ。

 しかしその拳はことごとく鶴田の持つ机によって阻まれる。

「警察官に負けることは許されん、だからその場にあるものを何を使ってでも必ず勝たねばならない。お前に負けることもできん」

「…………別に警察官は関係ないだろう。全国の警察官のほとんどは鶴田教師のようなことはできまい」

 エクシは姿勢を低くして力を溜め体のばねを使い、強烈なひじ打ちを放つ。

 そのひじ打ちは鶴田が構えていた机の台の部分を割り、弾き飛ばした。

「甘いぞ」

 だが、その腕は盾を破られることを予想していた鶴田に掴まれていた。

「吹っ飛べ」

 投げ方も何もない、ただ単純につかんだ腕を引っ張り投げ飛ばす。

 それだけでエクシの巨体は教室の隅まで投げ飛ばされた。

「…………っ!?」

 遠のきかけた意識を、頭を振って戻したエクシの目に飛び込んできたのは大量の机だった。

 とっさに転がって避けるとさっきまでエクシのいた場所に破壊音を響かせながら机が降ってくる。

「そら、そら、そら! 避けないと潰されるぞ」

 原因は鶴田。

 鶴田が周りにある机を手当たり次第に投げてくるのだ。

(…………向こう側の机がなくなるまでしのぎ続けようか)

 否、出来るはずがない。

 鶴田は机を投げては別の机があるところに移動している。

(…………こちらも机を投げ返すか盾にしようか)

 それも無理。

 机なんて変な形をしている物をまともに投げるのは至難の業だ。

 盾にしても、その盾と同じ質量をもつ物がいくつも飛んでくるのだ、防ぎきれるとは思わない。

(…………相手はリーチというアドバンテージを生かしたいはず。なら接近戦を嫌う。なら自分の近くに全ての机が集まるのを待つか)

 馬鹿なことだ。

 一か所に留まり教室中の机が全て飛んでくるまで耐えきれるはずがない。

(…………ならば)

 手近にあった机を威嚇として投げる。

(…………賭けになるが仕方がない)

 逃げるばかりだったエクシが反撃してきたことに意表を突かれた鶴田は一瞬動きを止めるが、その机は鶴田の横にぶつかるだけだった。

 だが、机に気を取られたことにより生じた一瞬の隙。

 その隙が生まれた瞬間エクシは鶴田に向かって全力で距離を詰める。

 ただひたすらに前に進むことだけを考えて。

「こざかしい!」

 エクシの接近に気付いた鶴田はエクシに向けて机を投げる。

 連続で投げることを重視していた今までとは違い、一投だけ、

 全力で。

「…………ぁぁぁぁああああああああああああ――――」

 最早、自分が何を叫んでいるのか、それすらエクシには解らなかった。

 ただ全力投球で飛んでくる机に対して全力でショルダータックルをかます。

 肩からすさまじい音が聞こえ飛んできた机がはじかれる。

 しびれて動かない肩を無視してエクシはひたすらに突き進み、ついに到達した。

 鶴田の目の前へ。

「なっ!」

 投げられた机を無視して走ってくる人影に鶴田は驚愕する。

 もちろん近づかれただけで鶴田の負けが決まるわけではない。

 遠距離からの一方的な攻撃ができなくなっただけだ。

 鶴田はエクシを迎撃するために裏拳を放つ。

 しかし、本当に驚愕するのはこれからだった。

「…………ぉぉぉぉおおおおおおおおおおおお――――」

 エクシは鶴田の腕、肩という順に足を掛け、鶴田の体を駆け上がった。

 そして、驚愕する鶴田の顔面に向かって重力に従い踵を思いっきり振り下ろした。

 大音量が響き鶴田の巨体が地に伏す。

「…………これでしばらくは起き上がれないだろう」

 エクシは教室に背を向け教室を出た。

(…………自分は変われないのであろうか)

 西栄高校にいた時、親友が起こそうとしたことが正しいとは思えなかった。

 だから止めようとした。

 結果、喧嘩沙汰となり、エクシは親友をその手で叩きのめした。

 本意とは違ったが、結果として病院送りになった親友は計画を断念せざる負えなくなった。

 その代償としてエクシは転校を余儀なくされたが。

(…………あの頃から何も変われずにやはり力でしか解決できないのだろうか)

 そうなると親友の考えの方が正しかったのだろうか、と。

 殺気。

 殺気を背に受けとっさにエクシは振り向き防御態勢を取る。

 次の瞬間、強烈な蹴りを受けエクシの体が吹き飛んだ。

「…………馬鹿な」

 エクシが見上げるとそこには鶴田の巨大な影があった。

「…………気を失ってなお、戦い続けるというのか」

 どんな化物だ、と思いながらも必死に転がると、さっきまでエクシの頭が存在した場所を巨大な足が踏みつける。

 鶴田の目は焦点が合わずに辺りをふらつき、人影をとらえるとそこを攻撃してきた。

(…………まず、い)

 エクシの体は先の戦いと不意打ちによってほとんど動かない。

(…………このまま戦い続けていると負ける)

 そう考えながら転がりながら逃げ回っていると背中に固い感触。

 どうも逃げ回っている内に壁際に追い詰められたようだ。

 気を失った鶴田は拳を握り、エクシに向けて振り上げる。

(…………やられる)

 エクシは来るべき衝撃を予想し目をつぶり、体を縮こまらせる。

 しかし次に聞こえた打撃音はエクシの体からではなかった。

 エクシはゆっくりと目を開け轟音のした場所へと目線を移動させる。

 そこには殴るために腕を振り上げたため、無防備になった鶴田の脇腹へ叩き込まれた足があった。

 次の瞬間、鶴田の頭に手が、膝のところに先ほど蹴りを入れた足が添えられ、鶴田の巨体が横に半回転した。

 そのまま地面に落ちた巨体は今度こそ動かなかった。

「…………デュオか」

「エナに作戦に支障が出そうになったら止めるように言われたんだー」

 エクシは目の前に倒れている巨体に一瞬目を移し、またデュオへと戻した。

「…………強いな」

「昔から喧嘩ばっかりしていたからねー」

(…………喧嘩慣れというレベルではないと思うのだが)

 だが当のデュオはそんなこと気にしていないようで、

「早く戻るよー」

 と言った。

「…………体が動かない」

 デュオは少しだけ考えた後、顔を上げた。

「分かった、私が運んであげよー」

「…………どうやって」

「こうやって」

「…………!?」

 次の瞬間エクシの体はデュオによって丸太を担ぐように肩に担がれていた。

「じゃあ行くよー」

 驚くエクシを無視してデュオは教室を出た。


評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ